第18話 伝えたかった「好き」
「おい、桔梗、新聞持ってきてくれ」
「はーい」
高三の七月二十二日、日課になった新聞係に徹する桔梗。
すると―…、
「あ、また…」
郵便受けを開くと、去年と同じ表紙に、“ハッピーバースデー”と書かれた、ダイヤモンド・リリーと言う人物からはがきが届いた。
裏には、花の咲いたサボテンが、鮮明で奇麗なアングルでとらえられていた。
「奇麗…」
心が温かくなった。
「こんな奇麗な写真、どうやたら撮れるようになれるのかな?」
そう、不思議に思うくらいその写真は生命力にあふれていた。
動く動物でもないのに、躍動感を感じる。
「ねぇ、お父さん」
「ん?なんだ?」
「お父さんの知り合いにダイヤモンド・リリーって人いる?」
「さぁ…いないと思うが」
「そっか」
「どうした?」
「ううん。何でもない。学校行ってきます」
「あ、おはよう、井上君」
「おう、はよ、南田」
「ねぇ!見てこれ!」
「ん?」
「このはがき。すごく奇麗だと思わない?」
「本当だ、すげー。誰から?」
「んー、知らない人なんだ。ダイヤモンド・リリーって人」
「え!?」
「え?」
桐也のあまりの驚き方に、桔梗まで素っ頓狂な声を出してしまった。
「え…井上君、この人知ってるの?有名人?」
「…ネリネ…」
「へ?」
「それ、もしかしてネリネからかも!」
「え?なんで!?」
口で説明するかと思いきや、桐也はスマホを取り出して“ネリネ”と検索した。
すると、その画面に映し出されたのは、≪ネリネ(別称・ダイヤモンドリリー)≫と言う説明欄だった。
「嘘…花?ネリネって花の名前だったの?じゃあ、このはがき、ネリネ君…からなの?本当に?」
桔梗の体は、悲しさを、切なさを、苦しさを、すきを、巡り巡って、膝から崩れ落ちた。
そして、下を向いて、動かなくなった。
「大丈夫か!?南田!」
桐也の目の前で、桔梗の涙腺は壊れてしまった。
そっと腕を貸し、桐也は桔梗を保健室に連れて行った。
「…会いたい…会いたいよ…ネリネ君に会いたい」
「南田…」
桐也まで悲痛な表情になった。
「ごめん…泣かないって…人前では泣かないって決めてたのに…ごめんね」
「…まだ始業時間までだいぶある。…泣いとけ」
そう言うと、桐也は、泣きじゃくる桔梗の背中を撫でた。
どれくらいそうしていただろう。
もう今日は学校を休もうと、桐也は桔梗に言った。
会いたい。
言葉を交わしたい。
妬んだ女子に一括して、自分を守ってもらいたかた。
また、四葉のクローバーを不器用に渡して欲しかった。
『好きだ』と、伝えたかった。
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