第15話 さらば友よ(知り合って一日経ってない) 21/12/05
プリシラは早くも順応したらしい。疾走する速度もそうだが、尻を揉まれるのももう好きにしてくれと許可?をいただいた。
べ、別に揉んでないし。でもいいというならちょっとくらいは……と思ったところでパーフィーの顔が浮かんだので自重して、今触れている感触に集中するだけに留まった。
ていうか70階層を超えたあたりからはプリシラの方が脱力しても落とされないようにしているのがわかったのか普通に寝始め俺の肩に涎をこぼしてるんだがメンタル強すぎないか? 図太い方向で。
口を噛まれてもあれなんで仕方なく気遣いながら人の気配が多くなる26階層あたりまで走りきったらプリシラを起こして重力を元に戻した。いや、寝てませんよとかそこ取り繕うとこじゃないし。肩に涎ついてるから。証拠揃ってるから。
ここが何階層か尋ねられたので、26だと答えてやるともう100近く踏破したことに驚いていた。
ここからは地上を走って早く地上に帰ると告げて、途中デイ探索の冒険者たちとすれ違いながら迷宮を駆け抜け人の目が集まった。照れたらしいプリシラがここでおろしてくださいとか言い出したがとんでもない。仲間は一秒でも早く生還の情報を待ち望んでいるはずだ。
そう言えばプリシラは俺が地上に出てもおんぶを続けることを悟ったらしく下ろしてくださいっとか抵抗を始めたが無駄だ。
このスピードで落ちたらひとたまりないぞと告げれば、なんでそこまで私をいじめようとするんですか!と抗議される。
なぜって……なんでだろう。そういえば久々にふざけて遊んでいるけど、もしかして無意識にプリシラのことを友達と思い始めているんだろうか。
駆け出しなのに物怖じしないところとか、俺のことを何も言わずに把握するところとか、幼馴染とちょっと似ているからかもしれない。
俺の幼馴染の話をされても分からないだろうから、プリシラが弄られやすいだけだと答えると、今までいじられたことほとんどないんですが!?とおかしなことを言い始める。
いや、その図太さとか絶対弄られるネタだろ。そうツッコミをするとパーティではしっかり者の頼られるプレーンをやってるとか自称したんだが、悪いことは言わないからそんな役割やめといた方がいいと思う。
パーティとしてもうっかり屋気質ありそうなのがプレーンとか心配なのもそうだが、なにより俺の見立てだとプリシラは頼られるより頼りたい人間のはずだ。なまじ期待されると断れないというか応えてしまうのでパーティではそうなったのかもしれないがプリシラのことをよく知る幼馴染くんがそういう空気になる前にフォローすべきだったろうに。
そう言うとプリシラは押し黙って、地上に出るまで静かになった。
なにか触れてほしくない話題だったのか? もしかして無遠慮すぎた指摘だったか? 不快に思われてたらどうしようか。
そんな心配していたけど、プリシラが後ろからぎゅっと抱きしめる強さを強くして体を押し当ててきた。
思わず前屈みになる俺。プリシラァ! やり返すにしてもそれは卑怯だろ!
今は幸いおんぶしているので前屈みに違和感はないけどこれじゃますます降ろすわけにはいかなくなった。
地上に出てから、女の子をおんぶして出てきた俺は注目の的にされた。プリシラが虫網と籠を持っているのが原因でもあるだろう。
見張りの兄ちゃんが彼女はと聞いてきたので遭難者だとだけ応えて、受付へ。
プリシラの捜索依頼を達成し、何処にいたかとか色々聞かれたので120階層と言えばこんな時に冗談はよしてくれと諭されたんだが、ならどうやって証明しろと?
プリシラも本当です。と証人になってくれたが、信じるのは現実味がないと言って、受付嬢はその後なんでおんぶしたままなのか聞いてきたけど、それはさておき、魔物を倒した証明があればあるいはと言うことらしい。
なんだそんなことでいいのかと言うことで、蒲焼き蛇をドン! さらにドドドンドン! それを見て血相変えた受付嬢が消えて、戻ってきた時にはおっさんを連れて来ていた。どうやらおっさんは、過去冒険者で120階層に到達したパーティの一員だったのだか。おっさんは蒲焼き蛇を見た後、間違いねぇ、120階層で確認されているブラッディスネークだと言って、あるだけの魔物を換金してくれることに。プリシラの救助依頼も解決したことになり、その分も含めるとか。
なのでいい機会だから迷宮外の魔物もまとめて出したら、なんか色々と人が集まって来て、俺の顔を知っているらしいやつから一気にドラゴンスレイヤーだと噂が広がっていた。
で、換金額をすぐに用意できないので明日渡すと言うことになったらしく、その時、プリシラを見つけて駆け寄って来た彼女のパーティがおんぶされている彼女に無事で良かったと言って礼を告げてくるが、いつまでもおんぶしていることを不思議そうにしていた。プリシラもおろしてくれて大丈夫ですというが、その、この注目されている状態だと前屈みにならないとウチの暴れん坊がバレちゃうわけでして。
もう少し背負わせてください、おなしゃす!
すると意思が伝わったのか疲れたのでおんぶしてもらっているということにしてくれた。あざっす!
でも幼馴染くんはなら俺が背負うって言い出して断るのも不自然な状況になった。でも断らないといけないので「俺がこのまま責任を持って運ぶ」といえば野次馬たちがなんか一気に騒ぎ始めた。
ひゅーひゅーって……えっ、なに。もしかして俺がプリシラを手放したくないとか思われちゃってるパターンだろうか。やめろよ! 俺にはパーフィーがいるし幼馴染くんも戸惑って目がキョロってるし。プリシラさん、お助けを。そう思って振り返った傍にはプリシラの顔が真正面に来て、キョトンとしていた。そして、俺の意思を汲み取れたらしく、苦笑いしてからそっぽ向いた。助けてプリシラァ!?
なんかお互い見つめあってたとか野次の女がキャーと叫び始めたことでより騒がしくなったギルドを出て、プリシラのパーティメンバーたちに自己紹介する。
リーダーはプリシラの幼馴染くんらしい。駆け出し冒険者で、役割はタンク型の剣士ってところか。あと、弓矢を使う強キャラ感ある糸目男と膂力が強そうな体つきをしている槍使い。
ははーん、見えて来たぞ。同じ女一だったパーフィーのパーティと違ってみんな初心で矢印がプリシラに収束しているのがよくわかる。このパーティはプリシラの逆ハか。まぁ、女冒険者って少ないし、こんだけ可愛くてしかも渾身に癒す役割の僧侶なのだ。
保母さんや看護師さんなどが人気だったように、プリシラも惚れられているわけだ。
ようやく荒ぶりのマイサンが落ち着いたところでプリシラを下ろして自己紹介。
我はチートクソ主人公。他国でドラゴンスレイヤーと呼ばれ訳あって(間男になって)国外逃亡中の身である。とか言うわけないんだよな。
まぁ、いつでもうちに遊びに来いよ。家にはコノハがいつもいるし、パーフィーたちと三人で遊ぶ約束もしてたことだしな。
ホワイトスライムはまだしばらく発見できそうになさそうなので、できればその間に訪ねて欲しいものだ。
目立っちゃったので俺がここにいることすぐにバレるだろうし、秘薬さえ手に入ればまた別の国に行くつもりなので。
あーでもパーフィーとは一次お別れになるのか。いきなり引き抜きはやっぱり不味いし、今度時間を作って厨二と話をしよう。一緒に旅ができたら最高なんだがな……。
男三人いるんだからちゃんと気をつけて守ってやれよと言ってから家に帰った。
まだ昼前で、今日も昨日のようなことがあってはいけないので早速インターホンで帰りを知らせるとコノハが2階玄関で出迎えてくれる。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「……ああ、ただいま」
あっ、これなんかイイ。
前世じゃメイド喫茶行ってことないから分からないけど、こんな感じなのだろうか。
女の子が自分のことをご主人様と言って帰りを待ってくれているこのむず痒い非現実感。気恥ずかしさで照れるシチュが最高にグッドだ。
もし結婚とかしたらご主人様呼びからアナタに変わるんだろうか。
……あーやっぱり初めての相手ということで、どうしてもコノハに未練が残っているみたいだ。こんな状態でパーフィーに一途とか聞いて呆れる。
ほんとクソだな俺って。
異世界転生クソ主人公 U7 @U7hskt_XD
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