No.3
明日は金曜日。莉子はスケジュール帳を見ながら心の中でつぶやいた。土曜日は何をしようかなどという計画性はみじんもない彼女だったが、それでも週末が近づいてくる高揚感は毎週格別なものだった。たとえそれが実際には仕事で埋まってしまったとしてもだ。
電車が停車駅に止まると、莉子は手帳型のスケジュール帳をパタンと閉じて、革製の鞄のすきまにすべりこませた。顔を上げると、目の前の車窓のガラス越しに行きかう人々が目に映った。とくにこれといって心惹かれるものはない。地下鉄のタイルの壁には電光掲示板がはめ込まれ海外の化粧品会社の宣伝ポスターが光っていた。そこに映りこんでいる女の子は驚くほど色が白く、また、形のいい唇は見る人が見れば心の奥底がきゅっと吊り上がるような魅力をたたえていた。
莉子ははこの若い女性の毎日のことを考えた。ねえ。彼女は心の中で彼女に呼びかけた。これだけの美しさの人間の行く末を私は知っている。自分だけがいい思いがしたいという人間に消費されて終わるだけだ。それでも。と彼女は思った。あたえられた役割をこなすのが、人の一生なのだ。莉子がポスターの女の子にそっと微笑みかけると、サイレンが響きわたり再び扉は閉じられ電車は動き出した。
地下道に入ってゆくと、ガラスは車内を映しこみ、そこにはあのポスターの女性とうりふたつの女性が映りこんでいた。隣に立っていた男性は所在なさげにうつむくと、かけていた眼鏡のふちをそっと触った。
「これが私の」
ナンバリングショートショートストーリーズ つちやすばる @subarut
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