あかいきつねとみどりのたぬき
望月くらげ
あかいきつねとみどりのたぬき
あたしにはすきなものがいっぱいあるの。
ママでしょ、パパでしょ。それからおともだちのみきちゃん。
あと――。
「ねえねえ、みきちゃんはどっちがすき?」
「どっちって?」
おすなばではんたいがわからトンネルをほっていたみきちゃんがくびをかしげた。そのポーズすっごくかわいい! こんどあたしもマネしなくっちゃ!
ってそうじゃなくて。
「もちろんあかいきつねとみどりのたぬき、だよ! ね、みきちゃんもやっぱりみどりのたぬ――」
「わたしはあかいきつねのほうがすきかな」
「なんでそんなこというの!?」
ようちえんのえんていにあたしのこえがひびいた。
せんせいがびっくりしたかおをしてこっちにくるのがわかったけどそんなのしらない。
「だ、だって!」
なきそうなかおでみきちゃんがあたしをみる。でもなきたいのはあたしのほうだよ!
「ゆなちゃん、みきちゃんどうしたの?」
たんにんのアザミせんせいがしゃがんであたしたちをえがおでみてくる。そんなかおにごまかされないんだから。
「もうみきちゃんとはぜっこうだから!」
「ゆなちゃん……」
みきちゃんのおおきなめからなみだがでてきたのがみえて、ちょっとだけこころがいたくなる。
でも、でもみきちゃんがわるいんだもん。
「たぬきのほうがいいっていうまでくちきかないんだから!」
「たぬき?」
「せんせいはあかいきつねとみどりのたぬきどっちがいい!?」
「え、赤いきつねと緑のたぬきって……おうどんとおそばの?」
「それいがいになにがあるっていうの?」
あたりまえのことをきかないでほしいの。あかいきつねとみどりのたぬきっていったら、おうどんとおそばにきまってるじゃない。
あたしはぜったいにみどりのたぬきはなの。あかいきつねもたべたことあるけど、おだしのわふうをあのきつねのあまさがダメにしてるとおもうの。
それにくらべてみどりのたぬきはかんぺきよ。てんぷらがおだしをすってやわらかくなったところをかじるのもおそばといっしょにくちにいれるのもいいとおもうの。
そうアピールするあたしをアザミせんせいもみきちゃんもおくちをあけたままみつめてたの。そんなんじゃおくちのなかにむしさんがはいっちゃうよ?
「えっと、そうね、先生はどっちも好きよ?」
「どっちもなんてちゅうとはんぱなこたえはダメよ! ね、どっちがすき?」
「え、ええー……。ゆなちゃんは難しい言葉を知ってるのね」
「これぐらいふつうよ。パパとママがいつもはなしてることだもん」
パパはゆうじゅうふだんっていうのらしくてママがよく「ちゅうとはんぱなことばっかりいってないではっきりして!」っておこってるの。でもホントパパってばゆうじゅうふだんでこまっちゃう。このあいだだってふたりでカフェにいったのにパフェにするかサンデーにするかでずっとまよってるんだもん。けっきょくあたしがたべたいっていったからアラモードになったんだけど。
でもパフェとサンデーとアラモードのちがいってなんなんだろう? こんどママにきかなくっちゃ。って、ちがうの!
「それで、アザミせんせいはどっちがすきなの? やっぱりみどりのたぬきよね? おとなはみんなおそばだいすきでしょ?」
「そうねー先生はどっちも好きだけど、うーん。どっちかって言われたら」
そこまでいうとアザミせんせいはあたしとみきちゃんのかおをみくらべた。
わかる。これはどっちのほうをとればこのはなしがえんまんにおさまるかかんがえているかおよ。
「もういいっ!」
「あっ、ゆなちゃん!」
あたしはふたりをおいて、おきょうしつのほうにむかった。もうしらないんだから。
そのひはけっきょく、みきちゃんとおはなしをしないままようちえんのじかんがおわった。さびしくてかなしくて、でもあたしはわるくないからごめんなさいをいうきにもなれなくて、ふくざつなきもちだった。
「ゆなちゃん!」
かえりのごあいさつのあと、ママのところにいこうとしたあたしにみきちゃんがこえをかけてくれた。けど、あたしは「ふんっ」ってしてママのところにむかった。
ママはアザミせんせいとなにかをはなしてたみたいだけど、あたしがきたのにきづくと「おかえり」といった。
「ね、みきちゃんと喧嘩したの?」
「けんかっていうか、べつにそんなんじゃないもん。そう、かちかんのそういってやつよ」
「意味わかって言ってんの?」
あきれたようにママはわらう。ばかにされてるきがしてあたしは「もちろん」とむねをはった。
「あたりまえじゃない。あたしがたいせつにおもってることとみきちゃんがたいせつにおもってることにはちがいがあるってこと、でしょ……」
いいながら、こえがちいさくなる。そうだ、ちがってあたりまえで、あたしがすきなものをぜんぶみきちゃんがすきじゃなきゃいけないりゆうはないんだもんね。
「…………」
「ねっ、みきちゃんがお蕎麦じゃなくておうどんがいいって言った理由は聞いた?」
「りゆう? ……きいてない」
「理由も聞かずに怒っちゃったの?」
「だって……みきちゃん、なにもいわなかったし……」
……ううん、ちがう。あのときみきちゃんは「だって」となにかをいいかけてた。それを「もういい」ってきかなかったのはあたしだ。
「みきちゃん、もうあたしのこと、きらいになっちゃったかな……」
「それはみきちゃん本人に聞いてきたら?」
ママがにっこりとわらってあたしのうしろをみた。あたしもそっちをむくと、そこにはみきちゃんがいた。
「あの、ね!」
あたしがなにかいおうとするよりもさきに、みきちゃんはぎゅっとてをにぎりしめたままくちをひらいた。
「あたしね、おそばアレルギーなの!」
「おそば、アレルギー?」
「うん、だからねみどりのたぬきはたべられないの。だから、えっと、その」
「……そうなんだ」
おそばにもアレルギーがあるんだ、とあたしはビックリした。それじゃあたべられなくてもしかたない。そっか、なんだ。
「……ごめんね」
「え?」
「しらないのに、もうくちきかないとかいって」
「ううん、わたしのほうこそちゃんといわなくてごめん!」
あたしたちはぎゅっとてをつなぐとかおをみあわせてわらった。
「ねっ、いまからうちにあかいきつね、たべにこない?」
「えっ、いいの?」
「ねえ、ママ! おうちにあかいきつねあったよね? いまからみきちゃんといっしょにたべたいの」
「えー? あんた緑のたぬき派だったじゃないの?」
「みどりのたぬきすきだけど、でもみきちゃんといっしょにたべたいからきょうはあかいきつねなの!」
「はいはい」
あきれたようにママはわらうと、みきちゃんのママに「このあとなんだけど」とこえをかけにいった。あたしたちはかおをみあわせるとくふふとわらった。
***
「おいしい!」
ばんごはんがたべられなくなるからって、おうどんとおあげをはんぶんこしてみきちゃんとたべた。
あまくておだしとあわないとおもっていたきつねは、どうしてかな。きょうはとってもおいしいの。
「どうしたの?」
「んーん、なんでもない」
となりでわらうみきちゃんをみて、もしかしたらいっしょにたべたからかなっておもったけど、ちょっぴりはずかしいからわらってごまかしちゃった。
「あのね、あかいきつねすっごくおいしいね」
「うん!」
あたしのすきなもの。
ママとパパ。それからみきちゃん。
あと、
あかいきつねとみどりのたぬき!
あかいきつねとみどりのたぬき 望月くらげ @kurage0827
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