第2話 明け方のコンビニコーヒーとフライドポテト
パソコンの打鍵音がカチカチと室内に鳴り響く。
「起きてるー?」
書いては消し、書いては消し、まわらない頭をなんとか回して文字をひねり出す。
『起きてるー。終わりそう?』
大きく伸びをしてから空になったマグカップと椅子に掛けた上着と床に投げ捨てられたトートバッグを手に取って玄関の方に向う。
「あと少し。コンビニ行ってくるわー」
暗く、冷え切ったフローリングを進んで、玄関わきの流しでコップを水につけた。
『いってらー』
靴を履き、氷のように冷たいドアノブを捻る。
先ほどまで真っ暗だった空は山の向こうで赤く染まってきた。
ぼーっとした頭も吹き付ける風ですっかりと覚めいく。
マフラーが必要だったかなと思いつつ、アパートの階段をゆっくりと下っていく。
街はまだ静かで遠くの方からカラスやハトの鳴き声が聞こえて来る。
新聞屋の原付が年季の入ったエンジン音を立てて目の前を通り過ぎていき、巻きあがった風にまた身を縮める。
アパートの目の前のコンビニというのは本当にありがたい。
入店音とともに自動ドアを潜ると、そこには温かい楽園がある。
朝からの客に向けておでんの準備を始めているようで、入り口まで美味しそうな香りが漂ってきている。
ぼんやりとしながらチョコとポテトチップスを手に取ってレジに向かう。
「ホットコーヒーのMとフライドポテトお願いします」
「3分ほどお時間をいただきますがよろしいでしょうか?」
会計を済ませた商品をトートバッグに入れ、コップをコーヒーマシンにセットする。
静かな作動音とともにコーヒーが抽出されていき、その様子を何とはなしにじっと見つめる。
店内放送でどこかの男性アイドルたちが和気あいあいと話している声が頭の上を通り抜けていく。
働かない頭で『こういうのがランナーズハイみたいなものなんだろうな』と思いつつ、出来上がったコーヒーを手に取る。
店内をふらつきながら新商品があるかチェックする。
「あ、これ今年も出たんだ」
新商品ではないが、ショートケーキの大福のようなものが置いてあった。
なんとなく今は気分ではないから買わないけれど、そのうちまた食べよう。
「おまたせしましたー」
レジの方から店員さんの声が聞こえてきた。
熱々の細切りポテトが油でギトギとに揚がっている。
香ばしさと甘い香りが旨みと過剰な塩気を頭に呼び起こす。
ジャンクとはかくあるべし。
「ありがとうございましたー」
自動ドアが閉まり、入店音の末尾が遠のく。
楽園追放。
手元のフライドポテトとコーヒーが冷たい風で冷めないうちにさっさと部屋に戻ろう。
白み始めた朝日が目に染みて来る。
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