第5話 青テン――素数ゼミと恋バナする

 そろりそろりと近付く。そして背後からパクリと行こうとしたが。何の拍子か、気付かれた。それはブンと飛び上がった。そしてその際、ピッと液をかけて来た。


「何だ。くせえぞ」


 青テンは急ぎそれをぬぐおうとして、短い手で顔をこする。


「わしを食おうとするからじゃ。ようやく13年目にして地中より出たというに」


「ずい分、長えな。おめえらは、6、7年経ったら出て来るって、以前、おっかあに聞いたぞ」


「あれらは並みのセミよ。我らは特別なのさ。何せ、我らは素数ゼミ」


「何だ。素数ゼミって」


「我らは他のセミと混ざらねえのよ。6年の奴は2回巡って12年。7年の奴はやはり2回巡って14年だ。どちらも我らより1年ずれる。つまりそれらとは恋に落ちないんだ」


「オオ。そうなのか。じゃあ、おめえらは13年としか付き合わねえのか。いろいろ試してみねえとつまんねえだろう」


「いや。そんなことはねえのよ。相手が限られてるってのは、そんなに悪いもんじゃねえ。何にしろ、そのおかげで俺たちは常に13年ごとに大発生する。そうなりゃあ、実は嫁さん捜しにはむしろ都合が良いのよ。そして、その結果として厳しい氷河期を乗り越えるを得たんじゃよ。

 ただ俺もまったく他に興味がねえ訳じゃねえ。実はわしが恋い焦がれておる相手がいる」


「オオ。そんな奴がいるのか?」


「17年ゼミよ」


「17年・・・・・・? そんなに地中にいるのか?」


「おうよ。そこばかりは、わしも頭が上がらねえ。おまけに相手も我らと同じ素数ゼミよ。ならばってんで、一度お付き合いできねえかと、そう想ったんだが、どうも難しそうだ。捜したんだが、その姿が全く見つからねえ。

 幸運に預かることができるのは、どうやら我らより後の世代のようだ」


「後ならチャンスはあるのか?」


「ああ。代々、命を伝える得たならな」


「何代、伝える必要があるんだ」


「分からねえ。残念ながら、そこの伝承が失われているんだ」


「そうか。知りたかったのにな」


「ただ、前回その幸運に巡り会った代からなら、分かる」


「なら、もったいぶらずに教えてくれよ」


「簡単だ。〈青いの〉でも計算できらあ。いや、計算なんてものでもねえ。言ったろう。素数だと。つまり我らは途中で交わらねえのさ。そのまま17代だ」


「何年になるんだ?」


「13年を17回だ。221年さ」


「気がなげえ話だな。おめえの子孫がそうなったら、いいな。分かった。これからセミは食わねえことにする」


「ありがとうよ。もし、そうしてくれるなら恩に着るぜ。〈青いの〉。ただわしはまだあきらめた訳じゃねえんだ。この命が尽きるまでは、捜し続けるつもりだ」


「そうか。俺も負けねえぞ。きっとベッピンさんを見つけるぞ」


 そうして2匹は別れた。

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青いテンのgood night ひとしずくの鯨 @hitoshizukunokon

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