第3話 次は学校で言ってみよう

 昨日、俺たちが恋人になって、初めてお家デートをした。


 そこで、ツンデレな彼女をデレデレにさせるために、逃げ場をなくして‴好きだ‴と言ってみようと思ったのだが……

 なぜか急に彼女の方から、自分のことを好きかと聞いてきたのである。


 予想外だ。予想外すぎる。


 これはツンデレな彼女がデレデレな彼女になる第一歩で、非常に喜ばしいことだ。

 そのため、このままデレデレにさせるためにも、どんどんハードルを上げていかなければならない。


 しかしハードルを上げていけばいくほど、俺の緊張が増していくだろう。

 果たして、俺の心臓はもつのだろうか……


星那せな、一緒に昼飯食おうぜ」


 昼休みになり、いつも通り昼食を食べようと星那を誘う。


「本当は篤史あつしと一緒になんてお昼ご飯食べたくないけど? どうしても一緒に食べたいって言うなら、考えてあげてもいいよ」


「じゃあいいよ。一人で食べるから」


「ウソウソ!! 私も一緒に食べたいからぁ!!」


 それなら最初から言えよ……


 いつもならこのツンデレを流して一緒に食べるのだが、昨日デレデレへの第一歩があったのに未だにツンデレでいたため、つい意地悪をしてしまった。

 さすがにまだ早かったか……



 一緒に昼飯を食べる時は、向かい合わせで食べている。

 教室で食べているため、周りからは「爆発してしまえ!」と殺意を向けられたり、「いいな〜! 理想のカップルよね〜!」と羨ましがられたりする。


 別に周りの人がどう思おうが関係ないが、クラスの皆は毎日のように俺たちの会話を盗み聞きしている。

 聞かれて嫌なことはないし、幼馴染だしずっと二人で食べているため気にしていなかったが、そのことが今日初めて役に立つかもしれない。


 実はいいことを思いついてしまったのだ。


 この昼の時間、教室にいる皆が皆俺たちの会話を聞いている中‴好きだ‴と星那に言ったら、恥ずかしさに耐えきれなくなってデレデレになるのではないか、と。


 デレデレではなく、逆にツンツンになってしまうかもしれないが、やってみる価値はある。

 俺としてもものすごく恥ずかしいが、間違いなく効果があるはずだ。


「篤史の意地悪……」


 頬を膨らませながらそう呟いて、パカッと弁当箱のふたを開ける星那。

 ねてるところも可愛い……と思ったが、そんなことは言えるはずもない。


「ごめんって。でも、本当は食べたくないって言ってたじゃないか。いや〜、悲しいな〜」


「……そ、そうよ!! 篤史が可哀想だと思ったから、仕方がなく一緒に食べてあげてるのよ! 感謝してよね!」


「はいはい。どうもありがとうございます〜」


 やっぱりダメだ!

 全然デレデレになってない!


 ということで、このクラスの皆に聞こえるような大きな声で言ってみるか…………はぁ、恥ずかしくて死んじゃう。


「お、俺は……!」


「……え、何? どうしたの?」


 突然大きな声を出したせいか、星那は俺のことを心配し、周りにいる人は話すのをやめて俺をじっと見つめている。

 くそう……もう後戻りはできない……!


「俺は……! 星那のことが好きだぁぁぁあああ!!!」


「「「…………」」」


 え……なんかしらけたんですけど……逃げたい。


「「キャーーーッ!」」


「……ちょ、ちょっと……!」


 と思ったが、そうでもなかった。

 周りにいる男子は引いてるけど、女子は奇声を上げてるし、当の星那に関しては顔がリンゴのように真っ赤になっている。


「な、なんで皆の前でそういうこと言うの!? 恥ずかしいでしょ!?」


「……だって星那が俺のこと嫌いとか言うから」


「言ってないけど!?」


 確かに星那はそんなことは言っていない。

 でも、それ以外に思いつく理由がなかったのだ。


 そして俺はこの状況を見ている女子たちに、口パクで助けを求める。

 きっと恋愛脳な女子たちは気づくだろう。

 今自分たちが何をすればいいのかを。


「星那ちゃ〜ん? 彼氏にあんな熱い告白をされておいて、お返しに何も言わなくていいの〜?」


 ナイス! 名も知らぬ恋愛脳な女子!(偏見ですごめんなさい)


「は、はぁ!? どうして私も言わなきゃいけないの!?」


「ほら〜、星那ちゃんがそんなこと言うから清水しみずくん泣いてる〜」


 俺は頑張ってその女の子の言う通り、泣いているフリを見せる。


「ど、どうしてそんなことで篤史泣いてるの!? いつもこんなことで泣かないよね!?」


 観念しろ、星那。

 お前が俺にデレデレになるまでこの演技をやめるつもりはない。


「はぁ……好きです! 大好きです!」


「嘘っぽ〜い」


「本当だもん!」


「なら証拠見せてよ〜」


「い、いいわよ! 証拠くらい見せてやるんだから!」


 ちょっと待て……俺のことが好きな証拠?

 一体どうやって証明するつもりなん……


「チュッ」


 ………………え?


 完全に思考が停止した。


 泣いているフリをしていて目を隠していた俺の唇に当たった柔らかいもの。

 それはだったのだ。


「ちょっ……!?」


「うわ……まじ」


「どうよ! これが好きっていう証拠!」


 頬を赤く染めながら、「どんなもんだ!」と言わんばかりに威張っている星那。


 しかし、この後の彼女の姿を見た者はどこにもいなかった。

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