8話. 婚約破棄されると思ったら、何故か魔法研究科に拉致られました・・・
「闇魔法ですよ、闇魔法! ほら、あの曰く付きで、魔女が使った不幸を運ぶと悪名高い闇魔法ですよ!」
逆効果だったのは悟っていますが、手をぶんぶんと振り私は今更のアピールを試みます。
「これはもう婚約を解消して頂くしかありませんね!」
「だから言ったはずです。私は、何があっても君との婚約を破棄するつもりなんて無いのだと」
真っ直ぐな瞳に覗く熱量は、私が気圧されるほどでした。
それに、と殿下は続けます。
「その年で魔法を自在に使いこなしている――その意味が、分かってますか?」
「意味、ですか?」
「ええ。それが、どれほど特別なことか──」
私は、不思議に思います。
今になって思えば、魔力鑑定を待ってから魔法の実演に入るというやり方は、少しばかり効率が悪い気がしたのです。
魔法を使いこなすには、反復練習が大切です。
いくら適正のない属性の訓練が効率が悪いといっても、誰一人として試みた者が居ないのには、いっそ不自然さすら感じます。
「あり得ないです。ルーナ、どうやって魔法を覚えたの?」
「……お父さまの部屋にあった魔導書を読み漁りました」
予知夢で見たから既に知っていた、なんて言えるはずもありません。
私は、そっと目を逸らしてそう答えました。
「そう……」
メイドのソフィが、じいっと私を覗き込みました。
……これは、嘘だというのがバレていますね。
ですがソフィは、何も言わずに自体を静観しようと決めたみたいです。ありがたい限りです。
「魔導書を読んだ? その年で、たったの一人で?」
「え、ええ……」
魔法の教本は、属性への適正が強い者しか読めないというのが常識です。
適正のない属性の魔法を覚えようとしても、意味不明な文字の羅列にしか見えないからです。
機会さえあれば、誰でも出来ることでしょう。
私を特別視しているのは誤解。そうなったときに残るのは、私が不吉な属性にのみ適正を持つ落ちこぼれだという事実だと思うのですが――
「えっと、殿下……。お世話になりました?」
「なんで!?」
なんで不思議そうな顔をするんですか。
「だって、私は呪われた属性だけが使える忌み子じゃないですか。王妃なんて相応しいはずがありません」
「嬉しそうだね?」
「そ、そんなことございませんわ!」
うう、殿下のじっとりした視線が痛い。
でも少しでも冷静に考えれば、この婚約には何のメリットもないことが分かるはずですが……。
「はあ。君は本当に、なんの未練も無いんだね。放っておくと、すぐににどこかに飛び立ってしまいそうだ――」
何かが殿下の気持ちに火を付けてしまったようです。
「やっぱり念には念を入れて……」
「殿、下?」
彼はドキリとするような笑みを浮かべ、何故か私の手を取りました。
「……へ!?」
「ルーナ、この後は空いてる?」
「え、ええ……」
いや、これ空いてないと答えるべきでしたね!?
混乱のままに思わず頷いてしまった私に畳み掛けるように、殿下はこんな言葉を続けます。
「是非ともルーナの素晴らしい魔法を、王立魔法研究科で見て欲しいと思ってね。そうと決まれば今すぐに──」
「いやいやいやいや……!?」
私は悲鳴を上げながら、ぶんぶんと首を振りました。
王立魔法研究科。
それは国中のエリートが集まる研究機関です。
何が悲しくて恥をかきに行かないと行けないんですかね!?
冗談ですよね、と視線で問いかけるが、殿下の瞳はいたってマジ。
嫌がらせですか? 嫌がらせなんですか?
「こんなしょっぼい魔法見せたら、笑いものにされるだけですって! 殿下、どうか落ち着いて!」
私の説得も虚しくセオドリック殿下は私の手を引き、ずんずんと歩き出しました。
そのまま止めてある馬車に乗り込むと、王立魔法研究科に向かうよう命じます。
そうしてあれよあれよという間に、私は王立魔法研究科に連れ去られることになったのでした。
悪役令嬢です。婚約破棄されるはずの王子に何故か執着されているようです・・・ アトハ @atowaito
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