ボクにはもう、お祈りは届かないから。
ぽえーひろーん_(_っ・ω・)っヌーン
苔の生えゆる神域に影が差したなら。
人里離れた辺境の地
秘境を紹介する雑誌の
ページにすら載ることは無い
寂れて忘れられた土地がある。
そこは長らく人の手が入っておらず
草木は生い茂り、生き物達は溢れかえり
とても人間の通れる道ではない
そんなまさしく秘境と呼ぶに
相応しい場所の、もっと奥深く
そこには常に月明かりの差す森がある
ここの光景はとても優美で
この世のものとは思えない程で
現世の何よりも美しいと言える。
このような有様なので
かつては大いに賑わいを見せ
暇な日など無かったものだが
伸び放題の森をみてもわかる通り
完全に記憶の外側というわけだ。
全ては廃れていく運命にあり
栄えたままではいられないとはいえ
ボクの気分は非常に憂鬱だった。
「……随分ボロっちくなっちゃったな」
その辺のちょうどいい大きさの木の上で
だらしなく寝そべりながら独りごちる。
時間の流れはとても残酷で
あんなに見晴らしの良かった景色も
今では真緑のカーテンに覆われている。
「しょうがないこととはいえ
せつない気持ちになっちゃうね」
止まらない独り言は退屈の証
そう、ボクはとても退屈している。
行ける範囲は限られていて
この土地から出ることは出来ないし
かと言って何か面白い発見が
あるって訳でもないし。
毎日毎日同じ光景を眺めて
ぼんやり過ごすしかないのだから。
「……でも、仕方ないんだよね
コレがボクって存在なんだから」
ボクは人呼んで`救いの神`
はるか昔、世が荒れた時代のこと
荒んだ地上に希望の光あれと願い
この地に生まれた神様だ。
彼らにはボクを認識することは
出来なかったけれど、それでも
神社に鳥居そして参拝道を造り
止むことの無い祈りを捧げていた。
……それも、時が経ち泰平の世が訪れ
人々が化学に夢中になるまでのことだった
今のこのボクは元の名前すら忘れ
ただそこに居るだけの存在だ。
神様なんて呼ばれていた時代は良かった
絶えず耳に響く救いを求める声も
当時は鬱陶しい時もあったけど
今はただ懐かしい限りさ
必要とされなくなって久しく
己が存在意義すら見失った
退屈の湖に沈んだこのボクは
惰眠を貪る暇神に他ならない。
「訪れたまえよ人間たち
救いを助けを乞うて願い
さすれば希望の光は差すだろう
……なんて偉そうに言ってたけど
ボクは何に光を見出せばいいのかな」
土地に根付く神が故に
ここから少し離れた所にある
神社から遠くには行けない
神が故に朽ちることも無い
永遠に暇を持て余してこのまま
1度も認識されることもなく
ひっそりと居続けるのか。
「神様なんて、タイクツなだけだよ」
喉の奥、胸の更に奥から漏れた
心の底から出た神様の独り言は
月夜に吸い込まれ消えてゆく。
「この世の全てに幸あれーー」
おおよそ質量のない言葉が
眠りにつく前のボクの口から
ポツリと零れ落ちていた。
✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱
「……おや?」
ボクが眠りから覚めたのは
ふと頭の片隅をよぎった違和感だった。
ここより南の方向に
何やら気配を察知したのだ
数百年ぶりの参拝客か?
と期待に無い胸が高鳴るが
それも束の間のことだった。
いくら使命に見放されたとはいえ
ボクは仮にも神様な訳で、つまりは
この土地は体の一部の様なものだ。
ナニカが入り込んできている
ということは意識せずとも分かった。
……が、問題は
「人が纏う気配じゃないねえ」
この意識の輪郭をザラザラと
撫で付けられているかのような
無視する事は到底叶わない感覚だ。
もし、もしもこの気配の主が
ボクの宿る神域を脅かすというのなら
「この森には沢山の生命がある
木々や草花に動物、そしてお花
確かに人の祈りは途絶えたけれど
それならせめて彼らの暮らしを
穏やかで健やかな成長を守るのが
ボクがやれる唯一の`救い`なんだから」
そうして、彼女の立つ木の枝は
僅かにすら揺れることも無いまま
名も無き救いの神はその気配の元に
向かうのだった。
そこに何があるかなど
知りもしないままに……。
ボクにはもう、お祈りは届かないから。 ぽえーひろーん_(_っ・ω・)っヌーン @tamrni
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