焦熱の魔女狩り

ヘイ

第1話 新人魔女狩り

 魔女は不老だ。

 外的要因によってのみ死が齎される。

 魔女は普通の方法では殺せない。

 魔女を殺す為には『焔』が必要だ。

 魔女を殺す為に魔女狩り部隊『焦熱』が組織されたのは今より四十年前だ。

 それは『焦熱』に於ける一般常識であった。

 

「諸君! 入隊おめでとう! 私は第七隊隊長シン・ベルゼルである。君達は焦熱の隊員となる際、『炉』を身体に埋め込まれた。これは魔女を狩る為の『焔』を生み出す器官だ」

 

 炉の炎を上げるには燃料が必要となる。

 

「これを有効活用し、世界各国で広まっている魔女を死骸すら残さず焼却してもらいたい」

 

 その材料が彼らの心だ。

 熱で焦げるほど、焦げ落ちてしまうほどに。自らの身すらをも灼き焦がす火炎を持って魔女を殺せ。

 それが魔女狩りという正義だ。

 

「魔女を狩れ! そして殉じろ! 我らが命は燃え上がる炎の様に!」

 

 シンは高らかに告げ、入隊式の挨拶の締めとした。彼らに馴れ合いは不要だ。

 

 

 

 

 

「……起きろ、バカ」

「ああ、何? もう着いたか?」

「まだだよ」

 

 少年が目を覚まして先ず目に入ったのは薄着の女性だ。知り合って間もないが、随分と馴れ馴れしい。

 

「着いたら教えてくれと言ったろ」

「暇なんだよ」

「……生憎だがな。俺は暇じゃない。限りある今を大切にしてるんだ」

「限りをつけたのはお前だろ」

 

 皮肉を言われても少年は反応しない。

 

「何が『炉』だよ。バカみたいなモノ作りやがって。それで生み出したのは大量の人死だ。魔女の方がよっぽど有情さ」

 

 腹を立てている。

 それは少年が原因だったのかもしれないが、それでも言及したのは彼らの武器の事だ。

 

「お前は……魔女を知らないんだよ」

「だからどうしたんだよ。魔女を知らなくたって『炉』のロクでもなさは知ってる」

「……そうか」

「なあ、アンタはなんでそんなに魔女を狩りたいんだ」

 

 ガタンゴトン。

 ガタンゴトン。

 列車が揺れる。

 

「それは……」

「目が曇ってんだよ。世界を見ろ。空は青いし、海だって綺麗だ」

 

 窓の外は森が広がっている。

 

「昔」

「うん?」

「昔、魔女の襲撃を受けた。上位魔女の一人、レオーネの襲撃だ」

「レオーネ……」

「家族が死んだ。友が死んだ。愛する人を失った。だから、あの魔女だけは俺が裁く」

 

 それだけが彼の原動力なのだ。

 

「つまんない生き方してんな」

 

 少女はやれやれとため息を吐いた。

 

「…………」

「前も向けないのかよ」

 

 馬鹿にしている、と言うよりは呆れたと言う様な感触だ。

 

「好きにしろよ、もう」

 

 フイと彼女は顔を逸らしてしまった。

 

「ま、魔女だ! 魔女が出たぞおおおお!!!!」

 

 一人の叫びで列車内に混乱が伝播する。

 少年は立ち上がり、列車の窓を開けて外に飛び出る。

 

「実戦訓練と行こうか」

 

 チリチリと火の粉が舞う。

 相対するは下級の魔女。芋虫の様な体に能面が貼り付けられた様な出立ちは不快感も一入ひとしおだ。

 

「イグニッション!」

 

 胸の中央に手を当て強く叩く。

 燃え上がる。

 焔の渦を巻き上げて。

 黒髪の少年、クロセ・リオンを中心に焔は広がっていく。

 

「ジャッジメント・オブ・バーン」

 

 生まれたのは炎の剣。クレイモアを模した灼熱の剣がクロセの右腕を焼きながら顕現する。

 摂氏四千度の超高温。放つ熱波は鉄をもひしゃげさせてしまいそうな程。

 

 焦げていく。

 薪を焚べて。

 焔は燃え上がる。

 炉は焔を吐き散らす。

 熱波が魔女を、世界を歪める。

 

「焼き払え」

 

 大きく横振。

 熱線が五キロメートル先までを焼き尽くす。魔女の身体が燃え上がる。何一つ残さず、塵も残らぬ獄炎。

 

「なんだ、この程度か……」

 

 巨大な芋虫の姿などどこにも見当たらない。空気の足らず、絶叫すらも上げることもできずに燃え尽きた、ただの残骸のカケラすらも見当たらない。

 

「……おい! お前! 早く戻ってこい! やり過ぎだ!」

 

 列車の窓から身を乗り出した少女の声を聞いて、ゆっくりと戻る。

 むすっとした顔をした彼女は相変わらずクロセの前に座っている。サポーター、『炉』の技師。

 彼女は魔女狩りを筒がなく行える様にする為のサポーター。

 

「クソ。お前、本気でクソだ。下級の魔女相手になんであんな大技使った。『炉』に焚べるのは、お前の感情なんだぞ」

「分かってる」

「分かってない! だからお前らはクズなんだ。感情は燃え尽きたら無くなるんだ。喜べなくなる、怒りがなくなる、悲しめない、楽しいとも思えない。お前は廃人になるんだ」

 

 それが魔女狩りの末路だ。

 彼女からしてみれば魔女狩りは分かっている風を装っているだけ。それがどれだけのことかをわかっていない。

 

「お前が嘆く必要は無いだろ。俺は魔女狩りでお前はサポーターだ」

「……クソが」

 

 簡単に割り切れるものではない。

 価値観が違いすぎる。

 だから、彼女には気に食わないのだ。

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