一寸法師と赤いきつね
紫恋 咲
第1話 一寸法師と赤いきつね
今は室町時代、山間の小さな村に住む俺は小さいので一寸法師という名で呼ばれている。
俺はおじいちゃんとおばあちゃんの子供だ。
「えっ!じゃあ孫だろう?」と思われるかもしれないが、その話は4000字以内では無理なのでまた別の機会に……。
今日も村の祭りに来ていたが、他の奴らに馬鹿にされていた。
「お前は小さいから都も見えないだろう?」
「お前達だって都へは行ったことは無いだろう?」
反論したが、『井の中の蛙大海を知らず』と更に馬鹿にされた。
確かに俺は都など行った事もないし、話を聞いた事もない。
悔しいが、その通りなので反論できなかった。
その夜俺は神様にお願いした。
「神様、私は都へ行って広い世間を知りたいのです」
すると、白髪頭のおじいちゃんが出てきた。
「誰?神様なのか?」
「そうじゃ、神様じゃ、お前にこれをやろう」そう言って巨大な白い丼をくれた。
「中身を食べるとげんきになる、そしてその丼を船にして川を下って都へ行け!」
そう言い残して消えた。
俺はおじいちゃんとおばあちゃん三人で『赤いきつね』と書いてあるうどんを食べた。
確かに元気になった。
翌日俺は都に向かって、白い丼の船で川を下って行った。
すると目の前に大きな滝が見えた。
「うそ!聞いてないよ〜…あ〜〜〜…」
俺は回転しながら滝壺に落ちて気を失った。
ほっぺたをツンツンされて目が覚めた。
「えっ、誰?」
「姫川ユリだけど……どうしたの?」
「拙者は都を目指し、旅をしているものでござる……」
「ふ〜ん、そういう体なんだ……了解!」
「体?……」
「お名前は?」
「一寸法師と申します」
「一寸って約3センチでしょう?そんなには小さく無いわよ」手を横に振って笑った。
「ちなみに頭の丼は何?」姫は不思議そうに俺見た。
「えっ?」さっきまで乗っていた丼は小さくなってちょこんと頭の上に乗っていた。
「ここは何処でござるか?」
「ここはキャンプ場よ」
「姫は何をしておられるので?……」
「私はここで開かれてたコスプレイベントに来てたんだけど、もう終わったから帰るところよ」
「では都に帰るのでござるか?」
「都?……まあ東京だから……都かなあ……」少し考えている。
「よければ拙者も連れて行ってもらえぬだろうか?」
「いいよ、じゃあ乗って」
「これは……馬のない馬車か?うわっ!!!走り出した」
「姫!早すぎるでござる~」爪先がぴーんと伸びた。
「ごめんね。レンタカーの返す時間が迫ってるの」
「うを〜……」
景色を眺めて俺は気がついた、どうやら滝を落ちた時に時間を超えて未来に来てしまった様だ。
やがて吉祥寺に到着した。
「お疲れ様〜」姫は手を振った。
「あのう……拙者は行く所が無いでござる……」
「そうなの?じゃあうちに来る?」
「良いのでござるか?」
「良いよ」
そして二人で暮らすことになった。
姫は思ったより家庭的で面倒見が良かった。
俺はパソコンを習い、日々勉強に励んだ。
そして知る喜びに目覚めて様々な事を学んだ。
3年程経つと、普通に社会に溶け込んだ。
初めは不思議そうにしていた姫も、俺の勉強熱心なところを見て感心し、今では恋人のようになっていた。
俺はコンビニでアルバイトも出来る様になった。
ある日、商品の陳列をしていてあの『赤いきつね』に目が止まり故郷の村が恋しくなった。
その夜、部屋に帰り姫に相談した。
「じゃあ一緒に帰ろうよ」彼女は言ってくれた。
俺は神様にお願いしてみた。
神様が出てきて「良いよ」と軽く言ってくれた。
「今度の満月の夜に、またあのキャンプ場に行って『赤いきつね』を食べるのじゃ」そう言って消えた。
姫と一緒に満月の夜、キャンプ場で『赤いきつね』を食べていると、狐が現れて「こっちだコンコン」と案内してくれた。
二人は村にたどり着いた。
村人達は都から姫を連れて帰ってきたと、驚いて尊敬されてしまった。
それから村のために水を引いたり、落ち葉で腐葉土を作り美味しい野菜を作れるようにしたりなど、村のために働いた。
姫は村の娘達にメイクを教えて尊敬されている。
晩年は寺子屋を開き村の子供達に学ぶ大切さを教えた。
姫とはとても仲良く暮らし子供も2人できた。
俺は空を見上げて思った。
「『井の中の蛙大海を知らず、されど空の蒼さを知る』か……」気持ちいいなあ……
ほっぺたをツンツンされて目が覚めた。
「ほら、もう5分経ったよ」
「ん?……姫……」
「何寝ぼけてんの?……ニヤニヤしてたから、いやらしい夢でもみてたんじゃないの?」笑っている。
俺はうたた寝から目が覚めた。
「そうか……最近残業続きで疲れてんだな……」俺は赤いきつねを食べ始めた。
「無理しないでよ」ユリは優しく微笑んだ。
ユリとは同棲してもう3年程過ぎている。
「なあユリ、俺と一生仲良く暮らさないか?」
「それってプロポーズ?」
「そう思ってもらってもいいよ」俺はダシのきいたツユを飲みながら言った。
「そう、じゃあ両親に報告しなきゃ」そう言ってユリは電話をかけた。
「ご馳走さま」俺は手を合わせた。
一寸法師と赤いきつね 紫恋 咲 @siren_saki
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