第4話 魔術使いは世界の広さを知ります。そして定めに従います。

果てしない大地をどこまでも歩いていこうと思った。

巨石、深い穴に行く手を阻まれるかもしれない。

終わらない旅路の涯、力尽きうずくまる時がくるかもしれない。

だが、きっとまだ見ぬ素晴らしい何かに出会えるだろう。

誰にも知られずひっそりと咲く花。

誇り高く野を生きる者達。

まばゆい輝きを放つ宝玉。

静かに佇む壮大な遺跡。

そんな素晴らしい何かに出会うため、歩こうと思う。

この足が動かなくなるその時まで。



「お庭から出ちゃダメよ。」

洗濯物を干しながら母が声をかける。

心配しなくてもそんなに歩けない。

ヨチヨチとしか歩けない今のわたしにとって、家の庭は果てしない広さなのだ。

わたしの後ろを大カラスが歩いてついてくる。

時々遊びにくるようになったコイツは、今では親公認の友達だ。

お供を連れて広大な大地を探検だ。

小さな花を見つけてしゃがみこむ。

母に見せようと思いつく。

花を取ろうとするが上手くいかず、花を握り込んでしまう。

おい、大カラス。なんだその残念そうな顔は。

この小さな手は繊細な作業に向いていないのだよ。

「あら、何かいいものあった?ママにも見せてちょうだい」

後ろから覗き込んでくる母に、花を握った手をさしだす。

手を開いて花を見せるが、思い切り握ってむしりとった花は無惨にも折し潰されている。

「ママにくれるの?ありがとう」

母はそれでも喜んで受け取ってくれた。

さて、探索を続けよう。

目の前の草のうえを歩いているのはてんとう虫だ。

キレイな模様だ。

捕まえようとするが、飛んで逃げられた。

おい、笑ったな大カラス。

アイツスゴく速く飛んでったんだ。

きっとオマエより速かったぞ。

お、黒い丸い石を発見。

素晴らしい色と形だ。

こっちの白い丸い石も悪くない。

どちらもポケットに入れておこう。

石の下にいたのはダンゴ虫。

つつくと丸くなる。

つつく。

丸くなる。

つつく。

丸くなる。

大カラスも横からダンゴ虫を覗き込む。

楽しいな。

しばらくダンゴ虫をつついて遊ぶ。

コイツらもポケットに入れておこう。

む?何でオマエ首を振ってる?

大カラスの態度に首を傾げながら先へと進む。

今度は底に穴の空いたバケツを発見。

逆さにされて、穴の空いた底を天に向けた状態で地面に置かれている。

庭にある人工物としてはなかなかの大物だ。

中に何か入っているかな?

ひっくり返してみると、地面に小さな木片が刺されていた。

なんだコレ?

疲れてきたのでその場に座りこむ。

何かの目印か?結界の節点とか。

オマエは何だと思う?

大カラスに目で問うが、首を傾けられた。

コイツ本当に人間臭いな。

考え込んでいると、後ろから体を持ち上げられた。

「疲れちゃったかな?そろそろ家の中に戻ろうか」

母はそう言いながらわたしの体を抱える。

転がったバケツを見ると、腰を屈めて片手を伸ばし、バケツを元の場所に伏せ直す。

「イタズラしちゃダメよ」

そう言って微笑むと、大カラスに手を振るわたしを抱え直して、家の中へと戻るのだった。



あのバケツは何だったのだろう。

やけに気になる。

魔術を構築する。

構築完了!指定範囲内の魔力反響型探査術式

【まだ見ぬ宝への憧れ】

そして魔術実行。

微量の魔力の波が広がる。

構築された術式が反響を解析する。

バケツの下の地面の中に何かあるな。

ああ、コレは植物の種か。

鳥や獣に掘り返されないようにバケツを被せていたのだろう。

分かってみればなんということはない。

まあ、謎が解けて少しスッキリした。


我が家の庭という広大な大地には、まだまだ楽しい物や謎が隠れているのだろう。

明日も庭を歩こう。

素晴らしき宝を求めて。

窓際に一輪だけ飾られた、ちょっと潰れた花。

その横には黒白の2つの石が置かれている。

月明かりに照らされた今日の宝物を見ながら、ゆっくりと心地よい眠りへと落ちていく。


翌日、洗濯中の母が悲鳴をあげた。

どうやらポケットの膨らみの正体を確かめようとして、中から出てきた大量のダンゴ虫に驚いたようだ。


ポケットにダンゴ虫は入れちゃいけなかったのか。

涙目になった母の姿を見て深く反省するわたしの横で、大カラスが首を振ってため息をついていた・・・。

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魔術使いの転生 いーでん @handen

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