#04

「おお。来た。来たぞッ!」


 そうして、歓喜する人々。


 今度は温故知新なる鉄道が、今、まさに走り出しそうとする瞬間だったからこそ。


 この場にも呼ばれていた件の運転手は静かに思う。


 そうだ。


 これからの電車は人間がしっかりと運転するのだ。


 それこそが正統進化。間違いない。間違いを起こして反省したから妥当な結論だ。


 ただし、


 誰が、その時代の幕開けを宣言するのだろうかと。


 つまり、


 再び電車の運転が人間に戻ってきて初めての運転は誰がするのかと心配したのだ。


 フッと軽く肩が叩かれる。


 ポンッ。


 驚きを隠せない顔つきで目を皿のよう丸くする彼。


 首を曲げ、声がした背後にゆっくりと視線を移す。


「じゃ、また栄誉をあげよう。君が、温故知新なる電車での初の運転手になるんだ」


 僕……?


 自動運転が導入されて初の運転手になった彼が選ばれたのだ。逆も、また彼が初となれば話題にも事欠かない事となるだろうと踏んでだ。暗転した鉄道業界に対して明るい話題にもなり得るといった厭らしくも的外れな計算があったのだろう。


 だからこそ、また彼が選ばれたわけだ。


「ちょ、ちょっと待って下さいよ。ちょっとだけ待って下さい」


「ううん? 遠慮しているのかね? 大丈夫、君ならば出来る」


「いや、そういう話じゃなくて、ですね」


「ああ。そうか。君は定年間近だったね。だから手柄を若いものに譲りたいというのかね。なんと殊勝な心がけよ。でも大丈夫だ。若いものには若いものの立場で……」


 だから、そういう事じゃなくてですね。


 とも口に出す前に、有無を言わさず運転席にあるドアの前に引きずり出される彼。


 だから!


 だから!


 本当に待って下さいよ。無理ですから。


 とも口に出せないような重苦しい圧で、運転席に詰め込もうとする、お偉いさん。


「ホホホ。大丈夫だよ。君ならば出来る。自分を信じて。さあ」


「だから運転できないんですってば。運転しなくなって、もう長い時間、経ってますから。どうやって運転していたのかさえも分からないんです。ごめんなさい」


 もちろん、多分に、他の運転手たちも。


 えっ!?


「運転できないだって。それは本当か?」


 と途端、お偉いさんの顔が青くなった。


 そうして集められた他の運転手の顔をぐるりと一気に見渡す。


 皆、右手のひらを広げて、ひらを左に向け、手を左右に振る。


 一様に。


 力強く。


 無理ッ!


 と……。


 そんな内部事情など知らない平和な鉄道ファンが歓喜して、スマホで写真を撮る。


 よしっ!


 写真のできを確認したあと、今回、ここに来られなかった別のファンに向けて画像送信を試みる。が、前回と同じくスマホは借り物であったから連絡先が分からず、残念、ごめん、と諦める。うむむ。昔は沢山の連絡先を暗記していたんだけど、と。


 ボリボリと後ろ頭を乱暴にかきしだき。

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鉄腕な新技術 星埜銀杏 @iyo_hoshino

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