第二話 上等だコラ

 ハッと気づいて後ろを振り向くと、わらわらと集まってきた衛兵たちが俺のことを見て突っ立っている。


「ッんだよ……」

「き、貴様ッ、やりすぎだッ!」


 一番前に立っている女騎士に咎められた俺は「しまった」とそう思った。この世界に来てから何ヶ月経ったか忘れたけど、いろいろと新しく覚えたことがある。その一つが「衛兵に見つかったらヤバい」だった。衛兵は日本で言うマッポみたいなモンで、喧嘩してるところを衛兵に見つかれば、日本と同じように「署まで来てもらおうか」となる。

 それはマズい。バレる前に逃げればいいのだが、一旦喧嘩を始めると周りに気を回せるほど出来た人間じゃない。だからマッポが来ても気づかないことはしょっちゅうで、よく特殊警棒でこってり絞られたものだ。


「ナニをしてるって……喧嘩だけど」

「これが喧嘩だと、あなたはそう言うのですか……」


 なぜ疑問を持つのか理解できない。コイツらは俺がガキのお飯事ままごとしてるとでも思ってやがんのか……?


「んだよ、なんか文句あんのかよ」

「これのどこが喧嘩ですか!相手の顔を見なさい、頬は裂けて鼻や頬骨は折れて歯も何本も抜けているではないですか……!」


 女騎士にそう言われて相手の顔に目をやると、そこには「かつて人間だったもの」と思ってしまうほど原型を留めてないぐちゃぐちゃの姿があった。

 だからどうというワケではない。喧嘩してるんだから怪我をするのは当然のはずだ。なのにコイツら衛兵たちは、まるで俺が人を一人ぶっ殺したかのような反応を示している。


「そりゃまァ、喧嘩だからな」

「……ッ」


 なぜ目を疑うような顔をするのかはわからねーが、明らかに俺が言葉選びを間違えたことだけはわかった。


「とりあえず、あなたたちはこの盗族共を連れて行きなさい」

「了解しました!」


 さっきまでオドオドしていた衛兵たちは女騎士の一言でザッと整った敬礼を一斉にして、各々の役割ごとに散らばっていった。

 俺もほぼ死体の巨人から離れ、単車の方へそろりそろりと向かったが……勘の鋭い女騎士め。俺がバイクに股がったタイミングでこちらを振り返って「待ちなさい!」とそう叫んで俺の方へ駆けつけてきやがった。


「やべ、エンジンかかんねェ……」


 キックペダルをガチャンガチャンと何回も蹴ってみるが……単車はうんともすんとも言ってくれない。小一時間前までは心地よく回っていたエンジンが嘘のようにずーっと沈黙を保っている。


「オイオイ勘弁してくれよ……」

「さあ、観念して一緒に来なさい」

「めんどくせーなァ……」


 そう言って俺は単車から降りて女騎士の前に立ってガンをつけるが……コイツ、オンナにしちゃ珍しく目をそらさねェ。


「国王陛下が貴様のことを探しているのです。なので私についてきていただきます」

「イヤだ」

「子供じゃあるまいし、そんな腑抜けた声で断られても一緒に来てもらいますからね」


 ムカつくゼェ、なんで見ず知らずの女に従わなきゃいけねェんだ。そしてこれまた見ず知らずの王様に会いに行かなきゃならねェんだ。この俺様が……ッ。


「ヤダつってんだろ……人に頼みがあるンなら自分から来るのがせめてものスジってもんだろうが」

「この国においては国王陛下の命令は絶対なのです。それでも拒むのなら仕方がない……力尽くでも連れていく他ないようですね」

「上等だコラ」

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青い流星だけが知っている。 あごだし @kusohikineet

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