第3話
【私】は夢を見ていた。
「ねぇアレクシス様、私のことを愛してる?」
「もちろんだ。俺にとって君は〇〇だからな」
夢の中のアレクは何故か私ではなくまるでそれしか価値がなくそれだけが重要であるかのように強調してその単語を口にする。
そのことを聞いた【私】は少し哀しそうな表情を浮かべながらも笑顔でアレクを見つめていた。
「そう…とても嬉しいわ」
どこか哀愁が漂う雰囲気を纏っていても【私】は美しかった。
また場面が変わり今度は幼子が現れる。
どこかで誰かの泣き声が聞こえる。
【私】はシンプルだけど、清潔感を損なわない白いワンピースに金の髪には対照的な黒いリボンで軽く結っているが前髪だけはまるで何かを隠すように伸ばされていた。
(――どこかで誰かが泣いているの?)
そんなことを考えながら幼い私は木を避けながら声がする方に歩いて行った。
そしていつも何かある度に訪れる丘にたどり着くと私の赤みがかった瞳を捉えたのは、可愛らしい顔付きだけれど、どこか高貴さを感じさせる黒い髪と紫の瞳を持つ少し年上っぽい少年が膝を抱えながら泣いている姿だった。
私は恐る恐る少年に話しかける。
「どうして泣いているの?もしかして誰かにいじめられた?」
そう私が訊くと少年は首を横に振った。
「いじめられていないけど…心配してくれてありがとう」
「良かった。私はこの瞳のせいでよくいじわるされるからそうかと思っちゃった」
そう私がどこか自虐的に言うと、少年は私の顔を覗き込むようにして長く伸ばした前髪を除けながらこう言った。
「どうしてこんな綺麗な目なのに隠してるの?」
「綺麗なんかじゃないわ。呪われているの!まるで血みたいな色だってみんな言うわ!」
「そんなことないよ。まるで夕陽みたいに綺麗な色だよ」
「そんなこと初めて言われた」
そうどこか照れ臭そうに私は顔を背けながら彼に答えた。
「私こそありがとう」
「そんなことよりなんであなたはどうして泣いていたの?」
彼を慰めようとして反対に自分が彼に慰められていたため彼の方こそ泣いていたことをつい失念していた。
「僕はただ家で辛いことがあっただけだよ」
彼が言うには貴族の生まれで跡取りでもあるらしく家での教育が辛くなるとよくこの場所に訪れるらしい。
私もこの目のせいで敬遠されているが一応貴族令嬢だったため彼の気持ちが少し理解できた。
「じゃあ私と友達になってよ。そうしたらあなたの愚痴を聞いてあげる」
「愚痴って…まあいいか、じゃあ僕達は今日から友達だ。僕の名前はアレクシスだ。君の名前は?」
「私の名前はアナスタシアよ。友達なんだからアナって呼んでも良いわよ」
「そうか…アナか。名前も響きが綺麗で君にぴったりだね」
「あなたの名前も似合っているわ」
これは同年代とあまり関わりがなかった私にとって無自覚ながらも淡い恋心を抱かせるに足る出来事だった。
(――そうだ。これが【私】とアレクの出会いだったんだわ。どうして忘れていたのかしら)
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