花火大会、そしてお弁当。
みんなと別れて、私は春榊と行くデート場所のサーチを始めた。
今回は、四人は協力してくれない。私一人の力で、プランを立てて楽しいデートを成功させないと。
まず候補にあげるのは、水族館や動物園などデートあるある場所だ。
こういうところなら、比較的誘いやすくて助かるが、場所が遠いというデメリットが存在してしまう。近場で済ませようとしたのならば、そんなに楽しくない場所になってしまうのだ。冬ならば、イルミネーションを見たりとロマンチックなことが出来るが、季節は夏。ロマンチックの欠けらも無い、季節だと言ってもいいだろう。海へ行くか? 否遠い、却下だ。
映画館へ行くのもいいだろう、しかし見たい映画が違った場合、殴り合いの騒動に発展する可能性があるため、ここも却下だ。
さて、デート候補要素が全て消えてしまった。
って、こんな変なキャラを演じてないで早く決めないと、期限は二日。この期間内で最高に完璧で楽しいデートプランを考えてやるぜ。
と二日前の私は意気込んだが、何ひとつとして決まっていなかった。あの意気込みは一体なんだったんだろうか。NINEでも、彩芽たちに、まだデート場所決めてないの?と言われる始末だ。
あぁ、まだ決めてねえよ。決められないよ。神様、私にお力を貸してくれてもいいんですよ?ほーんの少し力をペってくれたら、それでいいんですよ?
……どうしよう。期限は明日なのに何も決まってないよ。土曜から考えてるのに、なんでこうも決まらないんだ。世のカップルたちは、一体どうやってあんな簡単にデート場所を決めているのだ?
もしかして、私が今まで見てきたカップルはレンタルだらけだったのかも。
あぁ、決まらないよ。机の上に突っ伏すと一つのチラシに目が行く。
「来たれ!南倉町大花火祭!恋鐘神社にて土曜日開催!」と書かれていた。忘れていた、夏には花火大会というロマンチックの塊があったではないか……。
しかし、春榊がほかの友達と行く約束をしてたらどうしよう……。いや、今はそんなこと考えてる暇ない、これに決定にしよう。
「てことで、今日花火大会に誘います」
「お〜、思い切ったね」
学校で、私が悩みに悩んだ結果絞り出され決まったプランAを言う。ちなみにプランBはない。なんとなく形としてプランAと言ってるだけだ。
そんなふたつも案を出せるほど、私の脳みそは裕福じゃなかった……貧乏アイデア生活を強いられていたよ。ごめんな、私の脳みそ。
「それで、もし振られた時は慰め会をしてもらいたいんだ」
振れたあとのことは、四人に任せることにしていた。ていうか、任せられる人がこの四人しかいないんだけどさ、友達が少ないとかじゃないよ、狭く深くってやつだからね。
「任せてください、私が宇宙に吹っ飛んでしまいそうなほどの慰めをしてあげます」
白山は、妙にくねくねしながら言う。なんか気持ち悪いな……イソギンチャクみたいだ。
宇宙に吹っ飛んでしまいそうなほどの慰めってなんだろう、ちょっとだけ気になる。
「じゃあ、頑張っておいで!」
「うん、いってくるよ」
昨日話があると、春榊を屋上に呼び出しておいた。そろそろ約束の時間のため、屋上に向かう。
屋上は、赤い夕陽が射し込み真っ赤に染っていた。いつもは遅刻するくせに、今日という日はちゃんと時間通りに来られたらしい、早まる心臓を抑えながら、私は春榊に近づく。
近づけば近づくほど、心臓は速くなっていく留まることを知らない心臓は、体中の血液を早く早く流していく。
「雨宮さん、話って?」
私は心に覚悟を決めて夏祭りに春榊を誘う。
誘った私の心臓は、はち切れそうなほど早くなり、私は今にも倒れてしまいそうだった。何とか堪え、地面に足をつけ彼の返事を待つ。
少し間が、空いただろうか春榊は笑って、私に「いいよ」と返事をしてくれた。
今にも飛び上がりそうな足を地面に付け、私は心の中で喜ぶやった、やったっと。
「本当に!?」
「うん本当に」
緊張して強ばってた身体は成功したことにより、力が抜け地面にへたり込んでしまう。
そんな私を春榊は心配してくれる。私は「大丈夫だよ」と笑って立ち上がってみせるけれども、体に力が入らず少しよろめいてしまって、春榊に寄りかかってしまう。
私は教室へ帰り私の帰りを待っていた四人に、デートに誘うことは成功したと報告する。
しかし、本題はここからだ。土曜日にある来れ! 大花火祭! で私は春榊に告白してOKをもらわなければならない。OKを貰う、それが私の本来の目的なのだから、デートを誘うだけでは満足してはならない。心にそう言い聞かせる。
待っていてくれた四人は、まずはデートに誘えたことを喜ぼうと言う。私もそれ自身はすごく喜ばしいことだ。昨日寝ずに、プランを立てた甲斐があった。
しかし告白をして、OKもらわなければ全てが台無しだ。私ならいける、私ならいけると思うそう信じる。
祭りがあるのは今週の土曜日のため、私はそれまで自分を磨くことに専念しようと思う。春榊の隣を歩く女性が、不衛生で身だしなみがダサかったらあれだろう。
私は早速家に帰りお母さんに着物はないかと尋ねると、お母さんはちょっと待っててと言い、どこかへ行ってしまった。数分した後、お母さんは白い箱を持ってきた。少しでかくて、横が広い。一体何が入っているのだろうかと思い、箱を開けてみると、赤の着物が入っていて、金魚の柄が刺繍が施されていた。
この着物はお母さんが、子供の時おばあちゃんに買ってもらったものらしく、もう長いこと着ていなく、襖の奥にしまっていたのを思い出して出してきてくれたらしい。
お母さんの小さい頃と私の今の身長はほぼ変わらない。
つまりこの着物は私にピッタリというわけだ。少し試着してみるとサイズ感的にもぴったりで、足が少しだぼっとするぐらいで、特に問題はなかった。
お母さんと私の間にある氷が溶けたおかげで、こういう会話もできるのがとても嬉しく思える。
今まではゴミを見るような目で私を見ていたお母さんが、今は我が子を見るような目で見てくれて愛でてくれてるのが分かる。
お母さん今日のご飯は何と聞くと、「肉じゃがよ」と答えてくれる。なんとも母娘らしい会話で、ごく普通の会話に思えるが、私にとってはそうではなかった。今まで当たり前が、当たり前じゃなかった、私にとってこの会話はとても貴重で楽しい時間だ。
「ただいま」
お母さんとリビングで着物を見ていると、玄関の扉が開き不機嫌そうな声が聞こえる。父親だ。今もまだ朝のことを引きずって、会社に行き帰ってきて、そのことを引きずっている子供っぽい父親だ。
「お帰りなさい」
「なんだ2人して、着物なんか見て。 見ても特に意味は無いだろうに」
この人はどこまで人を、嫌味たらしく言えば気にが済むのだろうか。自分が見る価値がないと、思えば見る価値がないと思う。自分が見る価値があれば、見る価値があると思う。
自分の価値観がこの世の全てだと、自分の価値観がこの世を作ってると思ってるのだろうか
「良いじゃないのですの。 葉月が見たいと言うんですから」
「なんだ、お前が言ったのか? こんなものを見てどうする? あっ、わかった。あの男のために着ていくんだろう?」
この人はなぜか春先のことも知っていた。どこで見たかは知らない。しかし、嫌味たらしく言っている。
「なんで知ってるの?」
私は語調を少し強くし言う。
「お前がトゥインに遊びに行ったのは知ってるんだぞ。 たまたま取引先でな、お前を見かけたんだ。 なんだ頭の悪そうな男と一緒にいるんて」
「……私のことは悪く言っていいよ。 でもね、友達を! 好きな人を馬鹿にするのは許さない! 殴るか! 反抗してきた私を殴るか! このクソ親父!」
春榊のことを悪く言われ、私は頭に血が上り声を荒らげ、お父さんに反抗した。胸ぐらを掴み今にでも殴ってやりたかった。その憎たらしい禿げた頭を殴ってやりたかった。思いっきりグーで。
「クソ親父とはなんだ! この育ててもらった恩も知らないカスが!」
お父さんは私をカスと言い、机を叩き自分を強く見せる。今すぐにも出ていってやりたかった。でも、出て行った所で行くあてもない。
私は涙をこらえ二階に上がり、部屋の鍵を閉めた。誰にも会いたくない嫌だ。布団にくるまり自分だけの世界に逃げる。
せっかくデートにも誘えて嬉しかったのに、お母さんと着物の話ができて楽しかったのに、全部壊された私の楽しかった時間をアイツは簡単に奪っていった。
「……葉月ご飯ここ置いておくわね」
お母さんが部屋の前にご飯を置いていってくれた、私の気持ちを察してくれたのだろう。でも今はご飯を食べる気分にもなれない。
真っ暗な私の部屋には、月明かりだけが照らされていた。
泣いたら負けだと思い、泣いていなかったが、次第に涙が目から零れてくる。溢れて止まらない涙は、頬を伝わり布団に落ちる。 布団には涙の染みができ、私は泣き疲れ寝てしまった。
次の日の朝私の目は赤く腫れ上がっていた。
あー泣いたことがバレちゃうな。でも学校には行かないとみんなが待ってる。
洗面台で歯を磨き髪を梳かし、リビングへ行くと、まだ機嫌の悪い父親がいた。会いたくはなかったが、ご飯を食べるためには仕方がない、目の前に座りご飯を食べ始める。
急いで食べ、洗い場に置いてあるお弁当を持ち私は家を出た。
いつもの公園に寄ると、時刻はまだ7時30分で、今から学校に行くと誰もいないし、暇なことが分かる。ここで時間を潰すのもいいが、制服のままいると色々と厄介だろう。不良少女だと思われてしまうかもしれない、それで、学校に通報されたらまた面倒臭いし、しょうがない学校に行くか。
鍵の閉まっている教室の前で私は一人座っていた。
誰もいないため、鍵は開いていない当たり前だ。この学校は先生が鍵を開けてくれるらしいが、7時45分というのに先生はまだ鍵を開けてくれていなかった。生徒が早く来ることを見越していないのだろうか、
まぁ私が早すぎるだけかもしれない先生が来るのを冷たい廊下の上で待つ。
5分ぐらいすると、鍵を持った担任の先生はやって来てくれた。私を見るや否や「登校するの早いなぁ雨宮。感心、感心」と言い、鍵を開けてくれた。
誰もいない教室は閑散としており、どこか寂しさを覚えるような、雰囲気があった。人がいると、あんなにも楽しそうな場所なのに、人がいないと静かな場所になってしまうというのは面白い。建物は人によって、物によって見方や雰囲気が変わる。
8時ぐらいになると、生徒たちが続々と登校してきて、彩芽も登校してくる。
「うわ! どうしたの? こんなに赤く腫れ上がって」
やはり気になるらしい私のこの赤く腫れ上がった目は。
まぁ、私自身も気になっているから、他人が気にしないという方が無理だろう。彩芽に正直に話す、昨日父親と喧嘩したことを、一から十全部頭から指の先まで丁寧に喋る。
「そっか、そんなことがあったんだね。 葉月、電話してきて大丈夫だからね。 私たちは友達でしょ? 何のためにNINEを交換しているの? 悩みを打ち明け、愚痴を聞き合って、支え合うために私たちは友達をしているんだよ。 頼って」
「……ありがとう。彩芽」
彩芽は優しく、そっと言葉で、私の事をハグする。母の腕の中に抱かれているような、そんな安心も覚える。
言葉とは凶器になり得るし、救える道具ともなり得る。それを凶器として使うか、救う道具として使うかは、人次第だと私は思う。父親なら凶器として使い、私は救う物として言葉を扱いたい。
全てを打ち明けたからだろうか、心がすっと軽くなり、昨日までわだかまっていたものがなくなる。
私の心に巣食っていた雲は、どこかへ消え去り少しだけ太陽が覗き込んでいた
しかし、この目で1日過ごすというと、いろんな人に心配されそうで、ちょっと気が思いやられる。
案の定、白山と牧田と鳥田には心配されたが、ちゃんと何があったかを全て話した。
こんな目をしといて、いやいや何もないよっていう方が無理であろう。隠し通すのは無理だと判断した私は、全てを打ち明けるのが一番だと判断する。
「あれ、雨宮さん。 その目どうしたの?」
「あ、えっと。 昼休み全部話すから、今は話さなくていい?」
「あ、わかった」
春榊もその目どうしたの?と聞いてくる。
でももう授業が始まっちゃいそうだし、昼休みでもいいか聞くと、分かったと返事をしてくれる。
昼休みになり、目の腫れはちょっと引いたが、まだ赤かった。なんならちょっと充血し始めている事に、私は気付いた。泣きすぎると目って充血するんだ。新しい発見をした私は屋上へ行く。
彩芽達には、ご飯は一緒に食べれないごめんねと言うと、「好きな人と二人でご飯ですかヒューヒューお熱いね」と、茶化されてしまった。
「お待たせ、待った?」
「ううん、全然」
先に持っていた春榊に待った?と聞くとうんうん全然と言ってくれる。気を回してくれたのか、それとも本当に全然待っていないのか分からなかった。なんせコイツはすぐ遅刻するからね。
私は昨日あったことを全て話した。何も包まずに私は全てを話した。
「そっか、そんなことが。 でも、大丈夫だ! 実はこんなものを作っておきました」
春榊は胸ポケットから、何か出したと思ったら何でも言うこと聞く券を10枚出してきた。
何だこれはと思い聞いてみると、「雨宮さんは、なんでもかんでも遠慮しがちだから、紙に書けばしてくれるかなと、思ったから作りました」と笑ってみせる。
「なんでもゆうこと聞くの?」
「もうなんなりと、申しつけください」
こいつはMなのだろうか。自分から進んでこんなことをするなんて、アホなのか、馬鹿なのか、お人好しなのか分からない位に優しいんだから。
だから、私はそんな彼に惹かれたのだろう。人のことを思ってこんなものを作ってしまう彼に。
「なら、試しに回ってワンと吠えて」
「了解しました!」
その言うと、春榊は四足方向になって一周回ってワンと吠えてみせる。本当にしやがった、こいつ。
本当にこんな紙の言うことを聞くなんて、どこまで馬鹿なのだろうか。
でもこれは多分私を、元気付けるためにやってくれたのだろう。春榊が考えて考え抜いた先でこれが出来たのなら、私は喜んでこのプレゼントを貰おう。
「それじゃあ、ご飯食べようか」
「朝練終わってたから何も食べてないよから、お腹ぺこぺこだ」
「それは当たり前じゃない?」
思えばこうやって2人でご飯を食べるのも久しぶりだな。最近は彩芽たちと食べることが多くなっていて、屋上へ来る機会も少なくなっていた。
昨日と今日、久しぶりにここへ来たが、やはりここから見る景色は壮大でとても美しかった。こんなにちっぽけな町でも、美しく見えるんだから、屋上という魔法は凄い。
ご飯を食べ終えて私は教室へ帰ると、私の帰りを待っていた4人が、何があったかを聞いてくるが、進展も特になく、何もないよと、答えるとちょっと残念そうな顔をする。
数十分で何かが起きたら、私もそれはそれで嬉しいが、何も起きることなんてなかった。あったとしてもあの紙のことだから、喋る気にはなれなかった。
放課後になったが、私はまだ教室に残っていた。彩芽たちは先に帰ってしまったが家に帰りたくない私は、教室に残っていた。
家帰りたくなかった。父親が帰ってくる。それだけを思うと憂鬱になってしまった。
父親との氷はいつ溶けるのか分からない。あの喧嘩を思い出すと、一生溶けないんじゃないかと思ってしまう。でもお母さんとは仲良く出来たし、お父さんともいつかしたい。
そしていつか小学生の頃ように、またみんなでどこかへ行きたい。
教室の窓の外から聞こえてくる、部活動生の言葉こそは強いが、叱咤激励で誰もその人を傷つけようと思って、言葉を発していない。
時間も時間だ、そろそろ家に帰らなければならない。重い腰を上げ、靴箱へ行き下靴に履き替えて、やっとの思いで家へ帰る。
なんとか家へ帰ると、お母さんが夜ご飯の支度をしていた。どうせなら何か手伝おうかな、手伝ったこと一度もないと思うし。
手を洗い台所へ行き、何か手伝うことはないかと聞く。
「お母さん、なにか手伝おうか?」
「え、いいの? 葉月」
「うん、どうせ暇だしいいよ」
「それじゃあ、洗い物しててもらえる?」
「わかった」
溜まりに溜まった調理器具を、一枚、一枚丁寧に、洗っていく。お母さんの横で何かをするのは、初めてのことで中三になってからも、まだこんなことを初めてだなんて恥ずかしい。普通の子たちなら小学三年生ぐらいで済ませてしまってるだろう。
お母さんと横並びで何かができている、それだけで私はとても嬉しかった。前までの関係じゃあ、絶対考えられなかった。いや考えても無駄だったから、考えてなかった。
でも今はそんなのが現実になっており、夢は現実にとは、このことだろう。頭をひねっても、腕をつねっても、顔を叩いても夢ではないことは分かる。
なぜ分かるかって?夢じゃこんな幸せは味わえないからだ。こんな幸福は現実じゃなきゃ味わえない、それが何よりの証拠だ。
洗い物が一通り終わり、お母さんに次は何をしたらいいかと聞くと、この「フライパンで肉を炒めといて」と言われる。
「お母さんは横で味噌汁を作ってしまうから、その肉を焦がさないように」と、言われるが肉を焦がさないぐらい、私だって簡単にできる。包丁を持ちたての赤ん坊じゃ、あるまいし。
肉の焼き加減がちょうど良くなった時、お母さんに「焼き上がったよー」と言うと、お母さんは「じゃあ1個食べて中が生肉かどうか確認してみて」と言う。
確認してみるために1個口に放り込むと、美味しい肉の旨味が口の中に広がる。これは、ちゃんと焼けていると思い、お母さんに「ちゃんと焼けてるよ」と言う。
お皿に盛り付けといてと言われ、適当にお皿に盛り付け、私はお膳の上に出す。我ながら、いい出来だと思う焼いただけだが。
どうやら今日は父親は、遅いらしくお先にご飯は食べていましょうと言われ、お先に味噌汁をよそって、ご飯をよそい食べる。
「うん、美味しい!」
「あら、美味しいわね、このお肉。 柔らかくて美味しいわあ」
さっき1個食べたが、やっぱりこのお肉は美味しい何個食べても、何個食べても、もう1個食べたくなる美味しさだ。
その後はお風呂が沸き、私はお風呂へ入り、就寝する。
土曜日まであと3日、私は洗顔に力を入れ、念入りに毛の剃り残しがないかを確認する。
何度も何度も鏡でチェックするが、大丈夫だ。
しかし、あと3日か。
3日なんてすぐに来てしまう心の準備はできていない、やはり、告白となると誘うとは違ってもっと大きな負荷がかかる、なんなら今からでも心臓がはちきれそうだ、今から心臓がはち切れそうなのに本番私はどうなってしまうのだ。花火と一緒に私の心臓は打ち上げるかもしれない、そうなってしまったらたーまーや!と言って笑ってほしい。
告白の本番2日前、私たちは校舎裏に来ていたなぜ校舎裏に来ているかというと、私が緊張するというとそれじゃあ練習をしようということになり、なぜか校舎裏に来ることになった。
「ねえ、なんで校舎裏なの?」
そう彩芽に聞くと
「えっ、当然でしょう? 校舎裏なんてラブレターを持った女性が男性に告白する絶好のポイントなのよ、練習するならここしかないでしょ」
謎の力説をされてしまうが、多分小説の中の話だろう。小説とか漫画では告白するためにわざわざ校舎裏に呼び出し告白するというシーンが多々あり、そのことを言っているのだろう。小説が大好きな彩芽らしいや。
ていうか、カツアゲする不良みたいだよね、校舎裏に呼び出すって。
「それじゃあ、私を春榊だと思って告白してきて」
「ええ、分かったよ」
頭の中で彩芽を春榊に見立ててみる。駆り立て、私の想像よ、彼女は今私の好きな人です、だんだんと彩芽の顔が春榊に見えてくる。
なぜか校舎裏の風景のはずなのに、だんだんと花火大会の風景に変わっていく。
私の想像力はどうやらすごく強いらしい、これなら思いっきり練習ができる、よしそれじゃあ行くぞ。
「あ、あの私」
「カットォ! ダメですよ! 腕はこう繋いでモジモジするんですよ!」
白山から、カットと言われ手を繋いでモジモジするように指示が飛ばされる。私は言われるがままに、手を繋ぎもう一度想像し直す。
「はい、行くよ。 1……2……」
もう一度さっきの状況に戻し、頭の中で想像する、好きな人に告白する自分を、モジモジする自分をよし。
「あ、あの! 私春榊のことが!」
想像なのに、花火が破裂する音が聞こえた。一旦、現実に戻ってみると、効果を鳴らしている、牧田と鳥田がいた。何をしているんだこいつらは、と思ったが首から特殊演出という札をかけていた、もしかして私、映画の主人公か何かと思われている?
そして、彩芽はなぜまだ目をつぶっている、お前だけだぞ、まだその中に入っているのは、おーい帰ってこーい。
顔を一回優しくピッチンと、叩くと彩音は目が覚めたように、この現実に戻ってくる。
「はっ! 私の王子様!」
「なんで彩芽が想像してるんだよ」
私の練習のはずだったのだが、いつの間にか彩芽の王子様探しようになっていたらしい。一体どんな王子様なんだろうな、白馬に乗っているのだろうか。それとも隻眼の黒馬だろうか、それとも三国志の人が乗ってそうな馬だろうか。
「……いけそう?」
「真剣な眼差しで見られても、いけそうにはないよ」
ものすごく真剣な眼差しで見てくるが、私の想像はあまり上手くいってない、どちらかというと彩芽の想像の方が上手くいってる気がする。
一体どんなコツでやっているんだろうか。想像はできるんだが、周りの邪魔というか演出がちょっと大きすぎて、私の想像の中にも介入してくる。
「てもお陰で、緊張はほぐれたよ。 これならリラックスして告白ができそうだよ、ありがとうみんな」
想像は確かにできなかったが、心はリラックスできた。
これなら本番も落ち着いて告白ができそうだ、よかった。本番の日に噛んでしまった方が最悪だからね。あと2日、私は気合いを入れて過ごそう。
本番の日が近づいて来る1日前、学校が終わり家に帰ると、急に彩芽たちにグループNINEで呼び出され、私は恋鐘神社に行く。なんで神社に呼び出されるんだろう、何かするのかな。
「あっ、きたきた〜。 おーいここだよ」
「げぇ、この階段のぼるの!?」
300段以上上った先にある境内に彩芽たちは、先に行っていた。
私にこれを登れっていうのか……私は5階に上がるだけでも一苦労なのに。
いいや、行かなければならない。言ってあいつらにガツンと言ってなければならない、私はその一心で300段どうにか登りきった
「こんなに……階段のぼらせないで……」
ガツンと言ったろうと思ったが、300段登った弊害でカツンと言うとこか、へなへなの弱い声しか出なかった。
「それでここに葉月を呼んだ理由は、お参りしようかなって。 明日の験担ぎみたいなもんだよ」
「なるほど。こんばんは神様。今日は明日験担ぎに来ました。どうか明日は私の告白を成功させてください」
私達は5円玉を、注連縄の下にある賽銭箱へ投げて私の告白が成功することを5人で祈る。
「よっし! これで験担ぎ終了! おみくじ引いてこ!」
「あ、私大吉出したい〜!」
彩芽の後に続き、鳥田、牧田とどんどん続いていき、私もそのおみくじをら引きに行く。100円入れてね!と書かれた場所に100円玉を入れて、おみくじを1枚取る。
「よし、それじゃあ開けるよ! いっせーのでせっ!」
私は大凶、彩芽は大吉、鳥田は吉、牧田は末吉、白山も吉といった結果だった。
「明日告白する私が大凶……!?」
明日告白するというのに、おみくじの結果は大凶という散々なものだった。
何度も幸先が悪いことだ、験担ぎをしてしまったのに、これでは験担ぎが担がれていない。
「大凶は、めでたいっておじいちゃんが言ってから大丈夫だよ」
彩芽は、フォローになってそうでなってないことを言う。なぜそんな微妙なフォローをしたのか、私を気遣ってのことだろう。
「雨宮さん、大丈夫ですよ。 大凶は大吉がいればその効果を失うと聞きましたからね」
なぜそんなにカードの効果説明みたいな喋り方なのだろうか、大吉は彩芽が引いたため、私の大凶の効果は打ち消されているということなのだろうか。もしも本当にそうならとても嬉しいが、デマ情報という可能性も高い。
今の世の中、デマ情報なんてそこら中に転がっている、どれが本当でどれが嘘かを見抜ける力が、今の世の中にも必要になっている。
「結んで帰ろうか」
「そうだね。 結んだらいいことが起こるかもしれないし」
おみくじを神社に結んで帰ることにする。こうすればちょっとは運が良くなるかもしれない、そう願って結ぶが実際のところ良くなるかは分からない。
「じゃあ、明日頑張ってね!」
「うん、頑張るよ。 今日はありがとう」
彩芽たちと別れ、私はついに本番を迎える。
今日はお母さんに許可をとって、10時まで遊んでいい事になった。父親のことは知らない、父親が何を言おうが私は気にしない。
約束の夕方6時、金魚の刺繍がされた、赤い浴衣を着て、私は昨日来た恋鐘神社に居た。
昨日の静かな恋鐘神社とは違って、今日は色々な屋台が出ており、祭りに遊びに来た人達で、賑わい返していた。
私は、春榊を賽銭箱の前で待っていた。
待ってる最中に髪型はおかしくないかと、思いちょいちょいと直すが、鏡がないためおかしいかどうかも分からなかった。
約束の10分前だというのに、春榊は珍しく早めに来た。格好は、紺色と黒が混ざったような着物を着ており少しデカそうに見えたが、祭りにはピッタシの格好だった。前のような格好では、さすがに来なかったみたいだ。
「今日は遅刻しなかったね」
「そりゃ、こんな大事な日に遅刻はしないよ」
そのものいいじゃ、前の遊んだ日は全然大事じゃなかった、そういう風に聞こえるがいいのだろうか。
というよりかは、なぜ今日は大事な日なのだろうか。
しかし、私はそれを春榊には聞かない。別に聞かなくてもいいものだと、私は思った。
聞かなくとも2人でこうやって夏祭りにいられる、それだけで満足だった。
「えっと、その着物似合ってるね。 可愛いよ」
「あ、ありがとう」
春榊は、たどたどしい言葉で褒めてくれる。やはり面と向かって、褒められたら恥ずかしいものだ。褒めた本人も褒められた人も、照れるという。
どちらとも照れてしまうという展開になるが、まぁ気にせずいこう、これも青春なのだから。
「花火まで時間あるし、屋台に見に行こうか」
「あ、そうだね。 私金魚すくいしたい」
花火までの時間はあと1時間ぐらいある。
そのため暇を潰すため、屋台を回ろうということになる。私は金魚すくいがしたいという。
金魚すくいは好きなんだ。無心で魚を捕まえるという行為が、なぜかとてつもなく楽しく思える、何が楽しいかと聞かれたら的確に答える自信はないが、好きな気持ちは誰にも負けないと思う。
「いいね、金魚すくいしに行こうか」
階段のすぐ横にある金魚すくいに行き、ちょっとガタイのいいおっちゃんに1回と頼む。
「あいよ、お嬢ちゃん。 おっ! 彼氏さんと一緒かね! ハッハッハ青春ってやつか! お兄ちゃんの分もまけてやるよ! ほら、2人でしな」
気前のええおじちゃんは変な勘違いをしているようだが、別に否定する気もないし、なんならこのまま彼氏彼女と思われてしまっている方が私は気分がいいし、周りから見たら私達はそう見えるんだろうか。
春榊は、耳まで真っ赤にして金魚すくいをしていた。否定も肯定もしない、その心はどう思ってるのだろうか。心を覗けたなら、そんな悩みすぐに解決するのにな。
「カップルに間違われちゃったね……」
「そうだね。 金魚取れなかったけど、1匹くれたしいいおじさんだったね。」
私も金魚すくいが好きだが、別に特段上手いというわけでもない、ただ好きな人だ。そして結局1匹も2人とも取れずに、おじちゃんは笑って「ほらよ」と言って1匹くれた。私たちの間には気まずい空気が流れていた。
どうしよう、この空気、今ちょっと流れ変えた方がいいけど、カップルに間違われて恥ずかしいし、でもこの後もっと恥ずかしいことをするし、と心がどんどんと混乱していく。
落ち着け、私落ち着け、大丈夫私なら大丈夫。
「お腹ちょっと空いたね、何か食べようか。 ほら唐揚げとか美味しそうだよ」
「あ、本当だ。 美味しそう、僕買ってくるから待っててよ」
流れを変えるために目に付いた唐揚げを、お腹が空いたねと、話題に出すと春榊は美味しそうと言い、すたこらさっさと、私の分まで買いに行ってしまった。待ってという暇もなく、サッカー部の彼は見る見ると、どこかへ消え去ってしまった。
1人取り残された私は見つけやすい場所に、立って待っていた。
春榊を待っていると、金髪のチャラい男の人たちが「お姉さん1人?」と声をかけてくる。最初は私じゃないかと思ったが、声をかけられ続けているのは私だと気付く。
顔を近づけられ、喋られると口の中が酒臭いことに気づく、酔っ払っているんだ。
「や、やめてください」
「いいじゃん、ちょっとそこに来てもらうだけだから」
強引に腕を掴まれ、私は振り払おうとするが男の人は力を強くし、より強く掴む。
私の心には恐怖が植え付けられ、振りほどくことさえも出来なくなり、ただ恐怖に支配され、怖いと声も出すことが出来なかった。
心の中で誰か助けてと願うと、唐揚げの美味しい匂いと共に春榊は現れた。
「ちょっとお兄さん、そういうのは良くないんじゃない?」
「あぁん? 何だこのチビ助、俺にたてつこうってか? 彼女にいい顔したもんな、あっひゃひゃ」
「……お巡りさんー! ここに暴力を振るおうとしている人がいますー! 助けてくださいー!」
春榊は息を大きく吸うと、境内中に響く大きな声で叫ぶ。境内には祭りでスリをする者がいないか、見張っている警察官がいる。
そのため、こうやって大声で叫べばその警察官が気づいてくれて、こちらに来てくれるだろう。
これが、一番安全で確かな防衛方法だ。暴漢達は警察官へ連れて行かれていかれ、その後どこへ行ったかは知らない。
「ごめん、1人にして。 こうなることまで考えてなかった」
「大丈夫だよ、あんなのに遭遇する方確率の方が少ないんだから」
春榊は頭を下げて、私に謝るがあんなことある方が少ない。
早速、昨日の大凶の成果が出たのだろうか。私はあんな暴漢に絡まれてしまった。
「唐揚げ食べよ、冷めちゃう」
「あ、うん。 はい」
少しだけ罰当たりだが、賽銭箱の前で座り唐揚げを食べる。
春榊が買ってきてくれた、唐揚げを食べると熱々で、中はジューシー肉汁が溢れとても美味しかった。
花火まであと30分となる。私の告白の本番の時間も、刻一刻と近づいてきている、心臓は段々と早くなる。周りの喧騒が聞こえなくなるぐらい早くなっていく、まだ30分前だというのに、今からこんなに早かったら本番耳から心臓が出てしまうのではないだろうか。
そんなことを思うが、絶対にありえないんだけどもありえそうで怖い。
落ち着け、私人の文字を変えて手で飲むんだ。
あれは人を書くことによって落ち着くんじゃない、手の真ん中にあるツボを押すから安心するんだ。この前ネットで見た、ちゃんと告白するにあたって、安心するツボを探してきた。まずは手の真ん中、あとは首の何処か押せば安心するらしい。
「美味しいね、この唐揚げ。 ねっ、雨宮さん……!?」
春榊は、唐揚げではなく、人の文字をたくさん食べている私に驚く。唐揚げはとうの前に食べ終わってしまい、今は人の文字をたくさん食べている最中だった。
「えっ!? あっ、うん美味しかったねこの唐揚げ」
私は見られていることに気づき、人の文字を食べるのをやめる。まさか見られていたとは。いや、隣にいるから見られるのは当たり前だ。あんまり緊張しているもので、そこまで頭が回んなかった。
少しの間ふたりの間には、静寂が訪れ周りの喧騒が聞こえてくる。
屋台のおっちゃんの「いらっしゃい」という声だけが聞こえる。今はこの空間には私達は2人しかいない。そんな気がした。
「雨宮さん、俺花火がよく見えるところ知ってるんだ。行かない?」
「うん、行く」
春先の花火が一番見えるという場所まで、連れてってもらう。斜面な土手をのぼり草木を掻き分け、私たちは一つの展望台に着く。
学校の屋上のように町が一望でき、町の明かりが点々と私たちを照らしていた。
花火まであと10分を知らせる放送が流れる、みんな一気に花火が見える石井川へ行く。石井川はこの町を流れる、大きな川で農業にも電力にも色々と使われている。
展望台から、石井川を見ると、レジャーシートを引き、屋台のご飯を持った人で溢れかえっていた。
石井川の上には車が渡れる橋があり、そこの歩道橋からも人は花火を見ていた。
マンションから花火を見る人、石井川から花火を見る人、、またまた花火を見ない人、様々だ。
この展望にはベンチが一つだけあり、私たちはそこに座っていた。
誰か来ないだろうかと心配していたが、花火が始まる10分前になっても誰も来ないということは、ここには本当に誰も来ないのだろう。
今ここにいるのは私たち2人だけ、それが私の緊張を早める。
「後、5分です」。花火が始まるまであと5分という放送が流れる。
「あと5分だね、どんな花火が見れるだろうね」
「楽しみだね〜」
春榊は、いつも通りを装っているように見え、何かを隠しているようだった。私を支えた時は、汗をかいていなかった春榊なのに、今は額に汗がぐっしょりと濡れていた。今日はあの日よりかは、暑くはないはずなのにどうして、そんなに汗をかいているのだろうか。
「ねえ、汗すごいけど大丈夫?」
「えっ、あっ大丈夫だよ」
私は心配をする、彼の額には汗がたくさん濡れていた。明らかにおかしい汗のかき方だが、彼は大丈夫だという、私に心配をかけたくないのだろうか。
「……なんか今日浮き足立っているけど、どうしたの?」
今日の春榊は、心ここに在らずで何かがおかしく、私何かを隠しているんだろうか。
「いやあ、実は今日家に帰ったら、ハンバーグがあるんだよね、僕の大好物の」
「嘘をつくなら……」
私の言葉を遮るように、天高く打ち上がる一輪の花が破裂し空に咲き誇る。
花火が始まった。私の告白する時間もやってたということになる。しかし私は彼の方が心配だ。
「始まったね〜! たーまやー!」
いや、今は他人の心配をするより自分のするべきことを先にしよう。私は彼に今から告白をする、心臓はさらに打ち上がる花と同じ音と立てている。
これが人間の心臓かと思うぐらいに、ドクンドクンと脈打っている。
「ねえ!」
「あの!」
私と春榊が同時に向き合い、話しかける。
「あっ、先どうぞ。 雨宮さん」
「あ、じゃあ先に」
と私は先行を譲られ、先に話したいことを話すと言っても、あなたのどこが好きかという話なのだが、面と向かって話すことになるとは思ってはいなかった。
「私はいつも他人に迷惑をかけないようにして、誰かに泣きつくことは許されないと思って、自分の居場所なんかどこにもないと思って生きていました」
出会った日のことを思い出しながら話す。
あの日は家にいたくなくて、ダラダラと外を歩いていた自分の力の無気力さに打ちしがれていた。
そんな時だった1匹の黒い大型犬が私に吠えてくれて、私と春榊は出会う。今思えばあの犬が天使のキューピーだったんだ。
名前も知らない彼は、私の名前を知っていておかしな人だなと思いました。でもその人のおかげで私は学校へ行けました。そして友達もできて楽しい学校生活が送れるようになりました。
「それが貴方です。 春榊太陽。 貴方は私の太陽です……私と」
「あ、待って!その先は僕に言わせて! お願い!」
私と付き合ってください、と言おうとした瞬間、話を遮られ僕に言わせてと言われる。
私はその言葉の意味を瞬時に理解する。春榊も、私のことは好きだということに。
顔が紅潮し、空に咲き誇る花と同じ顔色になってしまう。それでも私は嬉しかった、まだ直接は言ってもらえてないけど、私が好きだと言ってもらえてる。その現実がとてつもなく嬉しくてどこか非現実的に思えて、空に咲き誇る花を見るがこれは現実なのだ。
「えっと、じゃあ。 後はどうぞ」
「あ、え、あ。 うん」
僕はよく教室の外を見ていました。授業がとてつもなくつまらなくて退屈で、外を見る以外やることがありませんでした。その時です。私の隣の席が毎日空いていることに気づいたのは。
私はどんな人なんだろうと思い、先生に名前を尋ねてみました。
名前は雨宮葉月、写真を見せながらそう教えられました。でも出会うことはないだろうなと思って歩いていたら、エンジェルが吠えたのです。エンジェルとは、僕の家の飼い犬の名前です。小さい頃の僕が、まだ子犬だった頃の白い毛並みを見て天使だと勘違いしたのが、名前の由来です。そして吠えた先には、あなたがいました。私は運命だと感じました。でも、その時はまだ好きじゃなかったです。
でも、屋上で2人で話している時間がとても楽しくて大事なものだと私は気付いたんです。
「私は雨宮葉月さん。 貴方が好きです。 付き合ってください」
「……はい、喜んで」
空には2人を祝福する、ハート型の花が咲き誇っていた。
晴れて私たちは本当のカップルとなった、ぎこちない手の繋ぎ方で花火を見終わり、家へと帰る。
なんてことない、帰るはずの道がなぜかとても綺麗に見えて、私の横には顔を真っ赤にして手を繋いでくれる彼がいる。
「いつまで顔を真っ赤にしてるの?」
「い、いや。 やっぱり余韻が凄くて、こうわーって」
語彙力が少なく、何を言っているかよくわからなかったが、春榊なりに精一杯に伝えようとしてくれたのだ、それだけで愛おしく思える。
私の家へと着きまた学校でと、私たちは別れる。
帰った時刻は8時30分。門限は1時間半過ぎている。
でも、今日はちゃんと許可を取った。父親が何を言っても、私は無視をする。聞こえないふりをして、私は無視をする。
手を洗い、リビングへ行くとコーヒーを飲む父親がいた。
私の方を見る。また何か言われるんだと思い、覚悟する。
「……葉月。 ちょっと座ってくれないか」
なんと言われたの小言ではなくて、席に座ってほしいというお願いだった。
お母さんの座ってあげてという顔をしており、仕方なく座ってあげる。一体私に何の話があるというのだ、また何かを言うためにわざわざ座らせたのか。
「……私はお前に酷い仕打ちをしてきた。 それは謝って許されるものじゃない。それは分かっている。 でも、やっと気づけたんだ、お前が私の胸ぐらを掴んだ時、お前が立派に成長したことを。許してくれとは言わない。 だけど、こんな父親が変わるところを見ていてくれないか?」
父親から言われたのは、小言ではなくて謝りの言葉だった。いつも憎み嫌味たらしいことを言っている、あの父親が、私に頭を下げている一体何の風の吹き回しだろうか、でも私も前のように戻りたいと願っている。だからこの父親の願いを私は聞き受ける。そして
「お父さん、ちゃんと変わってね」
「……葉月。 あぁ、任せてくれ。 お父さんは変わるぞ!」
お父さんはそう言う。これがちゃんとした家族の形なのだから。これが普通なのだから私たちはやっと普通の家族に戻りつつある。何年経っても、私たちは私たちだった。
「じゃあ、私2階に行くね」
二階へ行ってベットに置いておいたスマホを開き、NINEで土曜日と書かれたグループに一通のメッセージを送る。
「春榊と付き合えることになりました」
端的にそれだけを伝えると、数秒で4人の既読がついた。どっちから告白したのか、どういう風に告白したのか、どこで告白したのか色々と聞かれたが、月曜日に全部話すと言って話を切り上げてしまった。
ここで全部話すのは少々骨が折れる。言葉で伝えてしまった方が早い気がするため、月曜日行った時に伝えることにした。
そして、春榊と書かれたNINEに「今日は楽しかった」と送る。
実はこの内容を送るのに10分ぐらい迷った。
どう書けば気持ちが伝わるだろうか、気持ち悪くはないだろう、重たくはないだろうか色々と考えた結果、こんな短くなってしまった。
本当はもうちょっと書いていたが長すぎるのもアレだな、と思い削除に削除を繰り返した結果、この端的な文になってしまった。これはこれで質素で気持ちがこもってないに見えて、どうかと思うがこれが私の精一杯だから受け取ってほしい。
「僕も楽しかったです」
と20分後で返事が来る。春榊もこの返事を送るのに、私と同じように思考を繰り返したのだろう。
20分もこれだけを送るのにかかるはずがない、よほどのおばあちゃんじゃない限りだ。
私達は似た者同士だ、こんなこと考えずに気楽にポンと送ってしまえる、カップルたちもいるのだろうけど、私達はそうはいかなかった。
相手を傷つけないように必死に考えて考えて送るのが私たちだ。人は人、私は私。
これが今はとても心地が良かった、いつか気楽に送り合えるようになったら、それで良い。今はゆっくり1歩ずつ1歩ずつ前進していくのが一番だ。焦って結果をだそうとしても大したものは出来上がらない。
着実に1歩1歩もう一歩と踏み出していこう、私がそうしてきたよう。
朝起きて歯を磨がいて、リビングに行くとお父さんが、おはようと言ってくれる。
「おはよう。葉月」
そのおはようはどこかぎこちなかったが、どんなおはようにも負けない力があった、私も
「おはよう、お父さん」
と返す。家族3人揃った食卓には笑い声と喋り声が響いていた前のような無言はなく、今あるのは笑い声と喋り声だけ。外の生活音なんて聞こえないほどに、でかく楽しいものだった
「それじゃあ、学校に行ってくるね」
「あぁ、気をつけるんだぞ」
お父さんに気をつけるんだぞと言われたのは何年ぶりだろうか。
いつも私が気をつけていたのは、お父さんの方だというのに、今日はお父さんに気をつけるんだぞと言われてしまった。もうお父さんは気をつけるべき存在ではなくなった。居場所じゃなかった私の家は私の居場所となる。
学校へ行くと、私は4人に色々と設問を責められる。次から次へと止まることの知らない質問は、私を壁に追い詰めていかれ、まるで狼に食われる寸前のようだった。
「待って、落ち着いて! 順を追って説明するから!」
迫り来る4人を制止し、順追って説明をすると言い席に座らせる。
私は昨日何があったかを一から十まで全部丁寧に話し4人はおぉ、と感嘆の声をあげる。
「まさか、そっちからとはね……小説あるあるだよ。葉月」
確かに小説はあるあるかもしれない、告白しようと思ったら、男性側の方から告白をされる。それも悪くなかった。
正直、私は小説のそんなシュチュエーションを見て実際にあり得ないだろうと思っていたが、昨日実際にありえてしまった。
やはりありえないと思ったことは、あり得るのかもしれない、今だって私の身の回りに起きていることはあり得ないと思っていたことばかりで、ずっと夢の中にいるみたいな気持ちになる。
少し怖くなり、白山にほっぺを思いっきり叩いてもらうよう頼むこの中で一番ビンタが強そうだったのが白山だったため、白山に頼む。
「行きますわよ……」
「バッチコイ!」
容赦なく降り注いだビンタは、私のほっぺに赤い痕を残す、すごく痛い。これはどうやら夢じゃなく現実のようだ。痛い……こんな方法で確かめるんじゃなくて、葉月のほっぺをつねってもらえばよかった、私はビンタされたあとにその深く後悔する。
「痛い……」
「手跡綺麗に付いたねー」
葉月は他人事だからって、そんなまじまじ見なくてもいいじゃないか、私はとてつもなく痛いんだぞ。ヒリヒリと焼けるような痛みがほっぺに残る
「おっ、来たよ」
葉月が指さす方には、朝練を終えタオルを首まいた春榊がいた。
どういう顔して会えばいいのかわからない、少し恥ずかしさもあり、顔を逸らしてしまう。嫌な奴だ、この反応は嫌な奴の反応の仕方だ、でも恥ずかしいし。
どうしよう……。
「あっ、雨宮さん〜! おはようございます!」
春榊は、何も気にしてないように私の名前を叫ぶ。
えっ、なんで恥ずかしくないの。手繋いだ時はあんなに耳を真っ赤にしていたのに、今は平然と私に話しかけてきている。
あの時とは立場が逆転している、もしかしてもう余韻がなくなってしまったのだろうか? 今この場で恥ずかしがっているのは……私だけというわけではなさそうだ。よーく目を凝らして見ると、耳の先端が赤いことに気付く。恥ずかしさを押し殺して私に話しかけていることが分かる。
「おはよう」
そうと分かれば、こちらも普通に返せる同じ立場にいると分かれば、平等だからね。何も怖いものはない。私も耳を真っ赤にしているんだろうか、葉月がこちらをすごくニヤニヤとしてみている。
「……葉月。 私も耳赤い?」
「うん、真っ赤」
ニッコリと笑いながら私の耳が真っ赤だと教えてくれる、自分から聞いといてあれだが、そうだったのなら知らなかった方が良かった。
春榊が私の横に座る。
あー、やばい、どうしよう恥ずかしい恥ずかしくて死にそうだ、顔が見れない。まともに顔を見れない、前からかっこいいとは思っていたが付き合った瞬間により1層かっこよく見えてしまい、どうしても顔が見れない。
きついなーくそこんなにかっこよかったっけ、顔を何回か見ようとチャレンジするが、あまりのかっこよさに私の目がやられてしまう。
葉月達はいの間にかどこかへ退散しており、居なくなっていた。
「……久しぶりって言うのが正解かな?」
「2日しか空いてないよ」
まだまだ2日しか空いてないが、これで久しぶりというのならば、1年ぶりに会った時にはなんというのだろうか。四肢が爆散してしまうのでは無いのだろうか。
ぎこちない雰囲気がそのまま続き、ホームルームが始まる。
先生があと1週間で夏休みが始まるぞと、連絡事項を伝える。あと1週間で夏休み、私たちは付き合ってすぐに夏休みがやってくる。一体何をしようか一緒にプールへ行ったり、海へ行ったり、リア充らしいことをするのだろうか。でも私はアウトドア系は、あんまし好きではないので引きこもりたい。
しかし、引き篭ってしまったら何の意味もないじゃないか。頑張って海かプールどっちかには行こう。そう心に固く決心する。
1限目が始まり、私は教科書を出し準備をする。
最近は早起きが板についてきたため、4限目までは全然眠くならなくなった。昼休みになり私は屋上へ行こうと春榊を誘う。
「えっ、うん! もちろん行こう!」
やはりどこか会話はぎこちない。前のようにスラスラとは喋れない。やはり2人とも恥ずかしくて、顔を見て話せない。ちなみに葉月たちは親指をあげ、「行ってらっしゃい」と見送ってくれた。
「どうぞ、おさきにおすわりください」
「私はお姫様か」
ポケットからハンカチを出し、私の座る場所に引いてくれる。私のお尻が汚れないための配慮をしてくれる。
でも、ハンカチが汚れるのは嫌だったからあの紙を取り出す。
「このハンカチはポッケトにしまっておいて」
「……はい」
苦渋の決断を責められたような顔しながらポケットにハンカチをしまい直す。そんなに辛い決断だろうか、私にはわからないがとても辛い決断だったんだろう。
「ご飯いつも、購買で買ってるよね」
「あぁ、うち両親が共働きでさお弁当作ってる暇がないんだよね」
春先はいつも購買の袋を持っており、お弁当を持っている姿を見たことがなかった。そのため聞いてみると両親が共働きで作る時間がないという、これは彼女の私が作ってきてあげる場面なのでは……?
料理の腕は自信はないが、ちょっとしたものなら作れるしお弁当を作ってきてあげよう。お母さんにも手伝ってもらえばそれなりのものが出来上がるはずだろうし、口に合うかどうかは二の次として、今はお弁当を作ってあげることにしよう
「ねえ、私がお弁当を作ってきてあげようか私、どうせ朝早く起きるし、こうやって屋上で食べる時に毎回渡してあげるからさ」
「えっ、本当にめっちゃ嬉しい、お願いするよ」
春榊は屈託の笑顔で笑ってそういう誰かのお弁当を食べるなんて初めてだなんていうそういう顔をする。
昼休みが終わり、私はどんなお弁当を作るか授業中にも関わらず考えていた。卵を入れるか、それとも好きだと言っていたハンバーグを入れるか。ミートボールもいいんだが、どうやって作るんだろう。お母さんに聞いてみれば分かるかな。
お弁当なんて作ったことがないから、いや、そもそも料理なんて作ったことがないから、どうやってものを作るかも分からない右も左も分からない私のお弁当作りは帰ってから、開始されるのであった。
放課後、私は葉月たちに事情を説明し、早く帰らせてもらった。
家に急いで帰り手を洗ってリビングでサスペンスドラマを見ているお母さんに「お弁当の作り方を教えて」という、お母さんは急にそんなことを言われ、何が何だか分からないようだったが、私の顔を見て察したのか誰にあげるのか聞いてきた。
「彼氏にあげるの」
私はそういった。別に言っても困るものではないし、さらけ出しても別にいいだろう。
「あらあら、それは力を入れて作らないとね」
台所へ行き、お母さんと私のお弁当作り大作戦が始まった。まず最初に何を入れるかが肝心だという。生ものは腐るからダメ。そのため腐らない防腐性のあるものがいいという、たとえば梅干しとかそういうのはお弁当に適しているため、よく入れれられているとのことだ。専門的な知識のため、まあよくわからないか、とりあえず腐らなければ何でもいいということだろう。
腐らない物、梅干し、梅干し以外に一体何がある。私も梅干し以外に結局腐るものを考えつかなかった。お母さんはあれやこれやと出してくる。
やはりずっと主婦をしていると、何が腐らなくて何が美味しいか熟知しているらしい。
私はハンバーグが入れたいと言うと、冷凍のものを使えばいいと言われる。冷凍食品すっかり頭から抜け落ちていた……チンするだけで美味しい万能的な食材で、主婦の味方。
家族の弁当には、この冷凍食品一個だけでも完成するという。
「なら、その冷凍食品のハンバーグを入れる」
「彩りも大事よ」
お弁当作りには彩も大好きだと教えられる。茶色一色だと見舞いが悪くて、食べる気が失せるが、野菜も入れると彩りが綺麗になって、食べる気が増えるという。
食欲を旺盛にさせる力があるとやらなんとやら。しかしあいつは野菜が好きなのだろうか、私はアイツの何も知らない。好きなものはハンバーグウインナー、それだけしか知らない、何とも少ない情報だ悲しすぎる
彩りも考え、プチトマト入れることにする。これなら美味しいだろう、私も大好きだし
お弁当なんとか作り終え、明日に備える。
私はお弁当を作り終わって疲れてしまったのかベットに横になる。
夜ご飯の時間まで寝てしまった。お父さんに呼ばれてリビングに行くと、お父さんがチョコレートケーキを買ってきていた。
駅前に美味しそうなケーキ屋があったから買ってきたということらしい。食後のデザートにみんなで食べようと、昔のお父さんなら考えられなかった行動と言葉だ。
でも今目の前にいるのは、変わろうとしているお父さんだ。なのにいつまでも昔のお父さんを見ていていたらダメだ。
今を見なければならない。変わろうとしている人の昔ばかり見て、目を背けるのは良くない。ちゃんと変わろうとしているところを、見なければならない、それが私の務めだ。
次の日私はお弁当に鞄に入れて学校へ行く
「何それ」
パンパンに膨れ上がった鞄を不思議に思って葉月が、と聞いてくる。
「私は教えない」
私言ってしまったら冷やさかされると思い、はぐらかす。葉月の性格がだんだんと分かってきた。大人しそうに見えて意外と、大人しくない。昼休みが来るまではこのお弁当は隠し通そう。
昼休みになり屋上に行き、春榊にお弁当を渡す。
「私が丹精込めて作ったお弁当。 美味しいかは分からないけど、食べて」
「うわあ! 美味しそうだ!」
大袈裟に、美味しそうだと反応してくれる。お弁当に付いておいた割り箸を割り口にお弁当をほおりこむ。
美味しいかどうかドキドキしながら見ていたら美味しいと、言ってくれる。よかった作った甲斐があった。
私たちの頭上には青く澄み渡った空が浮かんでいた。私の心は、もう澄み渡っている。
雲ひとつない晴天で私は君に恋をした。 青いバック @aoibakku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます