第5話



 トーマスの視線が僕に向く。だから、みんなの視線も僕へと向かっていった。


「……預言の魔女?」


 リンヤが呟く。


 魔女、魔術師と呼ばれるのはソロモンの子供の中でも有名な子供だけだ。


 カリンさんなら業火の魔女。ユキムラさんなら氷壁の魔女。トーマスなら神風の魔術師。


 ソロモン計画の研究者が著名な子供たちに付けた二つ名だ。二つ名を付ける理由としては、子供たちの本名が広まらないための配慮と、特に危険性が高いと明確にわかるようにするためである。


 それをリンヤが知っているのかはわからない。しかし、この中で二つ名で呼ばれる女の子はどうやら知っているようで、カリンさんは驚いた表情で僕を見ていた。


「センが魔女って湯婆婆みたいな話か?」


 リンヤの言葉にツッコむ人は誰もいない。そもそも真剣な場面だ。ふざけているところではない。


 さて、どう説明したものだろうか。


「まずは認めるところからだな。僕は“預言の魔女”だ。つまり、ソロモンの子供と同様の能力者で、未来予知の能力を持っている」


 僕がそう打ち明けると、リンヤが声を出して笑う。


「そんなまさか! だって、ソロモンの子供は髪の色が黒髪じゃないんだろ? それに、なんで一般クラスにいるんだ?」

「そう言った研究対象のソロモンの子供がいるってことさ。僕がまさにそれらしい。証明として、サクラくんの件についての情報は僕が未来予知で見てきたことを話していたのさ」


 僕がそういうとリンヤは真剣に考える素振りを見せて話し始めた。


「……サクラちゃんが工場に拐われた時か?」

「ああ、そうだ」

「もしかして、サクラちゃんを部活に誘うところから色々教えてくれたのは……」

「僕が未来予知で知っていたことを君に教えていた」

「そうか。いや、でも、そうじゃなくて……」


 僕はリンヤが未来予知の話を信じてないと思い、今まで情報提供していたのは能力のおかげだと言っていたが、彼の言いたいことはどうやら違うらしい。


「そうじゃなくて、サクラちゃんが事件に遭うのを知っていて、俺らの部活に勧誘させたのか?」


 リンヤは僕をじっと見ている。それは信頼を寄せるような、それを可能にしてほしいかのような願いが込められている気がした。


 サクラくんが事件に巻き込まれた理由。それはもっと別にある。それをまずは話そうと思う。


「サクラくんが事件に巻き込まれたのは僕が彼に髪を染めると良いと助言したところからだ。それがきっかけで事件に巻き込まれる。事件から助けるには君たちの部活に入部させて、君たちの手助けが必要だった」


 サクラくんが事件に巻き込まれた理由は、僕が彼に髪を染めるように勧めたところからだ。

 それよりも前の予知夢で彼が髪を染めれば事件に巻き込まれることは知っていた。


 そして、事件に巻き込まれた際に僕一人ではどうにもならないから、彼をリンヤ達の部活に入部させて、リンヤ達に手助けしてもらった。


 僕一人ではトーマスを追い返すこともできずに殺されてしまうからだ。


「なるほどな。俺らにサクラちゃんを紹介したのは助けるためだったのか。……でも、なんでわざわざサクラちゃんを事件に巻き込むようなことをしたんだ?」


 リンヤは責めるように僕へ言った。その言葉からは未来予知があれば事件自体を未然に防ぐことができたと言いたげであった。


「まあ、必要なことだった」

「……必要なこと?」

「ああ。僕にはトーマスが“過激派”を裏切り、こちら側へ味方するような盤面がほしかった。だから、サクラくんはトーマスに拐われて人質になる必要があった」

「……」


 僕がそういうとリンヤに一瞬睨まれる。僕は思わず視線を下へ向けた。


 わかっていたことだが、これはなかなか堪えるものだ。


「センは一体いつから事件のこととかを企んでたんだ?」


 リンヤの問いに僕は今までのことを思い返す。


 一体、いつから事件のことを企てていただろうか。少なくとも一年前にはこの部活にサクラくんが入部することを知っていた。


「だいたい一年前ぐらいからじゃないか。正確なことは覚えていない」

「……はぁー」


 僕がそういうと大きなため息が聞こえてくる。その声の主を見れば、呆れたように額に手を当てていた。


「全く、さっさと相談すればいいのに」


 リンヤはそう言って僕を見て笑う。


「センの悩みなんてみんなで考えれば簡単に済むかもしれないだろ。全部教えてくれ」


 てっきり怒られると思っていた僕はリンヤの反応に少し驚き、言葉がうまく見つからなかった。

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