第20話 とうとう来なかったバースデーカード。

「今年は来なかったわね。あのバースデーカード。あなた誰からか知ってるの?」

桔梗は、専門学校を卒業し無事、一人暮らしをし、カメラの事務所に見習いとして入り、プロを目指して、毎日必死で奮闘していた。


しかし、事務所に入って五年。ネリネが何処で何をしているのか、解らないまま、今年は実家にとうとうバースデーカードは届かなくなってしまった。




「お母さん!本当に来てない!?郵便受けの奥とか!」

「ないわよ?よーく覗いたもの」

「そう…」

残念そうな桔梗の声に、

「大丈夫?」

桔梗を、心配そうに声を細める母に、ハッとした。心配かけまいと、

「いいのいいの!大丈夫。ありがとうね、お母さん。じゃあ、また連絡する」

「はいはい」





「なんで今年は来なかったんだろう?カメラマン辞めちゃったとか?…まさかね…」


ぶつぶつ言いながら、去年まで届いたバースデーカードを贈られてきた順に並べてみた。



「紫のライラック『初恋』サボテン『枯れない愛』カーネーション『無垢で深い愛』紫のすみれ『あなたの事で頭がいっぱい』パンジー『私を想って』

ナズナ『あなたに私のすべてを捧げます』赤いアネモネ『君を愛す』最後…」


そして…。


「ネリネ『また会う日を楽しみに』…か」




桔梗は、てっきり去年のこの『また会える日を楽しみに』と言うカードで、今年、会えるんじゃないかと思っていたのだ。




しかし、この日、桔梗はネリネに再会する。





「南田さん、ちょっと本屋にに買い物頼まれてくれる?」

人気植物雑誌の事務所で、カメラマンの仕事をやっと任されることが多くなった桔梗は、この日、先輩のカメラマンに頼まれ、本屋に買い出しに出た。



「すみません。いつものチェックお願いします」

「あぁ、いつもお世話になってます」

「こちらこそ」

「今やりますね」

「はい」



そんなやり取りを店員としていると、写真集の棚に見覚えのある写真が見えた。

(ネリネ君の写真!)



〔ダイヤモンド・リリー(本名・遠野ネリネ)追悼写真集〕






「ついとう…」


「追悼?」



目の前が真っ暗闇になった。



(ネリネ君が死んだ?)



裏表紙の、紹介文をめくると、

「遠野ネリネ(享年二十五歳)。中学生の時から花々のカメラマンを目指し、高校生の時から多くの賞を受賞後、Mスタジオに在籍。二年後に独立。中学生の時に、スティル病と診断され、闘病しながらカメラマンを続けていたが、数年前から病状が悪化し、昨年、七月二十三日に、二十五歳の若さで、逝去。」




「スティル病…?中学の時から?…そんな…」

目に見えるすべてがこの“死”に震えている。




【スティル病と言うのは、リュウマチ因子院生の慢性関節炎や、かゆみを伴わない移動性の淡ピンクの皮疹、午前中は平熱で、夕方から夜にかけて高い時には四十度に達する高熱が出る。症状がひどくなると、胸膜炎や、急性呼吸不全などを引き起こす病気だ。最悪の場合、死亡する可能性もある】





「また逢う日を楽しみに…って…なんで…最後にこんなバースデーカードを…?」



桔梗は人目もはばからず、写真集を抱き締めながら、泣き崩れた。

「ネリネ君…噓でしょ?嘘だって言ってよ…『また会う日を楽しみに』って…もう会えないじゃない!!ネリネ君!!…ね…りね…君…」



本屋のお客が、桔梗の乱心ぶりに、驚きながら、只、きっと苦しいんだろうな…と言う雰囲気が桔梗を包んでいた。




「南田さん、大丈夫?」

桔梗の肩をゆっくり持ち上げ、スタジオに連れ戻した。

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