第21話 再会
「ありがとうございました」
「いえ。お悔みに来るのがこんなに遅くなってしまって申し訳ありません。遠野君が高校一年生の時の同級生だったんです。二年生になった時には転校してしまわれて…それ以来、連絡の取りようがなくて…。先日出版された追悼写真集に載ってたMスタジオに問い合わせて、何とか…」
「そうですか。あの子、自分が病人扱いされるのを嫌がりまして…。転校も良いお医者さんが見つかったからだったんです。ですけど、カメラマンになって、あちこち飛び回るようになって、夜熱が出ても無理してたみたいで…」
…出されたほうじ茶を少しいただきながら、桔梗は思った事を口にした。
「遠野君らしいですね…」
「でも嬉しいです。あの子にお友達が二人もいたなんて…」
「え?」
「桐也君です。桐也君はもう小学校から仲良しで…色々助けてくれたんです」
「そう…ですか。井上君も知ってたんですね。…私、遠野君に憧れてカメラマンになったんです。遠野君の追悼写真集の最後のページの写真、あれ、高校一年の時大賞受賞した写真ですよね?」
「えぇ。…もしかして、あなたがあのお嬢さん?」
「はい。私です。遠野君の写真の被写体には不釣り合いで申し訳ないんですけど…」
「いえいえ。あの子、あの写真、一番大切にしてたんですよ。『この写真を見ると元気をもらえる』って言って。あの子の心の支えになってたんだと思います…」
「え?あ、はい。私本当はもう一度会って伝えたかった事があるんですけど、言えないままになっちゃいました。私が幼くて、不器用で、鈍感だったから…」
「あの子もですよ。態度は大人ぶってましたけど、本当は気が小さくて、不器用な
子でした。こうして会いに来てくださって、あの子も喜んでると思いますありがとうございます。桔梗さん」
「え?私、名字しか名乗ってない…ですよね?」
「そう…やっぱりあなたが桔梗さんね。その写真とは別人のように奇麗になられてて最初は解らなかったけど、あの子の写真は真実しか写さないわね」
「え…」
ネリネの母親の何処かちぐはぐな言葉に、桔梗は中々理解できなかった。
「ちょっと待っててね。渡さなきゃいけないものがあるの」
そう言うと、ネリネの母は、しばらく席を外した。
数分後、戻ってくると、その手には、傷も何もない、分厚い、真っ新な本が一冊抱かれていた。
「これね、あの子が『もし、桔梗って言う女の人が訪ねてきたら、渡して欲しい』って言われていたの。中身が何なのか、私も知らないんですけど…どうぞ」
少し緊張してそれを受け取って、一ページ目を開いた。
桔梗は鳥肌が立った。
その一ページ目には桜の木の下で風に吹かれた桜の花びらが奇麗に桔梗を囲んでいた。
そして、次々ページを食い入るように観た。
そこには、草をむしる桔梗。お昼を一人で食べる桔梗。チューリップに話しかける桔梗。花壇に水をあげている桔梗…。
一年しか一緒に居られなかった、ネリネと桔梗の想い出が、分厚いアルバムいっぱいに写っていた。
「こんなに…私を撮ってくれてたの?」
ポロッと、母親がいるのを忘れ、呟くと、
「桔梗さん、あの子は、あなたの事が本当に好きだったんだと思います。その写真集最後に書かれていませんか?」
「え?」
そう言われて、写真集の裏表紙を見ると、桔梗愛しさと悲しみは頂点に達した。
【桔梗 俺の〔永遠の愛〕をここに捧げます】
と刻まれていた。
「こんな事、私が言うべきじゃないかも知れません。あなたを一生縛ってしまうかも知れません。ですけど、あの子を…ネリネを、忘れないでいてやってくれませんか?」
「…い…はい!」
一通り写真集を見て、ネリネの母親に気遣われながら、桔梗はネリネの実家を後にした。
アルバムを汚さぬよう、必死で涙を堪え…。
ネリネの強がりと、桔梗の鈍感さが交差して、二人の行き場のない想いを、互いに伝える事が出来ず、終わってしまった、恋。
しかし、恋もやがて成長する。
桔梗がネリネの為に、むしって、植えて、水あげた校庭の花壇のように、愛に育つだろう。
『また会える日を楽しみに』
from 花の名 あなたのカメラには、まだ私が写っていますか? 涼 @m-amiya
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