第19話 やっと届いた、ネリネの想い
二人は、結局、その日は学校をさぼり、公園のベンチで久々にネリネの話をした。
桐也は気を使って、出来るだけ、ネリネの話を桔梗の前ではしなかった。
「ねりねは入学式の日、南田が桜の舞い散る入学式の日、ネリネのカメラ越しに見た女子が、“桔梗”って名前だって解った時運命だと思ったんだと思う」
「どういう事?」
「花言葉だよ。桜の花言葉は『優美な女性』。桔梗は『永遠の愛』なんだ。だから、何か不思議な運命を感じたんだと思う」
「…」
一旦止まったはずの涙がまた込み上げてきた。
そこで、桐也は、言おうかどうしよか、本当に迷ったけれど、伝える事にした。
「ネリネが大賞を撮った写真の、四葉のクローバーの花言葉、『私のものになって』なんだ」
「え?あれって、幸運が来るようにって意味じゃなかったの?」
「ネリネは自己表現へたくそだったから、あんな遠回しな告白になってしまったんだと思う」
「…馬鹿…なんで言ってくれなかったの?なんで今更誕生日カードなんて…。それも一方的に送り付けてくるだけなんて…」
正直、その理由を桐也は知っていた。
そして、校長、教師も知っていた。
何故急に転校したのか。
しかし、それを教える訳にはいかなかった。
ネリネと桐也の最初で最後の男同士の秘密を守る約束だったから。
こうして、ネリネがバースデーカードを送っているという事は、まだ、その秘密を桔梗に明かす訳にはいかないという事だ。
数十分泣きじゃくった後、桔梗はようやく平常心を取り戻した。
「ごめん、井上君。学校、さぼらせちゃって…。でも良かった。ネリネ君が今も元気で。こんなにも素敵な写真撮るような、プロにでもなっちゃったみたなネリネ君が…本当…良かった…ありがとう。桐也君、ありがとう」
「うん」
「私も頑張ってカメラマンになろうって勇気もらった。本当にありがとう桐也君」
「あ…」
「え?」
「あ、いや、なんでもない」
「そう」
桐也は思わず秘密を明かしてしまう所だった。
しかし、もしも、二人が今、再会しても、幸せは長くは続かない…。
そう…解っていたから、グッとくちびるを噛んだ。
「今日はありがとう。もう大丈夫だから、ごめんね」
「イヤ、良いよ。じゃあな」
公園で二人は別れた。
自分の部屋に戻ると、今日自分の体から何ℓ水分がなくなったか…と思うと、また、涙が流れる。
「ふっ。つい、泣きすぎの一日だったな…」
こんなにも泣くと、最後は笑ってしまう。
そんな感じでベッドで横になった。
疲れ切ってしまった。
でも、嬉しかった。
横になって、あまりに奇麗に撮られていた写真を、ネリネのものとは知らずも、二枚とも写真立てに入れて、部屋に飾っていた。
「花言葉…か…」
「!」
あんなに花に詳しくなったはずなのに、愛着だってもう演説出来るくらい湧いていたのに、花言葉は盲点だった。
そう言うと、スマホを鞄から取り出して、調べてみて、桔梗は、調べなきゃよかった…とすら思った。
「ライラック…“初恋”…?何よ…それは私のセリフでしょ?」
突然両想いになった二人。
そして、次に送られてきたサボテンの花言葉は…、
「サボテン…“枯れない愛”…。もういいよ…。もういい…。ネリネ君、会いたくなっちゃうよ…会いたいよ!ネリネ君!!」
泣きながら、久しぶりに封印されていたものをタンスから取り出した。
軍手、だ。ずっと見るだけで胸が痛くて、触っただけでネリネに投げられた事を思い出して、苦しくて、切なくて、たまらなく喉が熱くなった。
「会いたい…」
そう言うと、また、涙が零れた。
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