明日

潜道潜

第1話

「明日やろうはバカ野郎」


おじぃの代から続く、田舎のこじんまりとした本屋。

ご時世に関わらず、大して売れもしないその店番のさなか。


しばらくぶりの、顔なじみのアホ。

仁王立ちに腹式呼吸。

よく通る声が、店内によく響いた。


ピッ。


「お会計516円です」


「なんだよ、ツレないな」


「そんなヒドい餌で何釣る気だったのよ」


「そりゃモチロン、あんただよ」


ひどい。


「悪いわね、明日の仕事も今日やっちゃうような奴は嫌いなの」


「マジかよ。仕事が終わってるなら休めるし、一石二鳥じゃねぇか」


これだから労働したことの無いアホは。


「いい、仕事ってのはね、無限に湧くのよ。

 明日の分が今日終わったのなら、明日は明後日の分をやるの」


「明日は明日の風が吹く、ってことか」


「・・・意味わかって言ってんの?」


「あー、あれだろ? なんかフレッシュな感じだろ?」


「ぜんぜん違う」


レジ下から、ブックカバーを取り出す。

お買い上げの商品に合わせて折り、包む。


こんなセンシティブな少女漫画、趣味だったのか。

続刊が出ないのは寂しい限りだ。


「しかし、アホが頑張って明日のことを言っていると思うと、鬼の気持ちも分かるわね」


「おうさ、一夜漬けだぞ舐めるなよ」


「迷わず百を取りそうね」


「人生大きく賭けていかないとな」


「そんなんじゃ、言いたいことも今日言ってしまうでしょ」


「何事も寝かせるってのはよくねぇと思うワケよ」


おぉ。意外と保つ。アホのくせに。

こいつの、こういうところは嫌いじゃない。


とはいえ、そろそろお開きのようで。

次のお客様がソワソワと伺っている。


キャッシュトレーを少し前へ。

アホはポケットから、ちょうどの小銭をじゃらじゃらと。


「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしています」


「ーー。あぁ、また」


いやに神妙な顔で言われたから、ちょっとツボった。

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明日 潜道潜 @sumogri_zero

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