第二十九話 裏の顔
僕とペガメントは、
ペガメントが口を開く。
「なあ、この箱なんだ?でけぇけど、何か武器でも入ってんのか?」
「ああ、僕のバディだよ」
「…は?これが?」
ペガメントはぽかんとしている。でも、それも仕方ない。僕だって、この箱が亜人には、とてもじゃないけど見えない。もしかして、この中に?凶暴なのがバディってのは、案外当たってたのかも…。
「こら。『これ』なんて言わないでほしいな。僕のバディなんだよ?それに、女の子に向かってそんな言い方はないよ」
「女ぁ?変な奴だな」
どうやら、箱の中に居るというのは当たっているようだ。
「それで…、この箱の中…、彼女はどうして箱の中に?」
「……」
「恥ずかしがりやでね…」
そうつぶやいた。ほんの数秒のことだったが、その間が、妙に引っ掛かった。
僕が、考えを巡らせていると、車が停車する。
「どうやら、着いたみたいだね。」
彼は、そう言うと、箱を優しく持ち上げて、外へ運ぶ。
「ほら、
「うん………」
彼は、箱の中の【カゲツ】に声をかける。すると、中からはちゃんと返事が返ってきた。箱のサイズからは、想像がつかないような可愛らしい声だ。
僕たちが外へ出ると、一人の亜人の姿が目に入った。
「おっ!やっと来たな!」
「やあ。随分とおまたせしたみたいだね」
「そんなのは良いからよぉ!さっさとやろうぜ‼ここへ来たってことは、【D.M.S】の連中なんだろ?」
「いかにも、僕が本日、君の相手をする者だ」
「亜人の姿を確認、これより戦闘へ移行する。人払いは済んでるかな?…、そう、終わってる…。ありがとう」
彼は、デバイスをしまう。
——
「おーい!何こそこそしてんだよ!さっさとしろよ、この陰キャがよぉ!」
「……、何…?」
「なるほど、そんなにやりたいわけだ」
「ああ…、頼むぜ…。暴れたくて仕方ねぇぜ」
「言われなくても」
「クソがよ………」
彼が、何かつぶやいたように聞こえたが、良く聞こえなかった。
そのまま、腕をクロスさせたまま胸の前へと運ぶ。
「【ダストランス】…!」
そう唱えると、両腕のブレスが光り輝き、そこから、溢れた光が彼の全身を包み込む。
「
彼の姿は、『美しい』の一言に尽きる姿へと変わる。白銀のボディ、そして、それを流れる銀色のライン。まるで、芸術品だ。しかし、そんなことを考えていられるのは、ほんの一瞬だった。彼のバディであるという、箱から、なにやら黒いヘドロのようなものが溢れ、
『
そんな機会音声が聴こえたかと思うと、ヘドロは、
「【アグリム】……。お前をごみクズにしてやるぜぇ‼‼‼」
【アグリム】…、それが彼のあの姿の名前らしい。さっきまでの姿とは正反対で、『
「いくぞオラぁ!」
「しゃぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあ‼‼」
亜人が叫ぶと、負けじと彼も叫び返す。これじゃあ、どっちが悪い奴なのかわからないや。叫び終わると、彼らは、互いに走り寄っていく。
「おりゃあ‼」
亜人の
「
攻撃を喰らった、アグリムはキレ気味に拳を振りかえす。しかし、それは顔面に命中する寸前で止まったかと思うと、その首根っこを掴む。
「…、やぁっぱりやめたぁぁぁ‼こっちにするぜぇぇぇぇ‼」
そのまま、その首を自身へ引き寄せ、顔面へ顔面を近づける。そして、その首を力いっぱい握る。
「ぐ…が…」
亜人は、苦しがってもがいている。何度も、拳を振り、蹴りを入れたりしているが、アグリムはまるで効いていないのか、体の表面からヘドロが飛び散るだけである。しばらく抵抗していたが、たまらず呼吸をしようと大口を開ける。それを待っていたかのように、アグリムも大口を開ける。
「ぐげえええええええ‼‼」
「もが…⁉」
アグリムは、そのまま自身の口からヘドロを吐き出し、亜人の口へと流し込んでいく。
「ほぉぉぉら…、しっかり味わえよぉぉ…?陽キャさんよぉ…⁉」
彼は、亜人の口を閉じさせて、強引に
「なぁんか……、飽きちまったなぁ……」
そうつぶやくと、亜人の口の中に両手の指を突っ込む。そして、その口を強引に開く。
「このまま続けると…、どうなるのかなぁぁぁぁぁ⁇⁇」
「……!ん~‼んーー⁉」
アグリムの表情は、よくわからないが、とても
「泣いたってやめねぇよお‼‼」
引き裂いた。
「ああああああっっっひゃひゃひゃひゃぁぁぁぁぁぁ‼‼」
辺り一面に、亜人の血液とも、さっき流し込まれたヘドロともとれるものがたくさん噴き出す。
「クズがよ……」
そう吐き捨て、亜人の体をその辺に放り投げる。
——なるほど…、人払いねぇ…。
これは確かに、誰にも見られてはいけないだろう。もし、一般の目に触れるようなことがあれば、D.M.Sの顔としての、彼のイメージは下がる。それは避けなくてはならない。それにしても、これがD.M.Sの顔だって言うなら…、さしずめ、普段が『表の顔』で、こっちが『裏の顔』ってことか…。
面白くなってきた‼
共存 石井将也 @incineroar_mania
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