2話 焔のように

「――――花音ちゃん!!」

「んうぇ!?」


背中を叩かれて目が覚めた。結構強く叩かれたようで、背中がヒリヒリする。


「も~。また寝てたでしょ!さっきの授業も半生半死みたいな状態だったし」

「ご、ごめん。最近ゲームが楽しくて……」

「夜更かしはお肌の天敵なんだから、夜更かしは程々にね。花音ちゃんお肌綺麗なんだし~」

「あ~」


私の頬をムニムニしてくるこの子は、立花歩美たちばなあゆみちゃん。同じクラスで薙刀部に入っている。なかなかにモテている。


ちなみに私の名前は山ノ井花音やまのいかのん。陸上部に所属している普通の高校生だ。


「もっと起こすときの威力を下げてくれると嬉しいんだけど……じゃないと私の背中がトマトみたいになりそう」

「しょーがないじゃん。花音ちゃんゆすっても全然起きないしさ」


歩美ちゃんはなかなかアグレッシブな子だ。薙刀部なせいなのか力も強い。マウントを取ろうとしても逆にマウントを取られてしまう。


「それで?どうかしたの?」

「あ、そうだった。今日さお弁当忘れてきちゃったからさ、購買一緒に行こうよ」

「いいよ。ちょうど私もコーヒー牛乳飲みたかったし」

「よーし、それじゃあさっそく行こー!」

「あちょっと、引っ張らないで~」













購買の前に着いた。無理矢理腕を引っ張られたので肩が痛い。


「あー!もう、花音ちゃんが寝てたせいでハムパン売り切れちゃったじゃん!」

「歩美ちゃんの運が悪かったせいでしょー」


歩美ちゃんが肩を落とした。この学校のハムパンは生徒に人気だからね。1、2時間目の間に買いに行かないと直ぐに売り切れてしまう。


「も~。私は一体何を食べればいいのよ!」

「私コーヒー牛乳買ってくるー」

「無視するなー!」


歩美ちゃんがぷりぷり怒っているのを横目に私はおばちゃんにお金を渡したのだった。











「それでさ~」

「うんうん――あっ」


教室に戻ってる途中、嫌なものを見てしまった。


「――んで?金は?」

「その……今日は無くて……」

「えー?ないのー?なんでー?」

「その……その……」

「ちゃんと言えよ。言わないと分からないだろ?」


寄ってたかって数人で1人の男子生徒を虐めていた。言動的に金をせびっているとかなんだろう。


「……ちょっとこれ持ってて」

「あっ花音ちゃん――」


虐めている奴らに近づく。私はこういうのを絶対に見逃せないたちだ。いじめとか見て見ぬふりをすることはできない。


「財布よこせよ」

「それは……」

「はーやーくー寄越せよー」


何度も男子生徒の肩を叩いている。……ダメだイラつく。




「早く渡しなよ。あんたが昨日渡してくれるって言ったんじゃん」


女の子。……あんまり関わりたくないけど、こうなっては仕方ない。


「さっさと寄越――」


財布を取ろうとした女の子の手を掴んだ。できるだけ強い力で腕を握る。


「やめなよそういうの」

「花音かよ。お前には関係ないだろ。どっか行け」

「なら金取るのはやめて」

「なんの権限があって君が命令できるのー?」


周りの奴らがガヤガヤ言ってる。鬱陶しいな。


「……腕離して」


握っていた腕を振るわれて、手を離してしまった。


「……」

「……」


女の子と見つめ合う。いつ攻撃が来てもいいように、少しだけ構えた。














「――行こ。喧嘩しても無駄だし」


女の子が私から目を逸らして、歩いていった。


「あ、待てよ」

「ちっっ、後で来るからな」


取り巻きの男たちも女の子に着いていくようにして走っていった。




「大丈夫?」

「う、うん」


カツアゲされていた男の子に目を向ける。メガネをかけてなよなよしている。いかにもカツアゲをされてそうな子だ。偏見だけど。


「こういうのは先生に言うんだよ。対処してくれると思うから」

「うん……分かった」

「じゃあね」


もうちょっと気を強く持てたらカツアゲなんてされなくて済むのに。













「花音ちゃんは凄いね……あんな不良がいる所に突っ込んで行くなんて」


歩美ちゃんと階段を歩きながらそんな会話をしていた。


父の影響か知らないけど、昔から私は正義感が強かった。小学生の時はセクハラしてくる教師を蹴り倒したし、中学生の時はいじめっ子を病院送りにしてやった。


まぁそんなことばっかりしてたから、あんまり友達がいない。お父さんの仕事が仕事だからすぐに引越しをするっていうのもある。


だからこんなことをしてても仲良くしてくれている歩美ちゃんには頭が上がらない。


「……別に。そんなに凄くないよ。それに、どうせ私の方が強いし」


これが事実だ。最近ちょっと調子に乗ってきているのは自分でも分かるが、事実は事実だ。


「あーそっか。確か花音ちゃんのお父さん自衛隊の偉い人だったね。だったらあれ?CQCだっけ?そんなの習ってるの?」

「私は習いたかったんだけどね。お父さんが『花音には危ないことはして欲しくない』って言うからさ、教えてくれなかったんだよ。教えてくれたのは護身術だけだよ」


お父さんのことは好きだけど、そのことだけは根に持ってる。


「護身術って例えば?」

「例えばって聞かれると困るな……まぁ柔道とか合気道とかかな」

「えー!かっこいい!暇な時私にも教えてね」

「暇で暇でしょうがない時に多分考えておくよ」

「もー!約束だからね」


コーヒー牛乳にストローを刺しながら、私はそんな会話をしていた。

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catastrophe アタラクシア @tamasama

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