第6話
リンヤだけではなく、ホムラくんも呆れたように息を吐いて、僕に笑いかけていた。カリンさんは少し寂しそうな表情をしていたので、話してくれなかったことを残念に思っているようだった。
「それで、なんのためにトーマスを味方にしたかったんだ?」
呆然とする僕にリンヤがそう言って話しかけてきた。
「それは……」
何故? そう尋ねられると、味方にしないと僕は殺されるから。そう答えたくなった。しかし、それ以外にも味方になってもらうことで大きな戦力になる。
「僕はまだ味方するとは言ってないよ?」
僕が話すのを遮るようにトーマスが言い放った。
「やっぱり、お前は敵だったのか?」
ホムラくんがトーマスを睨む。
「いやいや、ただではやりたくはないだろ?」
「……チッ」
トーマスの言うことも一理ある。ただほど怖いものはない。無償の行為には大きな見返りを期待されているものだ。
「だが、君は協力することになる」
「なんでそう言えるの?」
僕はトーマスが協力する理由を知っている。これは彼の過去に関わる話だ。彼は親友を殺されている。
「エルヴィン・ダイーズが来日する。もちろん、任務失敗した君を始末するために」
僕が挙げた名前にトーマスとユキムラさんがピクリと反応する。
エルヴィン・ダイーズ。ドイツ生まれのソロモンの子供。能力は氷、冷却。
彼には二人の親友がいた。共に“過激派”と戦い、共に逃げる親友だった。
しかし、そのうちの一人を殺害して“過激派”に寝返ることになった。その殺害した親友の名前はフィン・ミュラーである。
つまり、エルヴィンとトーマスはかつて親友であり、エルヴィンは親友だったフィンを殺害したのだ。
フィンの死後、エルヴィンとトーマスは“過激派”として活動し、彼らは氷帝の魔術師、神風の魔術師と呼ばれることになる。
そして、エルヴィンは同じ氷の能力者を育てている。それが
「そうか。なら僕が戦わない理由はないんだね」
トーマスはそう言って仕方なさそうに笑った。
「いや、君はエルヴィンと戦ってはいけない」
「……? 僕に発破をかけたわけじゃないのか?」
「そのつもりだったけど、君の能力じゃ相性が悪いだろ?」
僕の言葉にトーマスは口を閉じる。どうやら反論はないようだ。
「だから、きちんと作戦を立てよう。僕がそもそも何故こんなことをしていたのかも、ちゃんと話したい」
僕がそういうとみんな真剣な表情になった。その中で一人だけ呑気にお弁当を食べている女の子がそろりと手を挙げた。
「あの〜、私の空気感が薄い、みたいな? 富士山山頂付近ぐらいの空気感な気がするんだけど……」
箸を片手に周りをキョロキョロと見たのはミサキだった。どことなく緊張感がなく、張り詰めていた空気感が薄れた気がした。
「全く、僕らの話を聞きながらご飯食べてたけど、君も重要だろう」
「いや〜、ご飯食べながらお喋りってマナー悪いじゃん?」
「それならいつも僕とご飯食べている時はマナーが悪いんじゃないかい?」
「食事はコミュニケーションの場とも言えるから問題ないよ!」
「言ってることがすぐに矛盾しているんだよ」
ミサキが楽しそうに適当なことを話している。僕もそれに付き合うように話しているが、まあ嫌いではない。
「そういえば、なんでミサキもここにいるんだ?」
ホムラくんが気になったようで僕らに尋ねてきた。
「さては仲間外れにしようとしてるなー?」
「してねぇよ。しようとも考えてねぇ」
「それなら質問の仕方が悪いよ。ぷんぷん、ぷんすかぷんすかだよ」
「……勝手に怒ってろ。事件の時にいなかったから気になっただけだ」
ホムラくんはミサキのことを面倒臭そうに半目で見た。
「でも、それでいうとミサキさんのおかげでサクラさんが攫われたってわかったんだし、全く無関係ってわけではないんじゃない?」
カリンさんが顎に人差し指を当てて思い当たること口に出す。
「もしそうならミサキは僕の恩人なんだね」
サクラくんはそう言って笑う。まあ、捉えようによってはそうとも言えるかもしれない。
「ふんふん。なかなか褒められると悪い気がしないね」
ミサキが得意げに笑う。ミサキの功績を考えれば事実なので否定することはない。彼女は研究機関の“観察派”として仕事しているだけなので彼女自身に実感はないのだろう。
「いろいろと話は置いておいて、ミサキがここにいるのも理由があるんだ。ミサキ、君がアレなことを話してもいいかい?」
僕は確認のために訊ねる。本人の立場として窮地に追い詰めてしまうのなら僕は彼女が研究機関の人間であると言えない。
「ふふ。ちーは心配性だね。もしダメだったら、ここにくる前に私は断ってたよ」
そう言って笑うミサキに僕は安心感を抱いた。彼女の力が必要だったから、ここで彼女の立場を話さないと話が拗れてしまう。
「そうか。ありがとう」
僕は心底そう思う。
「さて、僕がいろいろと話し始める前に、もう二人だけここに来る予定の人がいるんだが……」
僕がそういうとタイミング良く教室のドアがノックされた。僕が待っている人たちが来たようだ。
「どうぞ、入ってきてくれ」
僕がそう声をかけると、ドアが開かれる。そして教室に入ってきたのは
ソロモンの子供 永川ひと @petan344421
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