#03

「全てよし。何も問題なし」


 そして、何事もなく一日の勤務を無事に終えて家路へとつく。


 しかし、


 家に着き、冷たいビールと共に夕食を胃に収めていた時、驚きで目を疑うニュースが飛び込んできた。添え物の枝豆を手から落とす。自動運転で運行されていた電車が大事故を起こしたのだ。死者117名余り。負傷者詳細不明という大事故。


 彼は思った。明日は荒れるぞ、と……。


 案の定。


 次の日、彼が所属する会社のお偉いさんが集まり会議を開いた。また次の日、前日に出した回答を持ちより、他の鉄道各社のお偉いさんも集まった首脳会談が行われた。無論、このまま自動運転システムで運行し続けるべきなのかという議題でだ。


 極当たり前な事なのだが。


 今更、システムを変えれば莫大な出費は免れない。


 しかし、


 人々は自動運転システムを信用しなくなっている。


 たった一度の事故で、だ。


 しかも億分の一という低確率で起こる事態によってだったからこそ揉めに揉めた。


 いや、その言い分は鉄道事業を営む企業側からの利益重視目線での話でしかない。


 利用者側から言わせれば、戦後最大級とも言える鉄道事故が起こり、多数の人間が亡くなり、負傷したのだ。だからこそ早急に対処して欲しいと願うのは当然の権利である。ゆえに利益重視と安全重視で意見が真っ二つに割れ、揉めたわけである。


 答えが出ない。いや、答えなど出したくない各企業のトップ。


 しかし、


 ここで自動運転システムの安全性を訴えてから、それを継続するという事は……。


 また、このような事故が起こる可能性を受け入れてくれと強要するようなもの。二度と起こらないよう強固な対策を施したとしても、やっている事は我慢しろと言ってるに代わりがない。ゆえに論点としては利用者が受け入れてくれるかどうかである。


 しかし、


 今回ばかりは、どうにもならなかった。


 過去にあった、あの事故とは違ってだ。


 鉄道会社各社の意見をまとめたものが世間一般に出回るよりも先にデモが起きた。


 自動運転システムの完全廃止を求める市民デモだ。しかも燃え盛る火は日本各地に飛び火。主要都市のほぼ全てで自動運転廃止と声高々に唱えられた。これには鉄道各社のお偉いさんは参った。頭を痛め、遂には自動運転システムの完全廃止を決定。


 やはり、そうなったか、と件の運転手は襟を正す。


 そして、


 自動運転システムの完全な廃止が決まって数日後。


 とある駅構内へと大挙して押し寄せる鉄道ファン。


 その駅に、ゆっくり三両編成の電車が入ってくる。


 最後の自動運転システムでの運行を、ここまでに。

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