そして球技大会、僕たちの出番が始まった
僕たち二年G組は四つのチームに分けて、うち二つのチームが一年E組戦の前後半を担当した。僕は出ていなかったが、たまたま後半にゴレイロとして出た賀村が、シュートの雨あられを受けて泥と汗にまみれた。
一年E組は運動神経の良い女子が出続け、運動が苦手な女子は三分出て交代するという割り切った起用をしていた。特に、女子学級委員をしている凄い美少女と、剣道をしているらしい百七十越えの女子がツートップになる2-2のパターンと、長身剣道女子がピヴォになる3-1のパターンを随時切り替える変幻自在の攻撃で僕たちを圧倒した。
まさに予選から優勝を狙った戦い方だ。いろいろ試しながら勝っていく。そういうチームだった。
鶴翔さんたちバスケットチームも応援をしに来ていたが、残念な結果に終わった。
「今年の一年生、強いわね」鶴翔さんはそう言い残して、忙しそうに去っていった。もちろん「みんな頑張ったわ」とねぎらうことは忘れなかった。
「このブロックは一年E組の勝ち抜けが決定だな。気楽にいこう」
いよいよ二試合目が始まるときが訪れた。その相手は三年B組。
賀村はクラスメイトに向けて「気楽にいこう」と言ったのだ。
予選リーグは、三クラスから一クラスが勝ち抜けることになるので、すでに一敗同士になった僕たち二年G組と三年B組の予選敗退は決定事項なのだ。しかも三年生は、ケガをすることなく球技大会を終えたいと考える生徒が多かったので、それほど熱心でもない。
前半を担当したチームがニ対一でリードして終えた。
そしていよいよ僕の出番だ。
「これ、勝てるんじゃね」声援をおくる男子の声が聞こえた。
「よし、勝ちにいこう」賀村が気合いを入れた。
いやいや、やめてよ、「勝ちにいこう」だなんて。
元気が取り柄の二年G組は応援も含めて一丸となっている。鶴翔さんたちバスケットチームも応援するために戻ってきていた。
これは格好悪いところは見せられないぞ。僕たち後半に出るメンバーは緊張でどうにかなりそうだった。
ところが前後半で試合に出るメンバーはがらりと変わった。
三年B組は前半とはまるで別のチームとなっていた。手を抜くわけでもなく、あわよくば勝ちを狙うという姿勢が垣間見れた。
試合は膠着状態だった。どちらも決め手を欠いて、点が入らない。このまま後半得失点がなければ前半のニ対一のスコアのまま試合は終わる。しかしそうはならなかった。
はじめのうち、相手は
そもそもたかが球技大会だ。相手チームの偵察などまともにするはずがない。法月がどのような選手かなど考えることもなかっただろう。
その法月はピヴォとしてトップの位置にいて、相手マークを外すように右に左に動き回った。
はっきり言ってそれはケガの功名だ。
法月は冷静ではなかった。もし冷静なら、ずっと動かなかったはずだ。パスをもらいたくない法月は、相手ディフェンダーにマークされ続けていれば良かった。敵と一緒にいればパスは出しにくい。ただでさえ法月はパスを受けるのが下手なのだ。敵がそばにいる限り味方は法月にパスを出せない。
しかし法月は、相手マークが自分に迫ってくるのを脅威に感じた。相手マークから逃げようと右に左に動いたのだ。それで相手マークはますます法月を追いかけ、二人の鬼ごっこが続いた。
しかし後半が始まって三分もしたころ、相手チームは気づいてしまった。法月が全く役に立たないのだと。そうなると法月をマークする必要はなくなる。三年B組はフィールドプレイヤーが一人余った状態になった。
そして三年B組の猛攻が始まった。
ゴレイロの賀村のファインセーブでどうにか無失点に切り抜けていたのだが、残り二分を切った段階で、とうとう同点に追いつかれてしまった。
残り時間は少ない。お互い走り疲れていた。素人にとって五分かそこらでも走り続けると体力を奪う。ましてや慣れないスポーツは精神的緊張が筋肉の緊張をもたらして、必要以上に疲れるのだ。
両チームとも引き分けでも良いか、という気分になっていた。勝っても負けても決勝トーナメントに進むわけではない。
しかし、諦めていない奴もいた。
「一か八か、最後に法月さんに仕事をしてもらおう」賀村がそっと僕に囁いた。
法月は右上のいちばん深いところにおとなしく立っていた。右足で蹴る人間には絶対にシュートが打てない位置。クロスやパスが出せれば話は別だが、そんな技術が法月にないことは敵味方ともわかっていた。
何の役にも立たないために法月はノーマークになっていた。
げんき組の鶴翔さんはとても忙しい! だから、 はくすや @hakusuya
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