第20話 Emergency alert③ 〜精霊の過誤〜

 男子生徒2人は一瞬で戦闘態勢に移行した。左右にばらけながら反転する彼らに、まるで衝撃波のような暴風が襲う。旋風は冷気を含みさらに圧縮され高速で叩きつけられるため、2人の身体を鈍的、鋭的に痛めつけられる。


「なんじゃ、こりゃ〜!」


ひと昔前のリアクションをしつつ、真琴は右前腕に負った切り傷を左手で圧迫し茂みに飛び込んだ。


 前腕の傷は出血量の割には意外に浅かったが、創縁には霜のような結晶が付着していた。


「凍える風か……」


 独りごつと、彼は茂みの中から顔を半分だし状況を確認した。先程の鳴き声の主であろう怪鳥は、地表から5mほどの位置でその長い羽根と尾を優雅に靡かせながらじっとこちらを見ているようだった。

 

(師匠は、大丈夫か?)


 真琴は滝川の方に目をやる。滝川も同様に無数の裂創をおっていたがどれも致命傷になるような傷ではなさそうだった。


(下の奴らは?)


 丘の下の温泉にチラッと目をやる。湯気が立ち上り正確には分からないがそこに人の影はなさそうであった。


(よし、退避してるな)


 周囲の状況を把握すると彼は青白い鳥に目を向けた。


(おそらくあの長い羽根を高速で羽ばたかせることで空気砲のような風を発生させているのだろ。あの尾ひれはなんだ? 冷気を纏っているのか。なるほど、冷気でキンキンに冷えた大気をこちらにぶつけてきた訳か)


 分析を行なっている間も眼前を羽ばたく鳥に、真琴は少し違和感を覚えた。攻撃されているのに不思議と悪意や敵意は感じず、むしろ暖かさすら感じていた。

 こちらを見るなり襲いかかってくるクチナワのような異形態とは違う。


「こいつまさか……」


 真琴が可能性を考え始めた時、ピィ〜っと青い鳥が甲高い声で鳴いた。



 −なぜまた戻ってきた、子供たちよ−



 頭の中に声が溢れる。それは聴覚に頼らない伝達経路で直接頭に届いた。



 −また戦争を起こすのか、お前らは? 侵略する、奪う、弄ぶ、そして殺す。お前らはいつになってもそうなのか?−



「何、これ? 頭に声が流れてくる?」


 真琴がはっと横を向くとそこには着替え終わった女子生徒3人がそれぞれの魔導器デバイスを構えていた。


「何ですか、この鳥は? 大黒、説明しなさい!」


 赤羽三久は少し強張った表情で真琴に問う。


「やばい、やばい、この鳥まじでやばい! 生命力イーオンの塊みたい感じ!」


 本能的に発せられた未虎優子の言葉が場の空気をさらに重くさせた。


「いつでも逃げれるようにだけはしててね、三久さん。あなたに何かあったら橙山家は…」


 橙山要は自分の背中をじっとりと伝う汗を感じながら前方を睨みつける。



 −去れ。ここには何もない。悠久の時の中で紡がれた想いも全て形骸と成り果ててしまった。今度はにお前らが喰われる番がきたようだな−



 怪鳥は悠然と彼らの頭上を飛び回りなが続けた。



 −50年前の惨劇を繰り返すがいい。愚かしい人間よ。次は我々は協力はせぬぞ。あの時の痛み、憎しみ、そして悲しみ、今ここで吐き出せさてもらう!−



 会話は一方的に途切れ、冷気を含んだ風が頭上から降り注いだ。



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COD99の世界より alicered @alicered

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