個人的に「こんなミステリを読みたかった!2022」(個人主催・選考)の大賞に選出したいくらいに満足感のある作品です。
ミステリとしても叙述と会話の掛け合いが巧みに使われていて、スリルと読み応えがあるのですが、何よりも創作をするすべての人への、叩きつけるようなメッセージが胸に迫ります。
主人公は若くして大成した天才女性小説家。書けば大ヒット、映像化もひっきりなしで人気も申し分がない。おそらく小説家としての頂点を極めたところで、しかし彼女の筆は数年前からぱたりと止まってしまう。
主人公は「小説を書く」という行為自体に倦んでいます。そして彼女が語る「物語を生み出すことの意義」が、諦念と怒りに満ちていて心の琴線に触れます。
創作をしている人なら必ず響くお話だと思います。そして、主人公が最後に選ぶ道を見届けてほしい。痺れるようなカタルシスを味わえると思います。
創作をする人にも、ミステリを愛する人にも、もちろんそのどちらでもない方にもおすすめしたい、世に出してほしい作品です。
私はミステリーが決して得意ではありません。面白いミステリーを知らないだけかもしれませんが。ミステリーということは人が死んで、人が死ぬということは、絶対に完全なハッピーエンドにはならないからかもしれません。
鏡花は感情移入できる主人公ではありません。でも、とても愛おしい主人公です。彼女に幸せになって欲しい、ときっと誰もが思うでしょう。そういう、魅力がある主人公です。私はこれがミステリーである事に、読み進めるうちに絶望しました。あぁ、これは、ミステリーだから、完全なハッピーエンドはあり得ない。恐れと目が離せない心持ちで、次話へ、次話へ、とボタンを押しました。そして、その結末に胸が震えました。そうでした。ミステリーとは大どんでん返しなんですよ。これが、ミステリーの面白いところ。私の価値観さえも大どんでん返しされました。そういう、究極のハッピーエンドなミステリー小説だと思います。