第4話 これからもずっと

 昨日、人生で初めてのキスをした。

 それは特別ロマンチックなシチュエーションでやったのではなく、学校で、そして皆の前でやったのだ。


 しかしキスをした後、当の彼女である星那せなはどこかに消えてしまった。

 残りの昼休みの時間は消えた星那を走り回って探したが、どこにもいなかった。

 先生にそのことを伝えに行くと、つい先程体調不良で早退した、とのことだった。



 次の日、いつも通り星那と登校するため待ち合わせ場所に向かうが、幸か不幸かいくら待っても星那はやって来なかった。

 今日は体調不良で休んでいるらしい。

 絶対仮病で休んでるなと思いながらも、放課後になったらお見舞いに行くことに決めた。



「……星那の家、久しぶりに来たな」


 放課後になり、お見舞いの品として一応ゼリーの詰め合わせを買って、緊張しながらも星那の家に到着した。


 星那と遊ぶ時は大体、俺の家か星那の家どちらかなのだが、最近では俺の家で遊ぶことが多い。

 付き合い始めてからは、星那が「恥ずかしいから!」とかたくなに家に入れようとしないため、随分とご無沙汰していたのである。


 インターホンを押すと、久しぶりに聞く女性の優しい声が耳に入った。


『あら……! 篤史あつしくんじゃない! ちょっと待ってね!』


「あ、はい」


 インターホンでのやり取りからしばらくして、若い女性がドアを開けた。


 見た目は星那とすごく似ていて、とても若そうな女性。

 この人は、星那のお母さんだ。


「お久しぶりです」


「久しぶりー! 今日は星那のお見舞いかしら?」


「はい。あと……これよかったらどうぞ」


 先程買ったゼリーの詰め合わせを星那のお母さんに渡すと、「ありがとうね! さぁ、入って入って!」と催促される。


「お、お邪魔します……」


 早速星那の部屋に向かおうとすると、「寝ていたらごめんなさいね」と謝られた。


 むしろ俺としては寝ているところを見たいという願望があるため、寝ている方が好都合だ。

 これは決して変態的な意味ではなく、ただ純粋に可愛い彼女の寝顔を見たいだけである(変態的な意味しかない)。


 星那の部屋に着き、弱めの力でドアをノックしたが反応はなかった。

 やはり寝ているのだろうか。


 絶対に起こさないようにゆっくりとドアを開け、忍び足で部屋に入っていく(はたから見ればただの変態)。

 案の定、星那は気持ちよさそうにスースーと寝息をたてていた。


 うん。やっぱり可愛い……


 この寝顔、写真に収めたいところだが、バレたら間違いなく殺されるため自制する。

 それからしばらく何もせずにただ星那の寝顔を見て目の保養をしていると、星那が突然目を覚ました。


「…………ん? …………篤、史!?」


「……おう。体調はもう大丈夫か?」


「え? う、うん。でもどうしてここにいるの?」


 どうして、って……そんな理由一つしかない。


「お見舞い以外に何があるんだ」


「……いつから?」


「んー……30分前とか、かな」


「……てことは、もしかして私の寝顔、見た?」


「見てない」


 その質問が来た瞬間、即答する。

 恐らくコンマ一秒すらかかっていないだろう。


「……嘘つき、バカ、死ね、変態」


「おう…………」


 酷い! 酷すぎる!

 折角お見舞いに来たというのに、どうして俺は罵倒されているんだ!


「……でも、心配してくれてありがと。大好き」


「……え?」


「聞こえてないフリ禁止!」


「えぇ……星那、俺も大好きだぞ」


「……うん」



 

 そんな俺の願望は、この先も変わらない。


 ただ今はまだ、この時折見せるデレを見るのもありだな、と思ってしまった。


 いずれきっとデレデレにしてみせる。

 だがまだまだ時間はあるし、そこまで急ぐ必要はない。


 これからも毎日欠かさず、‴好きだ‴と言い続けよう。

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ツンデレな彼女に好きだと伝え続けてデレデレにさせたい 橘奏多 @kanata151015

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