魔法少女スーちゃん

@HasumiChouji

魔法少女スーちゃん

「ちょ……ちょっと待って、ひょっとして、これが……」

「ああ、レプリカだが……私が『マスコット』をやっている『魔法少女』の将来の姿だ」

 その女の子は、科学的方法と魔法的方法の両方で調べても「何の魔力も持っていない普通の女の子」と云う検査結果しか出なかった。

 ただ、知能・知識は異常に高いが……本人は「才能ではなく努力の結果であって、自分は天才でもなれば、魔法的な方法で知能を向上させた訳でもない」と主張している。

 彼女は、それ以上に意味不明なもう1つの主張をしていて……その主張の真意を説明する為に呼び出されたのが……ここ北九州市立博物館のある展示物の前だった。


『門司港近辺に魔物フィーンド出現。系統は奈落古代種アビサル・エンシェント・ワンズ。飛行能力無しもしくは低。潜水能力不明。瞬間移動能力不明。遠隔攻撃能力有り。推定戦闘能力BプラスからAマイナス。鎮圧に失敗した場合の推定被害はBからBプラス』

 「魔法少女ギルド」からテレパシーで北九州と下関の全魔法少女に連絡が入った。

「せんせ〜、すいません。おなか痛くなったんで、保健室行ってもいいですか?」

 あたしは手を上げて、そう言った。

「またですか? 仕方ないですね」

 もちろん、保険の先生はあたし達のチームの「マスコット」が変身した姿なので、口裏を合わせてくれる。

 あたしは、保健室ではなく、屋上の方に向かい……。

『チーム「左道少女ヨーギニー」のサンバラ・ホワイト。現場に向かいます』

『ちょっと待って、現場付近で属性・正体が不明の魔力を検知……別のポータルが開いたわ』

『わかった、気を付ける』


 変身して空を飛び現場に向かうと……。

『あ……あの……あれが出現した魔物フィーンド奈落古代種アビサル・エンシェント・ワンズ系なら、もっとグチャグチャしてて触手とかが有る筈じゃ……?』

『違う……貴方が見てるモノは……分析した限りでは、魔力は有るけど、この世界の生物よ』

『ちょっと待って……ここで言う「この世界」って、どこまでの事?』

 あたしの下で道路を疾走していたのは……全長約5mのティラノサウスルだった。

 そして……その後をトラックが追っており……。

「えっ?……えええええッ⁈」

 トラックの荷台が開くと、無数の機械のようなモノが飛び出して……ティラノサウスルの体にくっつき……。

 な……何だよ……あれ……?

 誰だよッ⁈ なんて訳の判んないモノを作ったのはッッッッ⁈


「ごくろうさん、ゆっくり休んで」

 あたしとそう変らなさそうな齢の作業着姿の女の子は、全長一〇m以上の魔物フィーンドを飛び蹴り一発で倒したティラノサウルスにそう言うと手を振っていた。

 ティラノサウルスは「ぎゃお」と「にゃお」の中間ぐらいの声を出すと……その時、魔力を検知……ポータルが開き、ティラノサウルスは、そのポータルに入って行く。

 そして、帰り際に、こっちを振り向き、また「ぎゃお」と「にゃお」の中間ぐらいの咆哮。

 多分だけど……ティラノサウスルの機嫌は良さそうに感じた。

「あ……あの……あれ、あなたの『使い魔』?」

 あたしは、ティラノサウスルのあるじらしい女の子にそう訊いた。

「違う」

「じゃあ……その……あなたの『マスコット』?」

「違う」

「じゃあ、何?」

「友達だ。知り合った経緯は……説明するのに、一時間以上かかる」

「あのさ……魔法少女活動をやるんなら、ギルドに入って講習を受ける必要が有るんだけど知ってる?」

「そうか……じゃあ、加盟手続と受講は私が代りやっていいのか?」

「代り?」

「ああ、私は魔法少女じゃない」


「何なのよ、これッ?」

 その女の子がギルドの北九州支部で登録したデータは無茶苦茶なモノだった。

 本名:不明。

 現住所:「現」の意味が不明。

 生年月日:大体しか判らない。

 魔法少女としてのコードネーム:スーちゃん。

 携帯電話番号・電子メールその他の連絡先:その手のモノは一切所持していない。

 そして、何故か「マスコット」の所には、人間の女の子の個人情報が延々と入力されており……「マスコット」の個人情報は、その女の子の持っていた身分証の内容と一致していた。

 当然ながら、登録エラーの大量発生だ。

「『魔法少女ギルド』なら判るだろう? 私には魔力は無いし、もし、私が気付いてないだけで魔力を持っていたとしても、その魔力が発現した事もなければ、魔法の訓練を受けた事もない」

「ちょ……ちょっと待って……どう云う事?」

「ここの登録システムには根本的な欠陥が有る。たしか、異世界の妖精なんかも、この世界で『魔法少女』として活動してる事例が有った筈なのに、それに対応してない」

「そりゃ、そう云う妖精も、人間界で活動する場合には、魔法少女ギルドの仲介で、人間としての仮戸籍を……」

「待て、この世界を『人間界』と呼ぶのは、あまりに人間中心主義的だ」

「何を言ってるの……あ……まさか……あの時、あそこに私が気付いてなかっただけで、妖精系の魔法少女が……」

「居ない。少なくとも私は、そんな誰かの存在は認識していなかった」

「で、貴方は魔法少女じゃない……と」

「ずっと、そう言ってるだろ」

「じゃあ、あの時、あそこには人間の魔法少女が居て、その人には何かの理由で戸籍が……」

「そんな人物も居なかった。そして、これまた同じく、少なくとも私は、そんな誰かの存在は認識していなかった」

「一体全体、何がどうなってるの?」

「判った。本人を前に説明した方が良いだろう」


「あ……あの……まさか……」

「そうだ……。経緯を話すと長くなるが……若かりし日の……人間年齢に換算すると十歳前後らしいが……彼女が魔法的な手段でこの時代にやって来て『魔法少女』活動をやっている。私は、その手助けをしているだけだ」

 そう言って「魔法少女のマスコット」を自称する人間の女の子は……博物館に展示してある今まで発見された中では最大クラスのメスのティラノサウルス「スー」のレプリカ骨格を指差した。

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