#03

 だから、


 あたしを殺して初めてキミの国に平和が訪れるという事も。とても悲しいけどさ。


 俺は、思わず、もう少しだけという言葉を無碍にしそうにもなる。


 もう、しゃべるな。頼むから。


 と、彼女を殺そうと動き出す。


 そうなのだ。俺には、もはや耐えきれないのだ。この哀しみにだ。


 それでも、また動けなくなる。


 彼女の優しい笑みを目にしてしまうと余計にだ。


 フフフ。


 ゴメンね。でも、もう少しだけだから言いたい。しゃべりたいの。


 キミに……、聞いて欲しいの。


 もう聞きたくない。ごめん。本当に限界なんだ。キミを殺す事が、できなくなる。


 彼女は力なく笑う。空しくも。


 もう少しだけ。あと少しだけ。


 と……。


 ダメよ。


 キミは、あたしを殺さないと。


 その上で聞いて欲しいの。キミは、異世界から来た転生者でしょ?


 元の世界で死んで転生した人。神様の手違いで殺され、この世界に来た。神様から何らかの力をもらい勇者として魔王を倒す(殺す)べく、この世界へと召喚された。だからこそだよ。だからこそ、キミは、あたしを、殺さなくちゃならない。


 でないと運命の調律から弾かれる。弾かれれば、キミが消え去る事になるんだよ?


 運命を修正する為。それも分かってるの。だからキミに殺されたいの。あたしは。


 キミには消えて欲しくないから。友達だから消えて欲しくないの。


 だから。


 だから、もう黙れ。俺も分かってるんだよ。分かってるんだッ!?


 キミは優しいからキミはいい人だから、だから迷うんだよ。迷いを断ち切ってッ!


 ちっくしょう。ちくしょう。ちくしょうゥッ!?


 分かってるんだよ。俺だって分かってるんだッ!


 クソタッレがッ! クソがッ!


 ……俺は、間抜けな理由で死に単にラッキーをもらって転生した凡人にすぎない。


 いや、それどころか、ひとでなしだ。ひとでなしでしかない。少なくとも勇者なんかじゃない。もう少しだけ、と言った友達を、この手にかけたのだから。一生を刈り取ってまで約束を守りたかったのだから。ズッ友でいたかったのだから……。


 その果てで、地位、富、名声、全てを与えようと救った世界の指導者に言われた。


 ……そんなものなどいらない。


 俺が心底から欲しいと思うものは友達だけ……。


 彼女(魔王)という心の友だけだったのだから。


 ズッ友だょ。一生の友達ねッ。


 と虚空から聞こえた気がした。


 俺は、何もかもが空しいと自分のひとでなしさを呪った。もう会えない友を想い。


 ああ、ズッ友だ。お前はなッ。


 と……。


 そして、


 俺は俺の願いで、元の世界に帰れる事となった。


 彼女がいた、いや、俺が彼女を殺した、この世界に在る事に吐き気をもよおしたからだ。そして戻ってゆく。そこへ。光りと祝福に包まれた何とも表現しにくい幸福感に包まれ。その時、神様が笑った気がした。加えて、小さな声で何かを言った。


 転生は何もお前のいた世界から異世界だけではないのだぞ。その逆もあるのじゃ。


 まあ、ご褒美じゃ。地位、富、名声などとは比べるにも値しないソレじゃからな。


 ホホホ。


 と……。


 光りのトンネルを抜けた、その先には微笑む女の子の姿が見えた。

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ひとでなし 星埜銀杏 @iyo_hoshino

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