第6話 ハダカデバネズミの幸年期
私は夫の顔が好きだ。恥ずかしいし、悔しいから本人には言わない。凛々しい眉毛、垂れた優しい目が好きだ。その優しい顔で頭をポンポンと2回軽く叩き、
「……カツラと補聴器買ってやるでな」という夫の声が好きだ。
私たちは恋愛結婚ではない。お互い、身内の紹介で付き合い始めた。気が合わなければ、すぐにお断り出来るような軽いノリのはずだった。
気がついたら結婚。うん、今思うとね、写真を見た私の一目惚れだったと思うの。好きな顔だったの。ビビビって来ちゃった感じ。アイドルの真似。
デートを重ねた時、あっ、ここから惚気になるので、興味ない方、不快に思われる方はストップして下さいませ。
デートを重ねるたび、私の方が夫の性格に惹かれてしまった。会うたびに好きになる不思議。なんて正義感があるの、なんて優しいの。なんて……。
子どもに対しては想像以上に子育てに協力してくれた。おむつを替えて、ミルクを作り、なかなか寝ない娘をずっと抱っこして寝かしつけてくれる。
隣で口開けて爆睡する私。ギブアップするとね、お茶をいれて気楽にやりなさいと励ましてくれた。
夫は自分の胸毛を剃って、母乳体験しちゃうお茶目な所もあった。子煩悩。
病気の時と貧乏の時をどう乗り越えたかを思い出す。病気の時ほど優しかった夫。おかず一品でも怒らなかったね。一緒に内職もしたね。
わがままで頑固な私をいつも愛してくれてありがとう。大事にしてくれて感謝しています。
私はこれから旅に出ます。探さないで下さい。
あっ、違った。
貴方に出会えて本当に良かったです。私も貴方と共に白髪の生えるまで、共に白髪の生えるまで、あっ、もう生えてます。白髪が抜けるまで生きていきたい。
さようなら デバネズミ。デバデバ。
あっ、違った。遺書みたいになっている。
喧嘩したこともあった。泣いた事も、憎んだ事もあった。けど、今は夫への感謝が溢れている。感謝の気持ちで満たされている幸年期。
もし、先に夫が病気になって、私の前からいなくなったら、悲しすぎる。
きっと生きていけない。年金が足りない。
その時は、私、貴方と同じ棺桶に入りたい。セット割引きってあるのかしら?
いや、真面目に考えなくちゃ。夫が先に私の前からいなくなったら、
再婚考えてるので、誰か紹介して下さい。
えーとね、十才くらい年上でも大丈夫です。身長とか年収は問いません。
得意料理は目玉焼きと湯豆腐です。
あっ、年下でもいいです。そうね、5才くらい下がいいな。
いっそ四十代でも。その時はう◯う◯持参で宜しく!
そういうとこだぞ! デバネズミ。
【完】
ハダカデバネズミの幸年期 パート2 星都ハナス @hanasu-hosito
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