裸の女王さま……その後

裸の女王さま……部屋のドアを少しだけ開けて外を覗く

 裸の女王さまが、天岩戸あまのいわど部屋にお隠れになってから。

 国の空は鉛色の曇天へと変わり、国に太陽の光りが差し込まなくなってしまいました。

「これは困った、なんとか女王さまを、外に連れ出さねば」

「国民の気持も、曇天続きでは沈んでしまう」


 大臣たちが集まって話しをしていると、女王を羞恥の罠にかけて、女王が部屋に引きこもる原因を作った張本人の侍女が。

 困り果てている大臣たちの、ティーカップに紅茶を注ぎながら言いました。

「女王さまを外に引っ張り出す。参考になるかどうかは、わかりませんが……ある国の、こんな話を聞いたコトがあります」

「ほう、どんな話かな? 聞かせてくれ」

「ある国でコートを一枚着た女性の旅人が、田舎の道を歩いていました」

「ふむっ、ふむっ、それで」


「空から道を歩いている女性の旅人を見ていた、太陽と北風がある賭けをしました『あの歩いている女性の着ているモノを脱がせた方が、一年間空の王として君臨できる』と……」

「空の王とはまた、太陽と北風も大きく出たものだ……それで、どうなった?」


「最初に北風が女性の衣服を吹き飛ばそうとしました……女性は喜んでコートを脱いでしまいました」

「なんだ、北風の勝ちか」

「いいえ、この話には続きがあります……試しに太陽が、汗ばむほどのポカポカ陽気で女性のコートを脱がそうとすると。

やっぱり、女性は嬉しそうにコートを自分から脱いでしまいました」

「???」


「実は女性は、露出狂の旅人でコートの下には何も着ていない。ブーツ裸体のスッポンポンの変態でした……どうですか? 女王さまを部屋から外に連れ出す参考になりますか?」

「女王さまは変態ではない……たぶん。

そもそも女王さまは、部屋の中で最初から裸なのだから。北風と太陽は関係ないだろう」


 侍女の小さな「チッ」と舌打ちする声が聞こえました。

 侍女が言いました。

「それでは、あたしが女王さまを部屋の中から引きずり出す、屈強な若者を探し出して来て。裸の女王さまを廊下に引っ張り出しましょう」

「最初から、そのアイデアを出してくれ」


 しばらくして、侍女はヘラクレスのような鍛えられた、マッスルボディの若者を城に連れてきました。

 侍女がロープで縛られている屈強な肉体の若者を指差しながら、大臣たちに言いました。

「国内に不法侵入してきた旅人です──市場をウロウロしていたのを見つけて、自警団と一緒にとっ捕まえて女王さまの部屋の前に連れてきました……捕まえる時に自警団が二~三人犠牲になりましたが」

 侍女から紹介された若者が、体を揺するとロープは簡単に千切れて床に落ちました。

「飯はどこだ? 美味い飯を食わせてくれると言うから、捕まってやったんだ」

「最初の仕事が終わったら、食べさせてあげますよ」


 侍女は大臣たちに向かって、片手を差し出して言いました。

「裸の女王さまを、部屋から引きずり出せる者を探して連れてきたんですから。報酬ください」

 大臣が金貨が入った布袋を侍女に、渡すと報酬を受け取った侍女は、ニッコリ笑って筋骨たくましい若者に言いました。

「報酬もらって、もう大臣たちには用が無いので……遠くへブッ飛ばしちゃってください……ブッ飛ばしてくれたら食事にお酒も付けますから、お望みなら東洋の神秘のピクルス『タクアン』も付けます」


 若者は自慢の筋肉腕で、次々と大臣を空の彼方へとブッ飛ばしました。

「悪いな、これも一飯のためだ……山の向こうへ国境を越えて、飛んでいけぇぇ」

「ひぇぇぇぇ! おごぁぁぁっ?」


 すべての大臣を国外追放した侍女が、腕組をしてうなづきます。

「よしよし、これで邪魔者は消えた。この国はあたしのモノだ……さあ、裸の女王さまを部屋から引きずり出して白日の下に……民衆の目前に」

「その前に、女王さまのコトを少し知りたい……女王さまの好きなモノは? 

できれば、女王さまには部屋から自発的に外にでてきてもらって、穏便に解決したい」

「そうねぇ、女王さまは珍しい動物が好きかしら」

「他には?」

「にぎやかな踊りも好きかしら、特に太鼓のリズムは好きみたい」

「女王さまの好みが、わかれば簡単だ……手で持てるサイズの鏡と、ボディペイント用の顔料。それと丸太の中をくり抜いた皮張りの太鼓を用意してください」


  ◇◇◇◇◇◇


 数日後──筋肉室の若者は用意してもらった、物品を持って裸の女王さまが引きこもっている、部屋のドアの前に立ちました。

 柱の陰に隠れた侍女が、若者の行動を注視していると。


 マッスルな若者は、露出させた自分のアレ〔男のシンボル1号〕に、ボディペイントで模様を描くと施錠されている、ドアに向かってこう言いました。

「女王さま、【珍しい生き物】を捕まえてきました」

 カチッと内側からカギを開ける音が聞こえ、少しだけドアが開きました。

 若者は、すかさずペインティングされた自分の男のシンボル1号を、鏡に写して女王さまにお見せしました。

「きゃあぁぁ! 変な模様のヘビ!」

 女王さまの悲鳴と同時に、バタンと少しだけ開いたドアが閉じられ再び施錠されてしまいました。


 柱の陰から様子を見ていた侍女が、走ってきて若者に言いました。

「言い忘れていましたが、女王さまはヘビが苦手でした」

「それを先に言ってくれ」

 侍女が外気浴をしている、男のシンボル1号を指差して言いました。

「てっきり、それを開いたドアの隙間に差し込んで、ドアストッパーにするのかと思って見ていました。

柱の陰から見ていますから、今度はちゃんと露出狂の裸の女王さまを、部屋から外に出してくださいよ……成功したら、明日の朝食は東洋の神秘TKGにしてあげますよ」


 そう言い残して侍女は柱の陰に隠れました。

 マッスルボディな若者は、今度は衣服をすべて脱ぎ去ってヌードモデルのような姿になると、丸太の太鼓を叩きながらドアに向かって言いました。

「女王さま、外に出てきて一緒に踊りませんか? わたしは、あなたの仲間です」


 ドアがさっきよりも広く開き、冷ややかな目で若者を見ていた裸の女王さまが、一言ポツリと。

「……変態」そう呟いてドアを閉めて施錠しました。


 柱の陰から成り行きを見ていた侍女は、舌打ちをすると。

「チッ、タレ乳女は、なかなか外に出てこねぇなぁ」

 そう呟きました。


  ~おわり~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

裸の女王さま〔童話パロディ〕 楠本恵士 @67853-_-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画