モードレッドよ、ここにアンチテーゼを示せ

この作品は、アーサー王サイクルを踏襲しつつ、アーサー王サイクルを逸脱しています。「テーゼをなぞり、テーゼを崩す」。このような一種のパラドックスが、この作品の魅力となっています。

物語の主人公は、メドラウト・ブルターニュ。「メドラウト(Medrawd)」とは、つまりモードレッドのことです。また、彼の苗字である「ブルターニュ」は、アーサー王サイクルを含む「ブルターニュもの」の流れを汲んでいます。ジェフリー・オブ・モンマスの『ブリタニア列王史』をはじめ、ブルターニュ地方はアーサー王サイクルと関わりの深い土地です。ある話では、トリスタンがブリテンを離れた際、ブルターニュに渡ったと言われています。

彼の父・アルトゥル王は、アーサー王に相当します。ポルトガル語やドイツ語では、Arthurは「アルトゥール」、またフランス語では「アルチュール」と発音します。

彼には妹がおり、その妹の死がきっかけとなって、彼の物語は始まります。モードレッドに妹がいる設定は、他の作品でも時々見かけますが、実はアーサー王サイクルの派生作品においても、彼の妹としてグィネヴィアが登場する場合があるようです。このように考えると、モードレッドの妹とは、偶然にして必然……といったような側面もあるのかもしれません。

モードレッドは復讐を誓い、そして己の力を行使していきます。サイクル内においても、彼の犯した様々な行為は、読者の見方によって変化します。しかし伝説では、彼の立場に依って物語が進行することは滅多にありません。そのため、この作品の読者は、モードレッドの立場に依って、モードレッドと同じような考え方をすることができます。円卓の騎士の性格は違えど、ここがこの作品の面白いポイントと言っても過言ではありません。

以上をまとめると、この作品はサイクルの「テーゼ」を踏まえつつ、全く異なる「アンチテーゼ」を示しています。トマス・マロリーはアグラヴェインやモードレッドを「悪人」として記しましたが、それは見る人によって異なりますし、場合によっては円卓の騎士全員が悪になる場合もあります(少なくとも、敵にとっては彼らは悪です)。この物語の紡ぐ「悪」は、一体誰になるのでしょうか。