第3話 魔術師ギルド襲撃事件
「ギルド長、ご無沙汰してます」
「ふぉっふぉ。元気そうで何よりじゃわい。それに、そちらの――」
ギルド長はそこで言葉を止めると、じっとユオのほうを見た。
いつもは開いてるのかわからないぐらい、細い目がカッと見開かれる――っていっても、ほとんど開いてないけど。
「私のことは気にするな」
「そうおっしゃられましても――」
「気にするな、と言っている」
いつもより鋭い語気でユオがそう言うと、ギルド長はまたふぉっふぉと笑い声を上げる。
ユオに対して一度深く頭を下げてから、私とユオが座るソファーの正面の席に座った。その隣にファーラも座る。
「このギルドにも、勇者からの襲撃があったんですか?」
「はい。ただ……特に何事もなく」
「……え?」
「いわゆる、特級魔法と呼ばれる勇者にしか扱えない魔法の直撃を受けたはず……なんですが、このとおり、無傷なんです」
「えっと、それは……よかった、でいいのかな?」
こくんと頷きながらも、ファーラは複雑な表情を浮かべている。
勇者にしか扱えない魔法ってことは、ものすごく強力な魔法だと思うんだけど――それを受けて無傷って。
「ああ。ギルド長が結界を張ったとか?」
「いいや。ワシはあの日、城に呼ばれておって不在じゃったんでな」
「そうなんですか」
「ただ……結界に守られた、というのは正解じゃな」
「一体、誰の?」
「お前さんのじゃよ」
「へ?」
――私の結界? どういうこと?
ファーラが危ないかもしれないとは思ったけど、別に私はこの建物に結界を張った記憶はない。
お守りになる腕輪はあげたけど、そっちはたぶん発動もしていない。今もファーラの手首でキラキラ輝いているそれに壊れた様子はないし。
「うーん……身に覚えがないんですけど」
「しかし、その男の言うとおりだ。この建物を守ったのはセトの魔力で間違いない」
「えええ。ユオまでそんなこと言うの?」
でも、本当に全く覚えがないんだけど。
無意識に結界を張っていたとか、そんなことある? ないよね……?
うんうんと唸っていると、ファーラが机の下から何かを取り出した。
「……これでは、ないかと」
「ん? これって、私が作った師匠の胸像?」
間違いない。ファーラが取り出したのは、私がファーラにあげた師匠像だ。
あのときは渾身の出来だと思ったけど、こうして改めて見るとまだまだ造りが甘いなぁ。髪のディティールとか、もうちょっとうまくできただろうに。
目の辺りもそうだ。
照明の角度のせいかのか、影の落ち方がよくない。
ここはもっと、髪の流れをこっちにして……いや、でもそうすると睫毛と干渉するよな。横から見たときにも映える感じにしたいし、だとしたら、やっぱりこっちが。
「セトさん?」
「あ、ごめん。なんだっけ」
自分の作ったものを出されると、一人反省会モードに入ってしまうのは私の悪い癖だ。
でもさ、仕方ないよね。
時間を置いてみると気づくことっていっぱいあるんだよ。
粗とか、妥協したところとか、どうしても細かいところが気になってしまう。
「ここなんですけど」
「あ、ケースに亀裂が……そっか。これ、結界だったっけ」
胸像を囲っている、一見ガラスに見えるケース。
これは結界で作っているケースだ。
ファーラにあげたような飾って楽しむタイプのフィギュアなんかは、こういうケースに入れたほうが絶対に映えると思ったし、何より劣化を遅らせられるかと思ってサービスでつけたものだった。
「この結界ケースが、建物を守ったってこと?」
「そうとしか考えられなくて。その日まで、こんな亀裂はなかったし」
「ううむ、確かに」
――とりあえず、直しておくか。
おもむろに、杖を構える。
ケースにこつりと先端を当てると、結界ケースの亀裂が元に戻る。
「これでよしっと」
「前もこれと同じ結界を?」
「うん、そうだけど……何かだめだった?」
「いや――これならば、確かに特級魔法であっても跳ねのけるだろうと思ってな」
「まじで?」
ユオが面白いものを見るように、結界ケースを見つめている。
でもそれ、中身をよく見せるためのおまけであって、本体ではないからね?
「じゃあやっぱり、セトさんが守ってくださったんですね!」
「……ってことになるみたい?」
「ありがとうございます!!」
――守ろうとしたわけじゃないけど、まあ、結果オーライ……なのかな?
感極まっているファーラに手をぎゅうぎゅう握られて、嫌じゃないし……むしろ嬉しいから、いいということにしておこう。
それにしても、結界ケースが建物ごと守れるなんて。
「これ、見えてる範囲だけが守られてるわけじゃないんだね」
「普通ならそうなるはずなんじゃがな」
「普通じゃない、と」
「そうじゃな。おぬしの魔法にはいつも驚かされる」
「は、ははは……」
渇いた笑いしか起きない。
普通じゃないって……絶対に師匠のせいだよ、これ。
これぐらいの結界魔法は、誰でも普通に使えるとか言ってたもん。嘘じゃないもん!!
「で、その一撃だけで勇者は諦めたんですか?」
「音を聞いて、すぐに騎士団が駆けつけてきたからのう。その前に、冒険者どもも来ておったか」
「そっか。それならよかった」
私のときは聖剣振り回してたけど、ここではさすがにしなかったのか。
っていうか、そうだ――聖剣。
「あの、ギルド長。一つ質問してもいいですか?」
「なんじゃ?」
「勇者の持っていた聖剣って、折れた場合はどうなるんですか?」
「何を言っとるんじゃ。あれは折れたりせんじゃろ。神より贈られし、神器じゃぞ?」
――うん。やっぱりあんまりツッコまないほうがよさそうだね。
異世界で造形師めざします! コオリ @k00ri
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