第76話

「(大丈夫だ、ビビるな。アイツの言った言葉は牽制…俺に旭の命を賭けさせない為のモノだ)」


「(迷いが生じているな、歳の差だ。この場は経験した差が勝つ)」


先に、黒隠がスキルを提示する。


「スキルA相当、『深淵の終着点メイドインアビス』を賭けよう」


その言葉に統道旭が反応した。


「(馬鹿な、奴め、即死級のスキルを賭けるとな?!)」


「さあ、小僧、早く賭けろ」


加咬弦は躊躇う。

何故黒隠がランクAのスキルを賭けたのか、その審議に思考が割かれる。


「(何故だ。負ける可能性もある、いきなり高ランクのスキルを?勝つ気で居るのか?だとしても負ける可能性を考慮すれば低ランクでも良い筈だ、奴は俺とは違って多くのスキルを持つのに、何故あえてそのスキルを選んだ?何故だ、何故だ)」


「(混乱すればするほどに、思考が働かなくなる。だが、もし冷静であったとしても、旭様の命を賭けるメリットはない)」


その通りだ。

前提として、統道旭の命がある以上、黒隠が勝利する可能性は低い。

だが、その前提が無くなってしまえば、統道旭の命を使役しても無駄でしかない。

更に相手は特別強いスキルを提示して来た以上、統道旭を出さずとも、他の弱いスキルで代用する事が出来るのだ。


「(これは私の優しさだ。下手に負けて旭さまの命を失うよりも、小さな賭けで大きな戦利品を望んだ方が得策だ)」


「なあ、早くしろよ加咬、十秒以内に決めないと、適当に決めちまうからなー」


双蛇羅刹を睨む。この状況下で、人の命が掛かっている。

友人ならば、せめて考える時間だけは寄越してほしいと。

けれど違う。彼女は天真爛漫な双蛇羅刹。しかしその実態は悪魔。

如何に仲が良かろうとも、仕事であれば無情にも切り捨てられる。


「はいじゅう、きゅー、はーち」


カウントダウンが始まる。

どのカードを切るか悩む加咬弦。


「迷うな弦、妾の命を使え」


「さあ、賭けるが良い、私が全てを奪ってやる」


「(クソ、命、スキル、なに、何をッ)」


カウントダウンが二秒前に迫る。

カードを強く握り締める加咬弦は顔を俯けながら。


「…『外界からの指し手』、を、賭ける」


そして加咬弦は、自らが保有するスキルの内、尤も低ランクのスキルを賭けに使用した。


「…悪い、旭。俺は、誰かの命を使えない…ッ」


土壇場で日和る加咬弦。それに対して統道旭は目を瞑る。


「…いや、妾も、お前の感情を理解出来んかった、許せ」


「うっし、賭けたモンは決まったなー!じゃあ黒いオッサンは『深淵の終着点メイドインアビス』、加咬は『外界からの指し手』で決まりな、カードは捨てたか?先攻後攻を決めるぞ?」


加咬弦が握るカードを上げる。

彼の手札は二枚。ダイヤのKと、ジョーカーの二枚。

対して、黒隠は一枚。同じくダイヤのKだ。


「先攻後攻はコイントスで良いか?当てた方が最初に引く、その後は順番を入れ替えてゲームを始めるぞ」


コイントスが行われる。


「…表」


加咬が表を決めて。


「裏で良い」


黒隠が裏を決める。


二人の意見が分かれる。

コイントスが双蛇羅刹の手の甲に乗り、コインの向きは裏だった。


「(危ない…俺が先攻だったら…奴のカードを引いて負けてた)」


緒戦。

まずは勝ち星を付けていきたい所だったが。


「さあ、ど」


『どれを引く?』と聞くよりも早く。

黒隠が奪う様にカードを引いた。


「結局は下らん、単純な引き合い、運だ。どちらに転んでも、どうゲームが終了しようとも…結末は変わらない」


「おースゲェ。一発で引いたぞコイツ」


ダイヤのKを引いた黒隠はカードを投げる。


「ゲームが終了すればお前を殺す、それは絶対だ」


黒隠に、加咬弦のスキルが譲渡された。


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突如発生したダンジョン化、多くの生徒が犠牲になり狂気を得たヒロインは主人公に依存する 三流木青二斎無一門 @itisyou

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