いや、それは普通勘違いしないパターンだし、身を引くとか逃げるとか許されないやつだから!

赤茄子橄

本文

※ラスト若干の不快になるかもしれない男女のそれ的な表現部分があるのでご注意です。




「ハ、ハルくんが引っ越した!?!?!?!?!?!?」




私は、ハルくんこと大黒雪桜だいこくゆきはるくんのおうちを訪ねてきていた。

目の前のマンションの一室彼の家


インターホンを何度も鳴らしても何も返事がない。

ポストにもいくつかの郵便物が挟まったままになっているし、私が持ってる合鍵も入らない。


驚いた私はすぐに大家さんのところに向かった。


そこで聞かされた驚愕の事実に、私の頭は混乱一色。


ハルくんは私の2つ年下の幼馴染の男の子で、昔からお付き合いしている私の大好きな彼氏くん。

2日前から急に彼からの連絡がこなくなって、しかもこの2日間学校に来ていないらしく、心配になって来てみればこれだ。



待って待って待って待って..................。どういうこと?ハルくんが何も言わずに私の前からいなくなった............?



ハルくんは昔から趣味に没頭すると凄い集中力で周りが見えなくなるタイプで、1日や2日連絡が取れなくなったりすることはこれまでにも何度もあった。

だから、勝手に今回もそれだと思い込んでいたんだけど。


どうやら今回ばかりはそういう単純な話じゃないみたい。


どうして?これまでこんな大事なことを私に相談もなしでしたりしなかったのに......。








ハルくんとは私が幼稚園の年長さん、ハルくんが年少さんとして入園してきたころからの付き合いで、そのころは家がご近所さんだったこともあって仲良くなった。


告白されたわけでもしたわけでもないし、いつからお付き合いしてるというわけではないけれど、私達の関係は誰がどう見ても恋人以上の関係と形容するしかないそれだ。


幼稚園の頃から小学校、中学校と上がっても、それから今の高校に進んでも私を追いかけてきてくれてずっと一緒に生きてきた。

遊ぶのも勉強するのもずっとハルくんと一緒だった。


むしろハルくんと一緒に過ごしていない時間なんて、学校で過ごしている時間くらい。

クラスというか学年が違うから、それ自体は仕方ない。


それでも登下校は一緒だし、お昼休みにはハルくんがお弁当を作ってきてくれて一緒に食べてくれるから、離れ離れなのはそれ以外の時間だけ。


けれど、これまでにも彼と一緒の時間を過ごしにくい状況は定期的にあった。

いつも私が進学してから2年間は、彼と過ごす時間は必然的に少なくなる。


当然だよね。私が小学校に上がってもハルくんはまだ幼稚園生を2年間続けなきゃいけなかったし、私が中学校に上がっても3年生になるまではハルくんは小学生。

それで今年、私が高校3年生になってやっと、ハルくんも高校に入学してきてくれた。


でもこうやって一緒の高校で、一緒に登校して一緒にお昼ごはんを食べられるのも今年だけ......。


あぁ、神さまはなんて残酷なんだろう。

こんなに愛し合ってる私達の年齢を2つも離してしまわれるなんて!


とはいえ、そんなことでは私たちの愛は引き裂けない。と思っていた。


去年からハルくんは一人暮らしを始めていて、私はかなりの頻度で入り浸っている。


この一人暮らしはハルくんが「男らしくなる修行のため」と言って始めたものだ。

凄いのは、ここのお家賃も生活費もハルくんが自分で工面してることかな。


ハルくんは昔から手先が器用で、小学生の真ん中辺りから自分でアクセサリーを作るようになっていた。

私にもオリジナルのアクセサリーをたくさん作って贈ってくれたんだよね。どれも今でも大事に使ってるんだ。


その多くは、ハルくんの名前にもある「雪」や「桜」をモチーフにした可愛らしいもの。


最初はただの趣味だったみたいなんだけど、作ったものをフリーマーケットに出したら女の子たちにすごく人気で飛ぶように売れたことから、だんだん趣味以上の取り組みになっていったみたい。


小学校の高学年のころにはそれをオンラインショップで売り始めて、かなりの数を作っては売って、収入はかなりいいみたい。


それで得た収入で一人暮らしをしているということ。

ハルくんのご両親もおおらかで放任主義だし、この街も治安が良くて住人の皆もいい人たちばかりだから、あんまり心配なく送り出したみたい。


結果、私の家とハルくんの一人暮らしのおうちの距離は離れちゃったけど、それまで培った関係のおかげで入り浸らせてもらえていて、むしろ2人の距離は近づいたと言って過言じゃないと思う。


まぁ当然、当時中学3年生だったときも高校生に上がった今も、ハルくんの性欲は年齢相当、いや多分一般的なそれよりもきっと強くて、毎日毎日ただれた生活を送ってきた。

いや、ただれた生活をしてたのは幼稚園の頃からなんだけどね。


ともかく私が誘って、ハルくんの理性が崩壊して、私が気絶するまでシてもらうのがほとんど日課になっていた。

それでいてハルくんは勉強もしっかり頑張ってたし体力ありすぎだよね。











そんなハルくんと私の愛の巣が、解約されていた。


確かにハルくんの家には私の私物はほとんど置いてなかった。服もハルくんのを着てたし、その他もなんでもハルくんのものを使わせてもらってた。

お金も私もちょっとは払うよって言ったけど、ハルくんは頑なに受け取ってはくれなかった。


だから私が解約の事実を知らなくても、おかしいということはないのかもしれない。





それにしても......それにしてもおかしいでしょ!?


メッセージアプリCHAINチェインを開いて、ハルくんとのメッセージのやり取りを確認するも、未だに既読すらつかない。


そっ、そうだ、電話なら!


思いついた瞬間に電話帳からハルくんの電話番号を見つけ出して、というかハルくんの電話番号しか登録してないからそれを選んで、電話をかける。


こういうときに連絡方法が1つだけじゃないというのは助かる。


ドキドキとしながら端末を耳に当てて待つ。

短い電子音のあと、人(?)の声らしきものが聞こえて、その刹那だけはほっとしたけれど、すぐに間違いと気づいた。


だって、私が聞きたかった大好きなハルくんの声じゃなくて、さらに絶望的な音声が流れてきた・・・・・から。


『おかけになった電話番号は、すでに使われておりません』





..................!?!?!?!?!?!?


電話も解約しちゃったの!?


え、どうして!?


混乱が最高潮に達している私の元に、ピコンッとCHAINの通知音が届く。


恐る恐る端末を見てみると、メッセージの送り主の名前のところに「ハルくん」の文字。

慌てて彼とのチャット画面を開く。




<今までありがとね、バイバイ>


そこには1文だけ、顔文字も絵文字も何もない、シンプルな一言が浮かんでいた。


ま、まさか私、捨てられちゃった......のかな......?



理由もわからないままハルくんから一方的に別れを告げられて絶望的な気持ちに染まる。


だけど、もしかしたら明日になったらハルくんも学校にくるかもしれない。

そうなったらそこで問い正して、私に悪いところがあったなら教えてもらおう。何か誤解があったなら修正しよう。


そうだ、まだ全部終わったわけじゃない。ちゃんと元通りにできるはず。頑張れ私!






と思って次の日に学校にきたけれど、どうやら彼は今日も登校してきてなかったらしい。

そこで先生にお話を伺いに行ったら、驚愕の事実を伝えられてしまった。


「あぁ、大黒くんか......。あんまり他の生徒に言っちゃいけないことだけど、まぁ大黒くんとずっと一緒の恵比寿さんにならいいかしらね。彼ね、昨日付けで転校しちゃったのよ」


先生が「恵比寿さん」と呼ぶのはもちろん私。恵比寿時羽えびすときは

私とハルくんがラブラブで昔からずっと一緒なのは学校の誰もが知ってるからこそ、教えてくれたんだと思う。


にしてもそれどころじゃない。


え?なに?ハルくんが転校した!?


そんな即日で転校とかありえるの!?


しかも、これも私にもなんの相談もなく!?


ハルくんのお義父さんとお義母さんに話を聞きたいけど、ハルくんが1人立ちしてから2人とも海外で自由気ままに暮らしてるらしいし、連絡先はわからないから聞きようもない。


先生にも、ハルくんがどこに行ったか、どの学校に移ったのかを伺ってみたけど、さすがに知らないと返されてしまった。



私とハルくんには、いつも一緒に過ごしている小学校からの幼馴染がいるんだけど、その子たちも何も知らないらしい。


有力な情報源が潰えてしまい、ハルくんから捨てられた可能性が濃くなってきた今、私の脳裏にはマイナスなことばかりが浮かんでくる。


いやだ......いやだよぉ。ハルくん、なんでなの?どこにいっちゃったの?

タイミング的に、もしかしたらあれ・・が関係してるかもしれないけど......。そんなに嫌だったのかな......。


涙腺はまもなく決壊しそう。



だけど私はそんな諦めのいい女じゃないよ。ここはぐっとこらえるんだ私。

まだ本当に捨てられたと決まったわけじゃない。


なんの理由も聞いてないんだから。










それに、ハルくんが私を捨てるだなんて。そんなの..................絶対に、絶対に、ぜーったいに許さないんだから。

こんな身体・・・・・にしといて、責任を取らないなんて、許さないからね。逃さないよ。


見つけ出して2度と私の側を離れられないようにしてやる。



*****



「はぁ......自分で決意したことなのにこんなに後悔してる......。やっぱボクは女々しいやつだ。こんなだから時羽ときはちゃんを繋ぎとめておけなかったんだろうなぁ。はぁあぁぁぁぁ」


ボク、大黒雪桜だいこくゆきはるは絶賛後悔中。


理由は、自業自得なんだけどね。


ボクには昔からすごく好きな女の子がいる。

恵比寿時羽えびすときはさん。2歳年上で幼稚園の頃から一緒に遊んでくれたお姉さん的な存在の幼馴染。


時羽ちゃんはいつも優しくて、ボクのお願いはほとんどなんでも聞いてくれたし、どんなときも気を遣ってくれたり、落ち込んでる時は慰めてくれたし、毎日のように気持ちいいこともしてくれた。


容姿端麗、頭脳明晰。立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花。だけども品行方正というわけではない。

あんまりまじめじゃなくて、学校をサボるのとかも躊躇がなかったり、だけどそんな奔放なところもみんなあの素敵な笑顔で絆されちゃうような、そんな女性。


左右どちらの耳にも5個ずつあいてるピアスのあとも、そんな彼女のミステリアスな魅力を高めている。


まぁサボってもらうときもピアスをあけてもらうときも、だいたいボクがお願いしてやってもらってるんだけど。


ともかくそんな素敵なヒトだから、いろんな人からアプローチを受けている。......らしい。

端的に言えば、当たり前だけど、モテるってやつだ。


だけどこれまで誰からの告白もOKしたことはないらしくて。


自慢だけどボクは時羽ちゃんと長年一緒にいてかなりの時間を共に過ごしてきた。

それに、告白はできてないけど、いろいろと・・・・・アプローチはかけてきたつもりだ。


だから正直ボクは心のどこかで、時羽ちゃんもボクのこと好きでいてくれてるんじゃないかって、そんな幻想を抱いていた・・・・・・・・




でも出会ってから10年以上経って告白の1つさえできないボクみたいな女々しいやつはやっぱりだめだったみたいだ。


先週、ボクの家で時羽ちゃんと話してたとき、ふと彼女が放った一言で、ボクは告白する前に失恋を悟ってしまった。


「私、たくさん束縛してくれる人がタイプなんだよねぇ〜。男らしくめ〜いっぱい愛を注いでくれてるのがわかるようなさぁ。私の同じクラスの子の彼氏がすっごく束縛が強いらしくてさぁ。他の男の子と喋ってたら監禁してくれたりするんだって〜。あーあ、憧れちゃうなぁ〜」


っていうね。


時羽ちゃんはどうやらそのクラスメイトの彼氏さんのことが気になってるんだろう。

ボクは全然束縛が強くないし、時羽ちゃんを監禁することなんてできない。間違っても男らしくない。


ボクもありがたいことにこれまで定期的に女の子たちが告白しにきてくれたことがあった。

そこでボクが「なんでボクなんかを好きになってくれたの?」って聞いたら、みんな「ガツガツしてなくて他の男の子たちみたいに恐くないところ」とか「優しいし女の子の気持ちに共感してくれるところ」とか「おおらかで何でも許してくれる寛大なところ」だなんて答えてくれた。


つまり、とにかく女性の立場に寄り添ったり優しくしたりするところを評価してくれているということらしい。

好意を持ってくれることも、そういうところを評価してくれたというのも、素直に嬉しい。


だけどボクにとっては、その評価は呪縛。


男らしくなりたいというボクの思いとは対極。

今回の時羽ちゃんのタイプ像との比較に至っては、束縛がきつくて監禁したりするような度胸なんてまるでない脈なし系男子。


そんな時羽ちゃんの言うタイプの男性像とはかけ離れたボクにはチャンスもないんだろう。


しかもその話をしてるとき、時羽ちゃんはボクの顔をチラッチラッって見てきてた。

あれは多分、「協力してよね」っていう意思表示だと思う。


時羽ちゃんが困ってたり助けを求めてくれるなら、ボクは全力で力になりたいと思っていた。いまでもそう思ってる。

だけど、彼女の恋を応援する・・・・・・・・・っていうのだけは、むりだ。


物語の登場人物には、自分の心を殺して好きなヒロインの恋を応援できるような聖人もいるけど、ボクはそうじゃなかった。

そんなことをするくらいなら、彼女の事を忘れて何もなかったことにして生きていきたい。


静かに、物言わぬ貝になりたい、というやつだ。


そういうわけで結局女々しく逃げるっていう選択肢を取るしかなかった。


そう、ボクは昔から男らしくなれないんだ。


昔、ボクが小学生のころ、テレビに映ってた人がインタビューに答えてた。

ボクの趣味であるアクセサリー作りとか、ピンク色が好きだとか。そういうのからは男らしさを感じられないよねって。


でも趣味嗜好をやめるなんてできないままで。


周りの友達はみんな、アクセサリーもピンクとかも、男の子が好きだとむしろカッコいいなんて慰めてくれたけど、口ではなんとでも言えるよね。

もしかしたら心の中では女々しいボクをバカにしてたのかもしれない。


あのころから、趣味とかはやめられないけど、その代わりそれ以外のところで、時羽ちゃんを守れるくらい強くなって側にいても恥ずかしくないくらい男らしい人間になろうって決めた。


それで運動も勉強も頑張って自分の周りではトップレベルになったし、護身術を身に着けて、流行のファッションとかにも目を配って、家事もなんでもこなせるようにしてきた。


思いつく限りのことはやってきた。


だけど、ことここに至って、大好きな女性の恋路を支えて後押しするわけじゃなく逃げてきたあたり、やっぱりボクの本質は女々しかったらしい。


あぁ、やばい。やっぱ今更になっても後悔で泣けてくる。






ともかく、時羽ちゃんから全力で逃げることを決めてからのボクは、諸々の手続きについて、これまでで1番男らしく早い意思決定をしたと思う。


時羽ちゃんのタイプの男性像を聞いた日から、1週間で転校と引っ越しの準備を完了した。

それに携帯端末も電話番号を解約した。過去のCHAINアカウントからログアウトする前に一言だけ時羽ちゃんにメッセージを送って、端末自体を新しくした。


時羽ちゃんは優しいから、もしもボクの転居先を知ってしまったらなにかしら様子を見に来るかもしれない。

だから彼女にはばれないようにことを運ばないといけなかった。


仲が良かった幼馴染たちにもばれないようにコトを運んだ。



それ以外にも、彼女が接触できる人に転居先を知られるわけにもいかない。時羽ちゃんの行動力はまじで尋常じゃないから、そんな身の回りの人が知ってたらバレてしまうはずだ。


なので今回は仕事をする中でたまたま知り合った、何かわからないけど裏の仕事を生業としているらしい知り合いのツテで内々に手続きを進めさせてもらった。


これまで住んでいたところからはかなりの距離があるし、新しい学校や周辺住民の方々の中にもかつての知り合いは誰ひとりとしていない。


これで過去の人間関係はほとんど完全に精算できたと思う。

ボクはここから新しい人生の一歩を踏み出すんだ。




けど正直こんな急な転校を受け入れてくれる学校があるなんて思ってなかったなぁ。

今通ってる学校には感謝しないといけないよね。






そんなこんなで、現在、転校・転居から3ヶ月経ち、夏も終わりに差し掛かり、あたりの景色は秋の様相を呈している。


まだ高校1年生の春も終わりの頃なだけあって、なんだかんだでこっちの学校にもすぐに馴染めた。

クラスメイトのみなさんだけじゃなく、この学校の生徒さんはみんな優しくて、いろいろと話しかけてくれたりする。


まだこっちにきたばかりなのに、ボクなんかに告白してくれる子もでてきた。


ほんとにありがたい限りだし、未だ心のなかに燻る時羽ちゃんへの想いを断ち切るためにも誰かとお付き合いさせてもらおうかとも考えた。

でもやっぱりボクにはそんな最低なことはできなかった。


心が別のところにあるのにお付き合いするなんて、いくらなんでも本気でぶつかってきてくれた相手に失礼過ぎる。


もしかしたらこういうところも、男らしくない判定を食らったりするポイントなのだろうか。わからないけど。



恋愛で空いた心の穴は、今はまだ恋愛では埋められそうになかったから、とにかくこれまで以上に勉強と仕事に没頭している。


仕事っていうのは趣味が高じて始めることになったアクセサリー作りで、おかげさまで結構な収入源になっている。

今回いろいろ内密にかつ素早く動けたのも、これで得た収入のおかげだ。


さらに、今のボクの魂の叫びやら恨みみたいなのが籠もってるのか、ピアスもネックレスも他のいろんなアクセサリーも全部、すごい売れ行きを記録してくれている。

正直1人で製作するにはいっぱいいっぱいなくらいだ。


まぁ、おかげで余計なことを考えなくて済んでるわけなんだけどね。









異変というか、事件というか、そういうのが起こったのは、今日も授業が終わってすぐ自宅に直帰しようと、学校を出ようとしたところだった。


校門の石のところに背中を預けながら、手持ち無沙汰に何かを待つ横顔が視界に入った。

刹那、ボクの背中に電気が走った。......ような気がした。


めちゃくちゃ会いたくて、でも一生会いたくなかった彼女・・

どれだけ距離があってもボクが見間違えるはずがない。



まだ校門まで100m以上はあるだろうところで、彼女が視界に入った瞬間、固まってしまったボクの身体は一向に動いてくれそうにない。

なんとか視線を外そうと気合を入れるも、3ヶ月間、力づくで蓋をして溜め込んだ欲求・・がそれを許してはくれなかった。


しばらく見つめるように硬直していると、なにかの気配を感じたのだろうか。彼女がこちらを振り向いた。

その瞬間、時羽ちゃんはほんの刹那の間だけ、秋の景色が一瞬で春に変わったのではないかと錯覚してしまうほどの温かい笑顔を浮かべた。


かと思うと、地獄の主様もかくやというほどの怒りを宿した形相に変化した。

長い時間、彼女の側でその表情を眺めてきたつもりだったけど、こんなに怒った表情は初めて見た。






絶対に会うことはないと信じ切っていた恵比寿時羽の、ありえないほどブチギレ切った姿が、そこにはあった。




*****




私はハルくんが失踪、もとい転校してしまってから、いろんな伝手をフルに活用して彼を探した。

学校も休学して、全部の時間を彼を探すのに使ってきた。


だけど、そんな私をあざ笑うかのように彼の足取りはつかめないまま、1ヶ月、2ヶ月と、時間だけが無残に過ぎていった。


これだけ調べても何も当たらないなんて、ハルくんってば、一体どんな手を使って引っ越したんだろう。

少なくとも普通の方法ではこんなに何の証拠も残さずに去るなんてできなかっただろう。



そんな疑問と、もう一生会えないかもしれないというネガティブな思考にまみれつつ彼の捜索を続けていた。


ハルくんがいなくなったのはまだ春が残って夏に差し掛かろうかというころだった。

だけど今、季節はすでに秋が顔をのぞかせている。


すでに私には最初のころの威勢は残っていなくて、ハルくんの肌の温もり恋しさと、お腹の底から溢れ出る欲求だけに突き動かされる形でなんとか捜索を続けているくらいだった。


そんな決死の捜索活動も3ヶ月に差し掛かろうとしていた頃。


本当に偶然だった。

道端で話していた女の子たちの口から聞こえたんだ。

私の愛して止まない彼、「大黒雪桜」の名前が。


そうしてとうとう彼と思しき人が通っている学校を見つけ、今日、ようやくその場所にたどり着いた。

私は授業が終わるらしい時間より早めに学校の入り口で彼の下校を待った。


もしかしたら別の大黒雪桜くんの可能性もある。

でも道端で話していた彼女たちによると、その雪桜くんはアクセの製作なんかもしたり、文武両道で女の子たちからもすごくモテているらしい。

だから多分本人だ。



あぁ、とうとう会える。

会ったら最初になんて言おう。


まずは理由を聞くところからかな。なんで急にいなくなったのって。


とか色々考えてたら、だんだんハルくんにムカムカしてきた。


私はもうハルくん以外の誰にも見せられない身体にされてしまっているというのに、そんな私を捨てたなんて、あんまりにもひどすぎる!

それに、私がどれだけ苦労してハルくんを探したのか、ちゃんとわかってもらわないと!


そうだ、最初はハルくんのお説教から入らないと。



私の怒りが高まったところで、視界の端に微動だにしない何か・・、いやを捉えた。


まだ距離は遠いけど、見た瞬間わかった。やっぱり本物のハルくんだった。


顔を見た瞬間、さっきまで怒ってた気持ちが一瞬喜びで塗りつぶされそうになったけど、ダメダメ。

ちゃんとハルくんには理由を聞いて反省してもらって、私のもとに戻ってきてもらわないと。


自分で言うのもなんだけど、私はこれまでハルくんに怒ったことなんて1度もなかった。

別に意識してたわけじゃないけど、話すときも丁寧語で話してたし、ハルくんのことをよしよししてた記憶しかない。


だからあんまり怒る表情ってどうすればいいのかわからなかったけど、ハルくんに捨てられた寂しさを思い出したら、自然と顔が強張った気がしたので、これでいくことにした。


私が近づくと、ハルくんはとっても狼狽しているようで、動くことも、何か意味ある言葉を発することもできないようだった。


「あっ......、えっ......と、その............あれ?な、なんで?」


そんな感じでうろたえていた。




っっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!


その焦っている姿が可愛すぎて、怒ってる気持ちがまたどこかへ行ってしまった。

その分頭の中を支配したのは、いつもの・・・・欲求。


だから私はほぼ無意識で、急遽さっきまでの初対面計画は全部破棄して、硬直したハルくんの腕を掴んで人気のない校舎裏、そこにプレハブ小屋が見えたのでその更に裏に無理やり連れてきて、耳元で囁いてしまった。



「今すぐ私を抱け」



今までの人生で1度もだしたことのないような低くて冷たい声が出た気がする。

ハルくんにこんな命令口調みたいな話し方をしたことも初めてだ。

でも、口が勝手に話してしまうんだから仕方ない。やめられないとまらないよ。



「あっ、えっと、え......?」


「だから、抱きなさい」


「は、はい......?」


2回目の命令をしたら、ハルくんはまだ混乱気味だったけど、ゆっくり私の背中に手を回してきて抱きしめてくれた。

うん、これはこれで最高に幸せだし、目の前にくっついてるハルくんの胸元から漂うハルくんスメルだけでもイっちゃいそうだけど、そうじゃないの。



「ハルくん、そういう抱くじゃない」


「......え?」


もぅ、いつもはいろいろすごく頭が回るのに、こういう色恋沙汰だとまるで鈍感になっちゃうんだから。

そういうところも可愛いんだけど♫


「今!ここで!私を!汚しなさい!」


うん、もう我慢出来ないのよね。

幼稚園のころから、3ヶ月もお預けさせられたことなんてなかったから、もう湧き上がる欲求・・が抑えられなくなっていた。


「私が!ハルくん専用の女であることをわからせるみたいに!激しくヤりなさい!」


そうやって強く伝えて数秒間、ハルくんは相変わらず呆気にとられたままだったけど、私が上着を着崩してシャツの隙間から、ハルくんにもらったピアスで・・・・・・・・・・・・・貫かれた先端・・・・・・を覗かせて誘うと、次第に息が荒くなって、ソコはなんというか怒髪天を衝くという感じ。

それから、しばらくしてから思い出したように動き出してくれた。


「う、うん!いただきます!」






そうして挨拶もそこそこに、というかしないまま、青空の下で、ハルくんは私の身体を蹂躙した。




*****




ボクらは3回戦が終わったところで外でやるのに限界を感じて、ボクの自宅に移動していた。


移動中も2人とも一言も話さないまま。

でも互いに興奮が収まってないのは共有してる状態で。


だから玄関に入ってドアを締めた瞬間、またまぐわいだして、ちょっとずつ移動したりしながら5回戦が終わったところで体力の限界が来て、2人生まれたままの姿でベッドに倒れ込んだ。


を外していたせいで、家中、時羽ちゃんの・・・・・汚物だらけ。

あとで掃除頑張らなきゃな、とかしょうもない考えが頭を過ぎったけど、すぐに、今はもっと考えなきゃいけないことがいろいろあることを思い出した。




時羽ちゃんと再開して数時間経って、ようやくボクは言葉らしい言葉を発することができた。


「えっと、時羽ちゃん、大丈夫ですか?」


ボクの心配の言葉に、体力が完全に限界を迎えているのであろう時羽ちゃんはうつ伏せになって枕に顔をうずめたまま、小さくフルフルと首を横に振った。

丸出しのお尻もふるふると震えていて、えっちな感じだ。


っと、それはともかく、どうやら大丈夫じゃないということみたい。

だけど、自分で聞いといてなんだけど、ここでいう「大丈夫か?」って、どこまでのことを指してるかわからないよね。


とりあえずちょっと休憩してから、話そう。









「わ、私が他の男の子のことが気になってると思って、身を引くために逃げたですって〜〜〜〜〜!?!?!?!?」


しばらく2人で眠ったあと、未だ生まれたままの姿、だけど時羽ちゃんは布団を手繰り寄せて微妙に身体を隠した体勢。

その状態のまま、「なんで何も言わずに1人でこんなところまできたの?」って聞かれたから、正直に答えた結果、こんな叫びが返ってきていた。


「な、なるほど......?あのときの私の『束縛する人がタイプ』って言葉を曲解しちゃったのね......」


およそ原因を理解してくれたみたいだ。


それから、ボクが逃げた原因が事実とは異なっていて、あくまで「ボクにもっと束縛してほしい」というのを伝えたかっただけだった、という衝撃の(?)事実を知らされた。


「そ、そんな......。じゃあボクはただの勘違いで3ヶ月も時羽ちゃんと離れ離れに......どころか、時羽ちゃんががんばってくれなかったら一生会えなかったかもしれなかった..................」



そう、相談しなかったことをめちゃくちゃ後悔した。

やっぱり時羽ちゃんはボクに少なからず好意を持ってくれていたみたいで、あのときちゃんと告白していれば、生まれなかったかもしれない誤解だった。


というか、昔からボクと毎日交尾してくれてた時点でそんなことはわかりきってたのに。

昔時羽ちゃんも言ってたからね。「交尾をする相手は友達よりも好感度が高い・・・・・・・・・・・んだよ」って。


その言葉を素直に信じて、勇気を出せばよかったんだ。


ボクは結局1番女々しくて意味のないバカな選択肢を選んでいたらしい。



だったら、もう取り返すとかはできないかもしれないけど、時羽ちゃんが作ってくれたチャンス。

今告白しないでいつ告白するんだ!



「と、時羽ちゃん!」


「は、はいっ!」


ボクが急に大きい声を出したからか、時羽ちゃんもビクッと身体を震わせる。

それからボクが真面目な話をしようとしている雰囲気を察してくれたのか、姿勢を正して聞く態勢をとってくれたようだ。






「時羽ちゃん。ボクは昔から時羽ちゃんのことが好きです!ボクと..................お付き合いしてくれませんか!?」












「..........................................は?」


ボクの一世一代の告白に対する返事の第一声は、暗く重たく冷たい疑問の声だった。


え?まさかこの流れでボク振られちゃうの?


と思ったけど、どうやら違うらしかった。





「い、いやいや、え?待って待って、なんで今さら『お付き合い』なの!?結婚とか婚約とかそういうのじゃないの!?」


「え、いや、まずは正式にお付き合いをしてからかと思いまして......」


「え?うそ......今までは!?私たちとっくの昔から付き合ってたんじゃないの!?どういうこと!?」



えっと?どういうことだろう......?


ボクが意味がわからない状態なのが態度からわかったんだろうか。時羽ちゃんが確認するように問いかけてきてくれる。




「ちょっ、ちょっと信じられないんだけど、確認するね?」


「は、はい」


「ハルくんはこれまで私とお付き合いしている、恋人になってるつもりはなかった、ってこと?」


「えー......っと?そう、ですよね?だって、ボク告白とかしてないですし......」


「待って待って、告白してなくても、私達どう考えたって恋人じゃなきゃおかしいじゃない!」




うーん?おかしい、ってどういうことだろう......?



「私の身体、こんなになるまで開発しておいて・・・・・・・・・・、恋人じゃないなんて、ハルくんはどんな鬼畜さんなの!?」



えっと、まだよくわからないんだけど......。


「な、なんでわからないみたいな顔してるの!?」


「え、だって、それが恋人になることとどう関係してるのか、わからないというか......。だって開発したなんて言っても、時羽ちゃんの胸の先端につけてもらったピアスとか、お腹とお尻に入れてもらった桜模様とYukiharuっていう入れ墨とか、閉まらなくなって全部垂れ流しでおむつ常用が必須な後ろの穴......くらいのもの......ですよね......?」


そのあたりは時羽ちゃんにお願いしたり、時羽ちゃんから提案してもらってやってもらったんだけど、ただの仲良しの証・・・・・だよね?

告白はしてないんだから、恋人とかは、関係ない、よね?



「いや、そんなの恋人でも普通はしないレベルだよ!もう私、ハルくんがもらってくれなかったら絶対にお嫁に行けないレベルだから!」


「えっ、え?そんなことないよ。確かに時羽ちゃんにアプローチしようと思って、僕のものだって暗に伝えようとして名前の入れ墨とか入れてもらったりしたけど、時羽ちゃんくらい綺麗ならどこにでもお嫁に行けると思うんだけど............」


まったく、時羽ちゃんは自分の美貌がいかにすごいかくらい、自覚してほしいものだ。


「いやいやっ、無理だから!入れ墨だけでも無理だけど、それ以上に!」


まだ何か問題があるの!?


「見てよ、このお部屋の中も!私のうんちまみれ!ハルくんが強引なプレイをするから撒き散らしちゃったよ!私はもうお尻閉じられないんだよ!ハルくんがいっぱいしたせいで!」


「そ、それくらいのことがお嫁に行けないことと、何か関係があるっていうんですか......?」


「あるでしょぉ〜!?ハルくんの神経はおかしいよ!もう私の身体はパパやママにも見せられないくらいなんだよ!?お尻にプラグ挿しっぱなしじゃないと生活できないとか、誰にも言えないから!っていうかほんとに待って、なんで『それくらい』なんて言葉がでてくるの!?」



そ、そんなこと言われても......。



「だ、だって、それをしたときは時羽ちゃんがいつも『仲のいい2人の絆の証だからね♡』って言ってた、よね?だから、別に恋人だとかは関係ないんだって思ってて......」


「そんなわけないでしょー!あぁ、なんてこと......。ハルくんはここまで純粋な子だったのね......。私の言葉を全部そのまま受け止めるなんて......。いや、やってることは全然純粋じゃないんだけどね......。うぅ、私だけ恋人だと思って全部、全部捧げてたなんて、惨めだよぉ。何、ハルくん私のこと、ただのセフレだとでも思ってたの!?」


「えっと............セフレって、何ですかね?」


「えっちだけする仲のいい友達のこと!」


「え、ある程度仲のいい男女がえっちするのって、当たり前なんじゃなかったんですか!?昔、時羽ちゃんがそう言ってましたよね!?だから僕の気持ちは一方通行なのかなって思って......。時羽ちゃんが他の男を好きなら身を引こうって。けどそいつと時羽ちゃんが付き合う未来を応援するくらいなら、逃げ出そうって思って......」


「うーん、そのレベルかー!いやいや、それは流石に普通は勘違いしないパターンだと思うし、私のために身を引くとか逃げるとか許されないやつだから!なんとしてでも引き止めるやつだから!!!!」



なんてこった。



「っていうかその理論なら、ハルくんは他の女のこともえっちしてたりするの!?まさか......舞依ちゃんとか夕希ちゃんともシてたり!?」


舞依ちゃん、夕希ちゃんというのは僕らの幼馴染。

時羽ちゃんの同い年の天使舞依さんと御門夕希さん。


その2人と、2人それぞれの弟、それと時羽ちゃんと僕の6人は結構頻繁に一緒にいるくらいには仲がいい。

といっても、まさか友達のお姉ちゃんとえっちしたりはしない。


それくらいは僕にもわかるよ!


「まさか!そんな常識のないことはしないよ!僕がえっちしたことがあるのは時羽ちゃんだけだよ!」


「常識〜!?!?!?!?ハルくんに常識を語る資格はありません!!!!!!」




う〜ん、さっきから時羽ちゃん、すっごくテンション高いなぁ。

なんだかよくわからないけど、時羽ちゃん的にはボクらはとっくに恋人同士って認識だったみたいだし、今の時羽ちゃんもなんかもう楽しそうだし、とりあえず一件落着なのかな?








「はぁ〜。もぅ......でも、そんなおバカなハルくんのこと好きなんだから、私もバカだよね......。ちゃんと、責任とってね?」


「は、はい!もちろんです!時羽ちゃんが許してくれるならぜひ責任取らせてください!」


「うんうん、いい子いい子。けど、そうだな〜。「許す」かぁ〜、どうしようかな〜。あ、当然だけど私から逃げた罰は、受けてもらうからね?」


「あ、うん、わかりました」














「とりあえず、明日から1週間は学校を休んで、抜かずにシ続けてもらおうかな?」


「..............................ほぇ?」

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