きつねとたぬき
熊蔵
第1話 化け狐
インスタント商品である赤いきつねを食べるのはこの日が初めてだった。
理由としては早く何かお腹に入れたかった、ただそれだけ。
この時の僕はどこにでも売っている普通のインスタント、という認識で甘く見ていた。
タイマーを5分間セットし、狐の容器に付いていた粉やスープ入れ、お湯を注ぐ。
お湯を注ぐと妖気がたちはじめ、香りが一瞬の内にその場を支配する。ただの狐だと思っていたがその化け狐は一気に本性を露にし始めたのだ。
食欲を駆り立てる匂いが鼻に入り込み、口からは少量のよだれが自然とこぼれていた。
(何!?)
無意識で垂れてしまった唾を、僕は服の袖で拭いた。
僕は甘かった。最初はどこにでもある普通のきつねだった。しかし蓋を開けお湯を注いでみれば、そこにいたのは化け狐の姿。
僕の食欲は駆り立てられ、気づくと狐に両手を添えていた。添えていた手を震えながらも途中で堪える。
(・・・・・・・何という誘惑だ、気を抜けば一瞬で欲に支配される)
経過時間はまだ4分30秒。僕はタイマーが鳴るのを今か今かと待っている。
そして待つこと30秒、運命のアラームがついに鳴った。
僕は無我夢中で狐に飛びついた。箸を使い、麺をすする。
(美味しい。これがただのインスタントの麺だというのか)
キツネの味は淡々と僕に麺をすすらせた。
箸が止まらない。腹が空いていた者にとって、この味はもう悪魔的だった。
そして気づいたときには最後に残しておいた汁を飲み込み、一滴残らず完食してしまっていた。
(もう…無いのか)
きつねがいなくなって突如空しい気持ちになった僕は、静かに部屋を出てスーパーに向かうのだった。
きつねとたぬき 熊蔵 @Baerlin
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