第3話 シャンボール砦防衛戦③

 北方ハイデラルから、全員銃で武装した3千名のドワーフ兵が、敗残兵321名+1名が立て篭もるシャンボール砦へ進軍中。どうやら地図を手に入れられなかったようで、警戒と測量がてら、ゆっくりと30kmの行程を進軍中との報告内容は、すぐに連隊員全員と共有し、早速作戦会議を開く事とした。


 指揮官詰所に周辺地図が広げられ、ジークフリート大尉が書き込めるだけの情報を書き込む。本来であれば、参謀がもう2人ほど欲しいところであったが、2人での作戦会議となる。


「初陣が約10倍の敵兵との戦いとなるとは…腕が鳴るが、まずは敵を知り、自分達が置かれた状況を把握しなければ元も子もない。状況を整理しよう。」

「ハッ!シャンボール砦周辺の地図に、偵察で得た敵の位置、それと細かな地形についても書き込んでおりますので、ご覧下さい。」


 敵の進軍速度は、測量がてらの進軍のために時速にして2キロほど、さらに昼の出発で道中の野営道具も持参している所を見ると、明日の夕刻には砦の物見櫓から姿を確認出来るだろう。続報として、さらに後ろには500人規模の輜重隊が空の荷車と共に付き従って行軍中との事であった。


「敵は明日夕刻にはシャンボール砦へ辿り着くだろう。事前準備をするとしたら、猶予はこの1日しか無い。味方321名対3千名プラス30km北に57,000名の敵…王都の士官学校なら、即時撤退しろと教わる状況だな。」


 冷静に口に出すと、絶望的状況だなぁ…この木造砦も築200年、改築される事も無かった様で、あちこちにガタが来ているし…街道の西30mの、標高30mほどの小高い丘に建っていて、街道側からの傾斜は結構あるし、反対側は50mの崖になっているから、守りやすくはあるんだが…


「真の目的は、ここから南3キロにある、シャンボール伯爵領の穀倉地帯か…ハイデラルに駐屯する6万の軍勢の食糧確保が彼らの任務なら、我々は彼らを撃破、もしくは釘付けにしなければならないな…」

「仰る通りです。ハイデラルの敵は2個師団、それぞれ3万ずつの大軍です。アレだけの規模の軍団を維持できる食糧の確保は、山脈だらけの東大陸では困難だったはずですので、現地徴発にはかなり力を入れてくるかと思います。」


 東大陸のドワーフ王国は豊富な鉱物資源を産出するが、ほぼ耕作に適した土地が無く、加工した鉄鋼などを中央大陸に輸出して、交易で食糧を確保していた。しかしドワーフ帝国とは戦争状態であるため、帝国は食糧を確保出来ずに、徐々に干上がっている状態であり、それが東大陸北部に追いやられたドワーフ王国を攻めきれない理由でもあった。


 今回の帝国によるハイデラル奇襲上陸は、主に食糧確保を狙ってのものと見て間違いない。しかし幸いな事に、ハイデラルに集まっていた食糧は、帝国軍奇襲上陸の3日前に、ドワーフ王国へ向けて出港した船団に満載されていたため、見事に空っぽであったわけだが。


 ともあれ、まずは目前の脅威についての対処だ。帝国との実戦経験のないオレでは、わからない事だらけなので、ジークフリート大尉に、帝国軍の実態を解説してもらう事にした。


「帝国軍の主力は、小銃と斧、重装鎧を装備した戦列重装歩兵です。彼らの小銃は射程距離100m程ですが、我々の鎧を簡単に貫通します。平原での会戦では、彼らは三列の横陣で100mの距離で次々と撃ち始め、トドメとばかりに斧を装備して突撃を仕掛けてきました。我々の小銃では、20mの距離でやっと彼らの鎧を貫通できますが、その距離まで近付いたらもう、数秒後には斧の餌食でした。エルフ族の弓ならば、城壁の上からなら200mの距離から彼らの鎧を貫通出来たので、我々がフローレンシスで負けなかったのは、専らエルフ族主体の救国義勇軍第2師団のお陰でしたね。」


 ほぅ、こちらの射程外から3段構えで鶴瓶撃ちをかまして、弱ったところに重装鎧で身を固めて斧で突撃か…信長も真っ青だな…


「敵の装填速度はどの位か?」

「平均、一発30秒と言ったところです。魔石粉は、微量な間違いで暴発事故に繋がるので、名人でも一発20秒だと聞いています。」


 三段構えならば、10秒に1発弾丸が飛んでくるわけだ。接近戦に持ち込む前に激しく損耗して、そこに小銃を斧に持ち替えた屈強なドワーフが襲い掛かってくるのだ…野戦じゃより射程と威力の上廻る新式銃でも出来ない限り、勝てないな、こりゃ…


「それでは、帝国軍の構造を聞かせてくれ。」

「分かりました。全容は掴めていませんが、組織的な話としては、一般兵、尉官、佐官、将官の構造は、王国軍と共通しております。500名で大隊を構成し、3個大隊1,500名で一個連隊、20個連隊30,000名で1個師団を構成しており、目的に応じて数個師団で軍団を形成します。フローレンシスの前線には、常に5個師団が張り付いて居ました。今回のハイデラル奇襲も、2個師団で構成された軍団によるものと思われます。」


 フローレンシスには、常に15万人も張り付いているのか‼︎それは…ちょっと突破は難しいな…


「尉官や佐官、将官は、それぞれ鎧に特徴はあるか?」

「はい、一般兵は黒く塗られた鋼鉄製鎧ですが、尉官は赤銅色の鍍金、佐官はミスリル製、将官はミスリルに金の鍍金が施された鎧を着用しており、エルフ族の狙撃兵でも、佐官以上の鎧は撃ち抜けませんでした…」


 なるほど…佐官以上が生きていれば、万全の指揮体制が執れるのか…ふぅむ…コレはちょっと、婚約者殿、それと義父さんに相談だな。


「大尉、貴重な話、ありがとう。少し休憩にしよう!疲れているところ済まないが、腹が減ってしまってな。歓迎会もお流れになってしまったし、晩飯を持ってきてもらっても良いだろうか?」

「了解しました!少々お待ち下さい!」


 大尉の退室を見送り、おもむろに右ポケットに入れていた小さな水晶玉に魔力を通す。するとドタンドタッ‼︎バタンッ‼︎と慌ただしい音が聞こえ出してすぐにホログラムが浮かび上がり、我が愛しの婚約者殿と義父になる予定のポワティエ公フィリップが、なにやら格闘している姿が映し出された。


「…………」

「どいてお父様!ちょっとコノックを助けるために、3千人ほどヤッてくるだけだから‼︎」

「や、やめ、やめてくれ!冷静に!な?冷静になろうラベリア‼︎心配して親子で盗聴してたのがコノックにバレたら、『俺の娘が欲しければ、手柄の一つでも挙げてこい‼︎』ッて大見得切った父親としての立場が無くなるし、お前も世間から魔王呼ばわりされちゃうから‼︎」

「…………」

「大丈夫よお父様‼︎目撃者も消せば、問題ないわ‼︎きっと‼︎多分‼︎ほらそこのコノックも賛成して…る……」

「どわぁッ⁉︎コ、コノックッ⁉︎い、いつから…いやいい‼︎それよりも、ラベリアを止めてくれ‼︎」

「…………」


 今日も我が婚約者殿とそのお父上は元気だ。アハハハ…ハァ…

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