3章 55話 真実
真っ黒な世界が永遠と続く。
手を伸ばしても雲を掴むように空を切るだけで。
無。全てが終わりを告げ、土に還るような気がした。
「またコテンパンにやられたわね。
こんなにアザだらけになって、可哀そうに。
痛かったでしょうに?」
慈愛に満ちた懐かしい声が僕の意識を阻害する。
気を張っていた意地もプライドも消えていく。
「痛いのはナーニャ。それにカティアの心も
罪のないスフレまで巻き込んで、僕は僕は……」
まるで僕の心が丸裸にされたように。
純粋無垢な幼少期の記憶が蘇る。
「自分のことよりも他人のことを思い、願う。
女の子だって守られているばかりは嫌なことは
玲音が身に染みて十分に理解しているでしょ?」
「僕は玲音じゃない。
レオンハルトはイルバーナを救う勇者じゃなかった。
だから誰一人も守れなかった弱虫なんだ」
本音を吐き出す行為が止まらない。
心を委ねるって、こんなに簡単だったんだろうか?
ママにグチを聞いて貰っている気がする。
「まだフォルクスの件がかなり根深く残っているわね。
まあ、無理もないか?
そもそも玲音の召喚がイレギュラー過ぎたのよ」
「だから僕は玲音じゃない。レオンハルトだって」
「だからなんなの? そのさっきから
レオンハルト、レオンハルトってうるさいぞ。
黙って、少しはあたしの話を聞きなさい」
「ごめんなさい」
「本来は神から尾桐直也のような転生者は異世界で
戦うための力を与えられるのが正しい道筋なの?
でも玲音にはそれがない。その意味、分かる?」
「僕が泣き虫でゲーム夢中の引きこもりだったから」
「それはないわね。
もしそんなことで玲音を差別しているなら、
このあたしが神の胸ぐらを掴んで殴ってやる」
「いったいあなたは誰ですか?
もしかして僕のママじゃないよね?」
「あたしがママ? 玲音を産んだ覚えはありません。
だって正体はあなたの姉ちゃんなんだからさ。
会いたかったわよ、玲音」
「違う、お前はお姉ちゃんなんかじゃない。
お姉ちゃんはトラックをトラクターと間違えて
心臓麻痺して死んだってパパが教えてくれたんだ」
「イケメンの子供を助けるためにが抜けているわ。
恐ろしい。そうやって歴史は改変させていくのね」
「もしそれが真実だとしたら、パパがイケメンに
いじわるして僕だけを仲間はずれにしたってことになるよね。
同じ血の繋がった家族なのにさ」
「まあ、そもそもその事実もあたしの即興で
作った嘘なんだけどね?」
「いくら本物のお姉ちゃんだとしても家族を
バカにするヤツは許さないぞ」
「殺されたとか、まだ小さいあなたたちに両親が
伝えられるわけがないじゃない」
「……お姉ちゃん」
「しかしあたしは女子のパンツを覗こうとする
下心で死ぬなんて、正直キモって思いました」
「あ、あれはニュートンのりんごいや不可抗力で。
スカートが自然とめくり上がって無意識に
目線が誘導されてまして……その、ごめんなさい」
「本当は背後から不意に押されたんじゃないの?」
「……そんなこともあったような気がします。
でもお姉ちゃん、女の子パンツは
見なかったから安心して下さい」
「もうどんだけパンツに夢中なのよ。
庭に干している妹のパンツでも拝んでおきなさい。
なんならもうお母さんのガボチャのパンツでもいいわ」
「それはそれで危ない人だと僕は思う」
「玲音を事故に見せかけ殺害しようとし、
あたしを殺したのが竜胆薫よ。
そして竜胆はあたしたち姉弟が持つ力を恐れている」
「聞きたいことは山ほどあります。
まずは姉弟が持つ特別な力のことを教えて欲しいです」
僕にそんな未知なる力はなかったから。
「玲音の能力はあなたを愛した者が死んだときに
一部の能力を引き継ぐ力なの?
仲間を思いやる玲音にはぴったりの能力ね」
「そしてあたしの能力は自分自身が死んだときに
誰かと肉体を共有する力。
そうやってあたしは心を保ち、生き続けた」
「気合を入れて、車道の前で踏み止まってよ。
玲音を探すのにどれだけ苦労したと思っているのよ。
あたし、異世界にいくために神にも
悪魔にもなったんだからね」
「ごめんなさい、お姉ちゃん」
「ずっと牢屋の中で観ていた。
玲音との生活、悪くはなかったわ。ありがとう」
「それってまさか……」
「ナンバー32の心の一部にあたしの意思があった。
そして今は玲音の心の奥底にいる」
「な、なんであの時僕に打ち明けてくれなかったんだよ。
そしたらカティアを救えたかもしれないのに」
「ごめんね。
ナンバー32の妹ブリジット思う心が強すぎた。
だからあたしは傍観していることしかできなかったの」
「なら、ナンバー32さんの死後は?」
「ずっと玲音はカティア、スフレ、ナーニャのことばかり
考えていたでしょ。彼女たちを思う力が強すぎるのよ。
もっとあたしのことを思ってくれたっていいじゃない」
「姉さんは死んだって思っていたから。
記憶から姉さんとの楽しかった思い出を消さないと
前に進めないって思ったから」
「ただあたしは玲音の背中を追いかけ続けた。
だって12年よ。もう他人との記憶がごっちゃになって
あたしがあたしではなくなる。自我が保てなくなる。
そのことが一番怖かった。いつも孤独で……」
「うん分かったよ。
全てのお詫びとして僕の体を贈呈するね。
これからまたお姉ちゃんの人生が始まるんだ」
「玲音の助けを待っている人はどうするつもりよ?」
「それは……お姉ちゃんが助けてよ。
ここで僕は終止符を打とう思っているんだ。
もう人生に疲れたからね」
「それって彼女たちの気持ちを考えているの?
玲音の1番良い部分を自分自身が潰してどうするの?」
「なら僕の心の中でお姉ちゃんは永遠と生き続けて欲しい。
このまま別れるってことは寂しいから絶対に嫌だからね」
「あたしは所詮死んだ人間。
でも玲音は奇跡にも異世界召喚って形で死を回避した。
運命は最初から玲音を選んでいたのよ。
とっとと魔王を倒して、日本に戻りなさい。
その奇跡の力で竜胆の手から妹を守ってあげて」
「それって、どう言う意味だよ。聞こえているだろう?
なあ、頼むから返事してくれよ姉さん。
もう僕を独りぼっちにしないでくれよ」
再び目を覚ました時、新たなる僕の復讐劇が始まる。
後はお任せた。草葉の陰から応援しています。 ……ってまだ僕は死んでないって!! 原田たくや @red_rabbit_hoof
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