シュールでも恐怖は恐怖……。

意外にも都市伝説とは突拍子のないことから始まったりする。口裂け女や人面犬も今でこそ恐怖の対象だが、それも徐々に時代を経ることで、不定形な存在が型をなしてきたのである。

人面犬なんてちょっとだけ角度を変えて見てみたら相当にシュールな存在だ。私は口裂け女や人面犬といった都市伝説がまことしやかに囁かれる時代を生きてきたわけではない若輩者だが、それらの中にはきっと笑いの種になったものも多いのだろう、とも思う。「ねぇ、こんな噂があるんだけれど……」と語る者たちの表情は存外に明るいものだったのではないだろうか。

「ヒールを履いたお菊さん」という発想も突拍子のないシュールな印象が伴うが、それがいつしか恐怖の対象となるかもしれない。笑いが恐れに転換する瞬間は語り手の技術に委ねられていたりするものなのだ。その点において、作者様は優秀な語り手であると言えよう。この作品が時を経て、新たな都市伝説として語り継がれる可能性もあるのかもしれない……。