「かめはめ波」を50年練習したおじさん、娘を守る。
エモアフロ
「かめはめ波」を練習し始めてから50年が経ちました
私の名前は、佐藤秀文。
55歳の冴えないハゲオヤジ。
妻と娘1人を持つ、一家の大黒柱である。
そう言うと、聞こえは良いかもしれない。
しかし、妻からは「稼ぎが薄い!」だの「臭い!」だの、毎日暴言を吐かれる。
娘は年頃の大学生だからか、口も聞いてくれない始末だ。
家だけでなく、会社でも扱いは同じである。
私は、会社では係長という役職についている。
とはいえ、係長というのも名前だけで、社会のIT化について行けず、パソコンを扱うことすらままならないのが現状だ。
そのことを周りも理解しているようで、部下からは命令を聞いてもらえず、冷たく扱われているのだ。
家と会社の両方で冷たく扱われる私に、希望はない。
ただ耐えしのぐだけの毎日である。
しかし、そんな私にも一つだけ頑張っていることがあった。
それは、5歳の頃から毎朝続けている”とある”特訓である。
その特訓とは、5歳の頃に読んだ漫画から影響されたものだ。
その漫画は、7つ集めることで神龍に願いを叶えてもらうことが出来るドラ〇ンボールという玉を巡って、主人公が宇宙人と闘う日々を描いた物語である。
そして、私はその漫画に心を打たれた。
当時少年だった私は、主人公が強さを追い求める姿に憧れ、自分もこうなりたいと思ったのである。
そして、その頃から特訓を開始した。
特訓の内容は、作中に出てくる”とある”技の練習である。
当時の友達からは、「漫画の技を現実で使えるわけないだろ」と馬鹿にされた。
実際、その通りである。
漫画に出てくる技を、現実で使えるわけがない。
そんなことは分かっている。
でも私は、その漫画の主人公に憧れ、この主人公のようになりたい、と本気で思ったのである。
だからこそ、友達に馬鹿にされようが、親に頭おかしいと思われようが、ずっと続けてきた。
いつしかそれは習慣化し、そろそろ50年たつ今でも、毎朝特訓をしているというのが現状だ。
そして、今日もいつもの特訓場所に赴く。
場所は、家の近所にある廃ビルの屋上。
特訓するには、大きな声を出さなければならないので、大声を出しても迷惑にならない場所ということで、近所の廃ビルで行っている。
服はスーツ姿。
もう私も歳なので、長時間特訓をすることはできない。
特訓は10分程度で終わるので、汗をかくこともない。
終わり次第そのまま会社へ向かうため、スーツ姿なのである。
実は、今日の特訓を楽しみにしていた。
理由は、今日で特訓を始めて50年だからである。
私が愛して
つまり、特訓を始めて50年たった今日なら、もしかすると、この技を撃てるかもしれない。
そう思って、年甲斐もなくワクワクしているのである。
期待を胸に、私は廃ビルの屋上から外に身体を向ける。
まず、最初の構えが重要だ。
この技を撃つとき、撃つ威力に耐えられるように足をしっかり開き、支えなければならない。
また、正面を向いて足を開くのではなく、左半身を前、右半身を後ろにして、半身だけ前に出すように構える。
そして、この次の手順が最も重要になってくる。
この技は、言葉と身体の動きによって、体内の潜在エネルギーを溜めて、放つ合わせ技だ。
ありったけの気持ちを込めて言葉を言わないと発動しないし、その上で一つでも身体の動かし方の手順を間違えても発動しない。
この50年の気持ちを込めて、私は全身全霊で挑む。
「か~~~~~~~~!」
最初の言葉を口に出す。
その言葉には、50年分の気持ちをのせる。
それと同時に、両手首を合わせて手を開く。
そして、作ったその両手を身体の前方から右腰のあたりまで、ゆっくり持っていく。
「め~~~~~~~~!」
右腰まで、両手を持って行っている最中に次の言葉に入る。
この際、目線を撃つ方に向けたままにしておくことが重要だ。
確認のために手に目線を向けてしまうと、撃つ方向が定まらなくなり、気が逸れてしまうためである。
そして、しっかりと右腰のあたりに両手を溜め終えた。
「は~~~~~~~~!」
「め~~~~~~~~!」
この段階にくると、もう身体への意識より精神への意識の方が重要だ。
己の中にある、ありとあらゆる気持ちをこの技にこめる。
その気持ちの中にあるのは、「強くなりたい」という一点のみだ。
これまで、辛い人生だった。
学生時代は恋人どころか友達もできず。
勉強頑張って大学を出たのに、就職は上手くいかず。
なんとか決まった会社では上司に怒られる毎日。
なんとか結婚しても、妻には馬鹿にされる毎日。
娘には口もきいてもらえない。
会社の部下には無視される。
本当に辛い人生だった。
だが、ここで折れたくはなかった。
強くなりたい。
それは、5歳の頃から思ってきた強い気持ちである。
漫画の主人公のように強くなりたい。
漫画の主人公のように敵を倒したい。
漫画の主人公のように皆を守りたい。
私は、主人公になりたかったのだ。
その思いで、50年間毎日特訓を続けてきた。
この思いの強さなら誰にも負けない。
そんな、ありったけの気持ちをこの技にこめる。
そして。
「
両手を勢いよく前に出し、前方の空に向ける。
その瞬間。
私の両手から、光の光線が放たれた。
勢いよく発射された光線。
私は、その威力に耐えるように、足を踏ん張る。
その光線はどこまでも続き、空の雲を突き破る。
「や……やった」
私は、ペタリと、その場に尻もちをついた。
私はその日、「かめはめ波」を撃てるようになったのだった。
ーーー
仕事中、まったく集中することが出来なかった。
上の空の私を、上司は叱り、部下は白い目で見てくるが、それどころではない。
なんてったって、「かめはめ波」を撃ててしまったのだ。
まさか撃てるとは思っていなかった。
「かめはめ波」は漫画の技であり、空想の産物だ。
なぜ撃てたのか、自分にも分からない。
しかし、とてつもない喜びがあった。
自分が今までやってきたことは間違っていなかった、と思えたからである。
正直、おじさんになってまで何をやっているんだ、という気持ちはあった。
周りの目が痛かったし、恥ずかしかった。
それでも、5歳の頃に夢見た主人公を諦められなかったのだ。
その結果、撃ててしまった。
私は、おそらく強くなっただろう。
こんな小さな会社にいる、私を蔑む上司や部下は、一瞬で塵に出来るだけの強さがある。
なんなら、人類最強になってしまったのではないだろうか。
急に、自分の中に全能感が湧く。
そして、顔は二ヤけ、笑いが止まらなくなってしまう私。
そんな私を、他の社員は気持ち悪そうな目で見ていた。
「佐藤係長~!」
すると、後ろから誰かに呼ばれた。
聞き覚えのある声だな、と思って振り返ると予想通り、サラリーマンのくせにピアスを開けた、軽薄そうな見た目をした若い青年がいた。
彼の名前は、榎本和樹。
3年前くらいに入社して私の部下になった、若手社員だ。
会社の女性社員に片っ端から手を出している色男との噂だが、私の知るところではない。
「なんだ、榎本」
返事をすると、榎本はニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべながら、私を見下ろす。
「今日の係長、なんか上の空っすね~」
上司に対しての発言とは思えないその言葉に、私はやや苛立ちを覚える。
しかし、榎本から私に話しかけるとは珍しい。
一体、何の用だろうか。
すると、榎本は自分のスマートフォンを操作して、私に見せてきた。
「ちょっと、聞きたいことがあるんすけど~。
この
そう言って見せてきたのは、飲み会の現場で榎本と一人の女性がツーショットを撮っているような写真だった。
そして、それは良く見ると……。
「なっ!
これは家の娘じゃないか!」
榎本の隣に写っているのは、娘の
写真では、榎本の手が風夏の肩に回されている。
すると、榎本は俺のリアクションを見て、二ヤリと汚い笑みを見せる。
「あ、やっぱりそうだったんすね~。
俺の働いている会社名を言ったら、お父さんと同じ会社だって言うもんだから、ちょっと気になったんすよ~」
言いながら、スマートフォンをしまう榎本。
最悪だ。
社内で女性社員に手を出しまくっていると噂の男が、風夏と接触していたとは。
今すぐにでも、風夏と縁を切らせなければ。
榎本は、俺の目付きを見て、俺が何を考えているか察した様子。
そして、余裕の表情で俺を見下ろす。
「それで。
明日の休み、風夏ちゃんとデートすることになったんすよ~!
佐藤係長をお義父さんと呼ぶ日も近いかも知れないっすね~」
「なっ……!」
それだけ言うと榎本は身体を翻して、他部署の方へと歩いていく。
「ま、待て!」
焦って大声をあげて呼び止めるが、榎本は無視してどこかへと行ってしまった。
私は、一人その場に佇み、周りの社員にまた白い目で見られる。
しかし、周りの目など気にしている余裕はなかった。
娘があの軽薄男の毒牙にかかるかもしれない。
その事実のせいで、「かめはめ波」を撃てるようになった喜びなど、どこかへといってしまったのだった。
ーーー
私は、意気消沈とした状態で帰路を歩く。
家に帰宅すると、キッチンで妻が料理を作り、リビングのソファでは、風夏が誰かと電話をしているところだった。
「えー和樹君もそう思ってたのー?
私も私も~!」
そんな楽しそうな会話が聞こえてきた。
そこで、私は違和感を覚えた。
和樹君……?
その瞬間。
先ほど話していた榎本の名前と同じことを思い出す。
私は、気づいた時には我を忘れていた。
「風夏!!」
思わず、風夏に対して大声を出す。
風夏はビクッとして、驚いた顔でこちらを見る。
そして、慌てた様子で携帯に話しかける。
「ご、ごめん、和樹君。
お父さんが、帰ってきちゃった。
え?
あ、うん分かった。
明日、楽しみにしてるね!」
通話を終えた風夏は、こちらをギロリと睨む。
そして、イライラした様子で口を開いた。
「なによ!
今、話してるとこだったんだけど!
お前のせいで、切れちゃったじゃない!」
当然のように、私のことを「お前」と呼んでくる風夏。
普段であれば、「父親に向かってなんだその呼び方は!」とか言うところかもしれないが、今はそれどころではない。
「風夏。
お前、榎本と会ったのか?」
すると、私の質問を聞いて、訝しげな目をする風夏。
「なんで、知ってるの?」
「今日、榎本から、明日風夏とデートする、と言われた。
風夏。
お前は榎本がどういうやつか、分かっているのか?」
俺の言葉を聞いて、風夏は俺を睨みつける。
「和樹君は、優しくてカッコいい、素敵な人よ!
お前と違ってね!
私のやることに、いちいち口出ししないでよね!
気持ち悪いんだよ!」
そう言って、風夏は自室の方へと走っていく。
「風夏!」
呼び寄せるように風夏を呼んでも、反応はない。
風夏は、扉を閉じて自室にこもってしまった。
私はショックだった。
風夏に「気持ち悪い」と言われたことがだ。
娘のためを思って話しかけることが、そんなに気持ち悪かっただろうか。
風夏は榎本のことを、優しくてカッコいい素敵な人、と言っていたが、それは榎本の本性が見えていないのではないだろうか。
私は、風夏に榎本の本性を気づかせてやりたかった。
しかし、風夏が私との会話を望まないのであれば、それは不可能だ。
私は、明日、風夏が嫌な思いをしないことを願うしかなかった。
私の心はやるせない心で一杯だった。
ーーー
次の日。
風夏は、朝から服を選び、化粧をし、可愛らしい恰好で準備をしていた。
その顔は、乙女の顔であり、これから榎本の毒牙にかかるのかと思うと、辛いものがあった。
もちろん、私が話しかけようとも、取り合ってもらえず、全部無視された。
妻にだけ、どこに行くか、何時に帰るか、などを伝えて家を出て行ってしまった風夏。
そんな風夏の態度に、心が折れそうになる。
今日は休みの日だというのに、私にはやることがなかった。
いつもの私であれば、今日は特訓日和だと言って、「かめはめ波」の練習をしに行くところであったが、今日はそういう気分にもなれない。
テレビを見ても、「空に謎の光線が!」という非科学的なニュースがやっているだけで、つまらなそうだ。
結局、悲しみに暮れながらベッドの上で寝ることしかできなかった。
そんな私を蔑む目で見下ろし、私を後目に買い物へと出かけてしまった妻。
私は孤独だった。
孤独の中、一人ベッドの中で眠りにつくのだった。
ーーー
起きると、窓の外は暗くなっていた。
時計を見ると、19時を回っていた。
しまった、寝すぎた。
私は、昨日からの一連の騒動で疲れて、長いこと眠ってしまっていたらしい。
すると、机の上に置いてあった私の携帯が鳴っていることに気づいた。
こんなときに電話なんかしたくない、と思いつつも携帯を見ると、画面には「風夏」の文字と電話番号が。
私は急いで携帯を取った。
「風夏か!
どうした!」
「ひっぐ……うっ……うっ…」
受話器から、風夏の泣き声が聞こえた。
私はその声を聞いて、焦る。
「風夏!
おい、風夏!
大丈夫か!」
私は大声をあげて、風夏を何度も呼ぶ。
すると、受話器から小さな声が聞こえた。
「お父さん……助けて……!」
その声を聞いた瞬間、私は急いで部屋を飛び出した。
走って家を飛び出し、駐車場に止めてある車へと乗る。
「風夏!
どこにいるんだ!」
私は、車のキーを差し込みながら、風夏に場所を聞く。
すると、泣きながら風夏は答える。
「〇〇ホテルの302号室……」
私はそのホテルを知っていた。
隣町にある遊園地の近くにあるラブホテルだ。
「なんでそんなところに……」
私は、車を発進させながら呟く。
そしたら、風夏はまた泣きだした。
「わ、私、和樹君に誘われて。
ホテルに行ったら、たくさん男の人がいて……。
こ、怖くなって、逃げ出そうとしたら逃げられなくて……。
今、浴室に閉じこもってるの……」
最悪の事態だ。
つまり、榎本に誘われてラブホテルに一緒に入ったら、部屋には榎本以外の男がたくさんいたってことか?
もはや、犯罪である。
受話器から、ドンドンドンドンと扉を叩く音と、風夏の泣き声が聞こえる。
それを聞いて背筋が凍る。
このままでは、娘の身が危ない。
そう思った私は、急いで車をホテルまで走らせた。
ーーー
ラブホテルの前に車を停めると、急いでフロントへと駆けこんだ。
受付の青年は、私の必死な形相にたじろいでいた。
事情を説明しても、部屋の鍵は渡せません、の一点張りだったが、「娘が犯罪に巻き込まれているんです!」「娘を見殺しにするつもりですか!」と受付で騒ぎたてると、受付の青年は諦めたかのようにカードキーを渡してくれた。
私は急いで階段を駆けあがり、部屋へと向かう。
そして、部屋の前。
カードキーを差し込んで、部屋へと突入した。
部屋の中は、大きなダブルベッドが真ん中にある空間だった。
ダブルベッドの上に男が5人ほどいた。
そして、男たちの中に、涙目になった風夏が男たちの魔手から抵抗するようにベッドの上に座っていた。
「風夏!」
「お父さん!」
私が叫ぶと、風夏もそれに反応して嬉しそうな顔をする。
そして、やや遅れて男たちも振り返った。
「あれ~?
佐藤係長じゃないっすか~」
すると、部屋の奥の方から聞き覚えのある声が聞こえた。
そちらに目を向けると、バスローブ姿の榎本がソファに座ってワインを飲んでいるところだった。
「榎本!
なにやってんだ!」
私は怒声をあげた。
すると、榎本は不敵な笑みを浮かべる。
「なにって、決まってるじゃないっすか。
これから、風夏ちゃんを
さも当たり前かのように言う榎本。
私は、それが許せなかった。
「お前!
これが犯罪行為だって分かってんのか!」
「犯罪~?
係長こそ分かってんすか?
バレなきゃ、犯罪は犯罪にならないんすよ?」
すると、榎本はパチッと指鳴らしをした。
それに反応するかのように、風夏の周りを囲んでいた男たちが俺の方へと歩いてくる。
それを見て俺は気づいた。
なるほど。
私をボコボコにして、口封じをして犯罪を立件させないつもりか。
私は、榎本が許せなかった。
私の娘に優しい顔をして近づき、騙して、こんな犯罪行為に巻き込んだ。
最低野郎だ。
だが、私はこの男たちに今からボコボコにされ、娘は榎本が言った通り
私は、無力だ。
そう思ったとき、ふと思い出した。
「……私には、かめはめ波がある!」
「は?」
榎本は、私の呟きを聞き取ったらしく、怪訝な顔をした。
それから、段々とニヤニヤとした笑みに変わっていく。
「え?
今、なんて言いました係長?
かめはめ波?
も、もしかして、ドラ〇ンボールのかめはめ波ですか?」
榎本は笑いが堪えられないといった表情。
それにつられるようにして、私に近づく男達も笑っている。
「お……おい、ぷっ…お前たち……ぷぷ!
そのおっさん、かめはめ波……ぷぷ……撃てるらしいぞ……!
ぷぷ…み、みんなで受けてやれよ!」
榎本は所々笑いながら、ふざけた様子で言ってくる。
それに合わせたように、男たちが叫ぶ。
「くく、かめはめ波だってよ!」
「撃ってこいよ、おっさーん!」
「本当に撃てんの~?
ぷぷぷ」
など、全員俺を馬鹿にした表情で俺の前に立つ。
風夏は、服を直しつつ、心配そうな目で私の方を見ている。
しかし、私の前に立ってくれるのは好条件だ。
直線上に、榎本もいる。
これだったら、かめはめ波も当たる。
私は、気合いを込めて構えた。
「か~~~~~~~~!」
男たちは、「おいおい、本当にやり始めたぞ」と言った表情で見てくる。
中にはスマートフォンで、私の動画を撮影している者までいた。
「め~~~~~~~~!」
そんな男たちの態度は無視。
私は、身体の手順と、自分の中にある気持ちに集中する。
「は~~~~~~~~!」
「め~~~~~~~~!」
奥にいた榎本も面白がって、私の方に近づいてきた。
これで、榎本にも確実に当たる。
私は、かめはめ波を男達に当てることだけに専念する。
榎本への復讐心。
男たちへの憎悪。
それから風夏を守りたいという気持ち。
そして、なんといっても。
主人公のように強くなりたい、という私の心。
それら全ての気持ちを、この技にかける。
「
私が両手を前に突きだした瞬間。
私の手から大きな光線が放たれた。
それは、前にいたたくさんの男たちと榎本に命中する。
そして、部屋の窓を吹っ飛ばし、その光線は空の雲まで突き抜ける。
一瞬の出来事だった。
ラブホテルの部屋から、男たちは消滅していた。
風夏が呆然とした顔をしていたのを覚えている。
ーーー
現在、風夏と急いでラブホテルを抜け出して、車を運転中。
隣で、風夏は呆然としていた。
そして、ポツリと呟いた。
「お父さん……かめはめ波撃てるの?」
最初に言ってきた言葉はそれだった。
まあ、無理もない。
救ってくれたとはいえ、父親が手からビームを出したら呆然ともするだろう。
「風夏。
私はな。
風夏のためなら、かめはめ波だって撃てるんだよ。
それくらい、風夏を愛しているんだ」
私は、真面目な顔で言った。
すると、風夏はプッと笑う。
「あはは、なによそれ!」
そして、笑い終わると風夏は私の方を真剣な目で見た。
「お父さん。
昨日はごめんね。
お父さんの話を真面目に聞いておけばよかった。
和樹君があんな人だったなんて知らなかったから……」
そう言って俯く風夏。
「いいんだ。
風夏が無事ならそれでいい」
そう。
風夏は結局何もされていない。
風夏が無事ならそれでいいんだ。
すると、風夏は涙を流しながら言った。
「お父さん、ありがとう!
あのとき、お父さんが助けてくれなかったら私……。
本当にありがとう!」
風夏は泣きながら、感謝してくれる。
私は思った。
私は55歳にして、やっと人を守れるだけの強さを手に入れることが出来た、と。
そして、風夏を守ることが出来て本当に良かった。
これからも「かめはめ波」で風夏を守っていこう。
風夏の頭を片手で撫でながら、私は夜の公道を走るのだった。
End
「かめはめ波」を50年練習したおじさん、娘を守る。 エモアフロ @Mclean
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