第2話 漫画と小学生

 僕は人見知りで引っ込み思案な性格だ。だからといってクラスの中心人物とか、華やかな芸能人に憧れるということはなかった。むしろあんなに目立つ生活をして息苦しく無いのかと思うぐらいだ。


 それに何かの中心になったり、誰かに憧れたりされるのにはそれなりの能力や才能、さらにはそれ相応の努力が必要なんだろう。僕にはどれも当てはまらないものだ。


 そんな僕に両親は無駄な期待をしていた。父さんと母さんは誰でも知っている日本で一番頭の良い大学の出身らしく、僕にもその大学を目指して欲しいと小さい頃から言われていた。まだ自分の世界が半径百メートルも無いときからだ。僕は当然それが正解なのだと思っていた。


 僕は運良くお受験とやらに受かったらしく、有名私立幼稚園に入りそのまま付属の小学校へと進学した。そこには僕の意思は何にも無かった。勉強や習い事も嫌という感覚はなく、みんなやってるしやるのが当たり前だと思っていた。世界はまだ半径百メートルのままだった。


 小学生低学年の頃だっただろうか。友達を招いて僕の家で誕生日会をした時のことだ。普段は勉強に習い事でスケジュールが埋まっていたのだが、誕生日やクリスマスといった行事は両親が気合いをいれてやってくれた。


 その誕生日会で勇人ゆうとからプレゼントを貰った。一冊の漫画本だった。それはいわゆる週刊誌で大人気漫画がいくつも連載されていた。

 僕は初めて漫画を読んだ。全部が途中からの話で内容はよくわからなかったけど、なぜかわくわくした。決められたことしかやっていなかった僕には、一冊の中に詰まっている物語が広大な宇宙に散りばめられている星のように数えきれない得体の知れないものに見え、好奇心というものを生み出した。

 世界が広がっていく。初めての感覚だった。


 他の友達からもプレゼントを貰ったのだけれど、正直あまり覚えていない。ただ、勇人(ゆうと)からのプレゼントを見せたときに、母さんの顔が笑っていなかったことははっきりと覚えている。


 その日から学校では勇人ゆうとと漫画の話ばかりするようになった。僕も漫画を買ってもらいたかったけど、あのときの母さんの表情でこれはあの世界ではダメなことなんだと言われた気がして漫画が欲しいことを言い出せなかった。


 そのかわりに勇人ゆうとから漫画の続きやその前の話を毎日聞きつづけ、自分でノートに再現し、僕だけの漫画を描くようになった。その代償に成績は悪くなっていくのだけれど。


 そんな小学生時代にある事件が起きた。

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スポットライトアンサー かずぺあ @kazupea748

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