第2話

どうやら話を聞く限り私とこの目の前で騒ぎ立てていた青年は、幼馴染み兼婚約者?らしい。

何故疑問系なのかというと私の記憶は溺れて昏睡状態だったため記憶の混濁が見られるようなのだ。

「君が目覚めてくれて本当に良かった。もし君を喪っていたら俺は生きていけないところだった!」

またよく分からない妄想劇場を繰り広げようとした青年いや婚約者様に内心呆れを感じながらも向き直ることにする。

「すみません、婚約者様。ここはどこでどんな状況なのか教えていただけません?」

「婚約者様?何故名前で呼ばない。以前はアレクシスと呼んでいたじゃないか!もしかして落ちた際に頭を打ったのか?」

そう言って慌てはじめる彼を落ち着かせるべく私は口を開いた。

「医師に診てもらって少し記憶の混濁があるだけと言われたでしょう?もしかしたら一晩眠れば記憶が戻っているかもしれないではありませんか!」

なぜ当事者でありこの場で一番記憶がないことを嘆きたい私が自分よりも年上の男性を落ち着かせないといけないのかしら。

(アレクシス、なんだか呼びにくいからアレクでいいか。心の中で呼ぶだけだし)

「本当か?本当に明日になったら前みたいに笑顔で俺の名前を呼んでくれるか?」

「ええ、もちろんですわ。アレクシス様」

そうアレクを安心させるために作り笑いで応えた。

アレクを安心させるためとは言え、全く根拠がないことを約束してしまった。

医師が言う通り、記憶が戻るかもと言われただけで絶対に戻るなんて言われていないが、戻らないと断言もできない状況なのは確かだ。

(それにあの人を哀しませるのは本望ではないわ)

そんなことを思いながら記憶が戻ることに期待して私は眠りについた。

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