番外編 換気

午前中から降り続いている雨は一向に止む気配がない。

 軒下から滴る雨音は4畳程の自習室の中にも響いている。

部屋の大半を占拠している白い机の上には課題のための資料と持ち寄った菓子が並んでいる。

「まとまらんなあ」

 中々身の入らない作業にポッキーについつい手が伸びてしまう。

「まだ時間あるし、ゆっくりやろうや」

 同じクラスの佐伯が教科書から必要な情報をピックアップしていく。

「そしてまた徹夜コース」

 コーヒーを啜りながら垣山がスマホでネット上の資料を調べている。

「わかっちゃいるけど、直前にならないと本気が出ない」

 ポッキーを咥え、目の前の資料に目を通しながらぼやく。

「そりゃ、みんなそうだ」

 垣山の言葉に佐伯も頷いた。

「……ちょっとトイレ」

「いってらー」

「いってらー」

 木製の扉を開いて、廊下を進んでいく。

 建て替えて数年の新しい校舎は他の棟よりもずっと使いやすい。

 用をすましてから、気分転換に外に出る。

 冷たい風とは言え、午後なら風を浴びるくらいなら上着がないくらいがちょうどいい。

 相変わらず止む気配のない雨は軒先の向こうの中庭の芝や木々に打ちつけ、バサバサと音を立てている。

 少し暖房を効かせた部屋でぼーっとした頭を覚ましたら、また自習室に戻る。

「おかえりー」

「……」

「? どうした?」

 自習室の扉を少し開けたまま、静かに窓の方に歩み寄る。

 鍵を開けて、勢いよくストッパーのところまで窓を開く。

「喚起じゃー」

「うわ」

「さっぶ」

 びゅうと吹き込んだ風が教科書や資料を軽く巻き上げた。

 室内にいた二人は突然の冷気にピンと背筋を伸ばす。

「ははは」

「いきなりやるなよ」

「こわー」

 そんな2人の様子を見て思わず笑ってしまう。

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【朗読台本】一人暮らしの料理 ゆずしおこしょう @yuzusiokosyo

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