第17話 いなくても、頑張れるよ。
―コンクール結果発表展示会当日―
「行かないの?」
会場のの入り口に来た桔梗の隣で、桐也が中々会場の中に入ろうとしない桔梗に問うた。
「ちょっと待って、井上君。あと一分!」
「…それ一時間前に聞いた」
「ふ――――――――――…」
深い深い深呼吸をして、会場に着いてから、約一時間二十八分。
桔梗はやっと会場へ入った。
まずは、賞には入らなかった作品が飾られている入り口付近を、自分のではないかと、慎重にゆっくり進み、そして、大賞と書かれていたのは――…
桔梗の作品ではなかった。
しょんぼりして、今にも泣きそうな桔梗に、
「おい!南田!右!右!!」
「…へ?」
大賞と書かれた作品の右横に、桔梗の名前がった。
【審査員特別賞】
と書かれていた。
「…ねぇ…桐也君…」
「お、おう」
「これって…にゅ…入賞…だよね?」
「あったりまえじゃん!!!」
「やった――!!」
「南田ぁぁぁ!!すげ――!!!」
二人は大声を出して喜んだ。
そこには、まだ雪の残るクロッカスの花に、季節外れの蜜蜂が花の蜜を吸うシーンが写されていた。
〔花の美しさと、力強い生物の一体化、季節の捉え方など、表現豊かである〕
と評されていた。
「お父さん、お母さん、じゃあ、良いのね?」
「まぁ…約束だしな」
「お母さんはよく頑張ったと思うわよ。このまま真っ直ぐ進みなさい」
「うん。覚悟は出来てる。頑張るね!」
こうして、夢にまた一歩…一歩ずつ動き出した桔梗。
そして、高校最後の一年が始まった。
環境委員の委員長になった桔梗は、草取りや、枯れ葉はき、水あげなど、今まで桔梗がほぼ一人でやって来た事を、無理のない程度で普通の委員たちに任せた。
この二年間で、学校内の花壇への興味や関心は一気に高まった。
みんな花壇の横のベンチでお昼を食べたり、談笑したり心地よさそうに日向ぼっこしたり…の生徒が増えたので、ベンチも増やされた。
ネリネに、この光景を見せてあげたい…。
桔梗は、今もまだ、ネリネを想っていた。
もう何処に行ったか、桐也にも連絡がなくなったという。
(元気?カメラは?ひねくれ具合は変わってない?ちょっとは愛想よくなってモテたりしていてね…)
なんて想像するだけで、一人でいると、涙が出てくる。
「いかん!気が抜けた!!」
自分の部屋のベランダで、涙を指で押さえて、鼻をすすった。
けれど、今、何処にいるのか、誰といるのか、それは好きな人か、そんな事を考えると、つい感傷に浸って切なくなる。
もう名前と、ちょっとひねくれもの、と言う事しか解らなくなった現状では、繋がっているのは、今、見上げているこの空だけだ。
今、もしもネリネもこの空を見上げていたら、もしかしたら、想いが通じるかも知れない…なんて思ってしまう。
今なら解るのに。この気持ちが“恋”だという事を。本当に、本当に、ネリネが大好きだったという事を。
でも、もしも、プロのカメラマンになれたら、いつか何処かですれ違うことくらいはあるかも知れない。
そう思って、今夜も眠りにつく桔梗だった。
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