第三集


「感情を力に変える重み」



じんじんと手がしびれる。私は、彼の頬を打った右手を見つめてうろたえていた。怒りを向けるわけではなく申し訳なさそうに佇む姿に、やりすぎたかもしれないと重いものが内に溜まる。弱いくせにかっこつける姿が、堪えられなくて嫌だった。素を見せてありのままの自分でいてほしかった。偽善だけどね。



「痛み分け」

いつも穏やかで優しい人ほど、負のオーラで恐ろしく変貌する。知りたくなかったけど、気づけてよかったんだろう。頬をぶたれて、一瞬ふらついた。どこにその力が秘められていたのか。彼女は痛いのか顔をしかめているから、俺よりつらいのだろう。愚者の弱さを見せつけてごめんと謝るのも嘘っぽいな。




「大切な人だけでいい」

さりげなく手を取れる

そんな関係でいられたら

お呼びでない場合や

軽く見られた場合は

足音も立てずに

遠ざかるわ

傷つきたくないし

不健全な関係はごめんだからね


使う力は限られているから

大切な人だけしか

守る力はない



『自暴自棄』


相応しくはない

自暴自棄でも

なんでもなく

そこに横たわる

れっきとした事実であり

この先も変わることはないだろう

認識の違いは軋轢を生み

心に見えない壁を作る

悲哀を抱きたくないから

余計重くなる

脳では理解しているのに

歯がゆい未練

痛々しいほど



『奈落の闇へ』


奈落の闇へと滑り落ちてしまわぬよう足下をすっかり踏みしめる。持ち得ぬものは身につければいいだけだろ。

誰かの気持ちには敏感でいたいし、誰かを傷つけているかいつも気になってばかりさ。鈍ければ気づかないまま生きられるけどそんなのごめんだ。




『箱に封じ込める』


言葉にできない思いは、喉の奥に封じ込めてしまおう。噛み殺せば、口にして無力さを味あわなくてすむんだ。彼への告白も空振りにならず綺麗なまま胸に残せるのだ。ちくり、と痛みが刺すくらいどうってことない。時が過ぎればそのうち傷はいえるから、

たまに箱を開けて思い出すくらい許してほしいわ。



『無題』


そよそよと風が吹く。頬を撫でるやさしさは心地よく感じる。まるであなたのようで涙がこぼれそうだ。

遠くにいて、触れられないから想いは募る。切ないって、やりきれない気持ちを言うのかな。

もどかしくて、唇を噛み、こぶしを握り締める。両手で自分を抱きしめても、悲しみが深くなるだけだ。



『初めての恋の記憶』

隣を歩く人を意識して、上手く足を踏み出せない。私はあの日、卒業という節目を迎えていた。君は、何も知らず凛々しく前を向いていた。

頬を染める自分に気づいていたけれど、何もできず想いは形を成さなかったあの日の片想い。

頑張っているなんて、他人の評価は

関係がないという君が眩しかった。




『無題』

嗜虐的な瞳が、射貫いている。この眼差しが好きだと気づいた時には、遅かった。

「お前を屈服させるのが好きだ」

夜闇に響く吐息混じりの声に震える。

広い背中にしがみついて、爪を立てれば

あなたにもっと近づく。

遠ざかる度、涙が落ちる。

この繰り返しがなくならないでと、

自らキスを重ねた。



『無題』

寂しがりやなんて口先だけだ

本当に寂しくてどうしようもないなら

行動を起こそうとするだろう

独りの世界に没頭しても苦ではなく

時を忘れて過ごすことができる

人から見れば孤独なのだろうが上等だ

雑音を脳内からたたき出せ

ペンを手に生きることが

何より好きだ

人に配慮しながら楽しく

過ごす



『口寂しさ』

煙草を口にして気が楽になったのは錯覚で、不快感は増すばかりだ。自分の弱さは誰も愛せない心だと自覚した時から、人と距離を置いて付き合おうと思った。増えていく吸い殻と、積る灰は、虚しさの蓄積だ。笑えてくる。ほろ苦い唇を寄せれば嬉しがる彼女に、何もできないのだと早く教えてやらねばな。




『私の嫌いなあの人と煙草』

煙草を咥え、息を吐き出す。

紫煙を逃がす姿が、たとえようもなく艶っぽくて美しくて見とれてしまう。その指先も唇も優しさなんて持ち合わせてなくて傷ばかりを与えてくるのに、

形成するすべてを嫌いになれない。

「苛々する」

唇から漏れても強がりだと見透してしまう人。

好きすぎて嫌になるわ。



『無題』


お前は、小柄で折れそうな身体の見た目の割に、芯が強く俺を引き寄せる。

「何でいつも、側にいるの?」

真っ直ぐな眼差しに射貫かれてうろたえる。

「そんなの考えれば分かるだろうが」

小柄な身体を抱きしめ、頬に口づける。

真っ赤になった耳元にささやいた。

「好きだ」

「……多分、僕も好き」



『愛の熱をくれた人』


空虚だった心に、温かな熱をくれたのはあなただった。抱きしめる腕から伝わるのは、ひとしきりの愛。肩甲骨に指を沿わせれば、ごつごつとしていて私とは違う強さがある。髪を撫でられて目を細める。緩んだ頬が、知られているかな。どうしようもないほど惹かれてる。魂ごと求めている。あなただけだ。




『感謝を込めて』


丁寧に、こちらを気遣う彼は、とても純粋でまっすぐな人だった。初めて接した時からその熱さは変わることなく今に至ってる。真面目な時は真面目で、楽しい時は楽しく過ごす様子はとても健全で、見ているとこちらの汚れが、少し薄まる気もするんだ。ずっと応援していくよ。だから、一緒にがんばろ。

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140文字小説集 高透藍涙 @hinasemaya

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