銃とお転婆お嬢様と、たった2人の魔法使い
カゼタ
第1話 シャンボール砦防衛戦①
「一発の銃弾が、お前さんの人生の無慈悲なピリオドになる。ここはそんな、明日をも知れねぇ哀れな男達の溜まり場さ。だから毎晩、今日生きている事の確認と、明日の自分への葬式を挙げるために、馬鹿騒ぎをする…それが、お前さんの志願した『軍隊』ってヤツの日常なのさ」
オレの肩を叩き、片側の頬だけひん曲げて、宿舎の案内人はドタドタと去って行った。ホコリが舞い、蝶番のイカれたドアは、ギィギィと音を立てるが、そんな音も、オレの背後のバカ騒ぎに掻き消される。
ため息一つ。オレは義勇軍少佐の階級章をポケットから取り出し、首にかける。連戦連敗、遂に指揮官まで戦死したこの連隊に、今日付で配属されたのだが、士気の低下は著しい様だ。上官の到着にも気付かないとは…自由と平等、誉高き王家の為に立ち上がったハズの義勇軍の面々の乱痴気騒ぎに、一歩を踏み入れた。
腰のホルスターから取り出した短銃を、おもむろに上へ向かって一発ぶっ放す。これが騒ぎを収める1番スマートな方法だ。
ッダァーーンンン‼︎
…ちょいと魔石が多過ぎたな。クール顔を決め込んでるが、ぶっ放した銃を持ってる右腕、メッチャプルプルしてるもの…うわ、木屑降って来たし!
一気にシーンと静まり返った宿舎食堂の一同に向け、大音声で名乗る。
「初めまして諸君ッ‼︎私は本日付けでこの救国義勇軍・第3師団第五連隊の連隊長に任じられた、コノック・サンダーブレーク義勇軍少佐であるッ‼︎一同、直ちに宿舎前に整列せよッ‼︎それと、副官たるジークフリート大尉の姿が見えないので、至急救護室から呼び出す様にッ‼︎以上、直ちに掛かれッ‼︎」
一瞬の間も無く、ワッと全員が行動に移ったところを見ると、流石に前線で視線をくぐり抜けて来た連隊だけあると、感心した。
ふと気配がしてそちらを振り向くと、左前頭部右眼を負傷し、巻いている包帯も痛々しい、大尉の徽章を首から下げたドワーフがやってきた。恐らく彼が副官のジークフリート大尉だろう。顔のあちらこちらに古傷が目立つ、立派な顎髭を蓄えた、精悍な青年だ。彼はオレの目の前に辿り着くと、見事な敬礼と、名乗りを上げる。
「出迎え遅れて申し訳ありません!救国義勇軍第3師団第五連隊副官のジークフリート大尉であります‼︎少佐には、早速隊員の見苦しい点お見せしてしまい、汗顔の至りであります!」
気配感知で、先の撤退戦の治療中であった事は承知していたが、軍隊において上官の着任に立ち会わないのは副官として拙い。その為の呼び出しであった。こちらも返礼して名乗りを上げる。
「出迎えご苦労!本日付けで救国義勇軍第3師団第五連隊長を拝命した、コノック・サンダーブレーク義勇軍少佐だ。先のハイデラル撤退戦で戦死されたヴィオレル中佐の後任として、シャンボール砦防衛の任務に当たる。引き続き副官として、よろしく頼む。」
「ハッ!了解致しましたッ!」
軍隊という集団の中での挨拶が終わり、双方敬礼を解く。此処からは個人個人の交流の時間だ。これから命を預け合う事になるのだ。赤心なく交流する事を心掛けたいな。それにしても、酷い怪我だ…
「…怪我の治療中に済まなかったが、これも軍人の務めだ、堪えてくれ。…と、本当に酷い怪我だな。済まないが、『ヒール』を使っても良いか?」
「‼︎‼︎⁉︎ッ‼︎ま、魔法ッ⁉︎隊長は魔法が使えるのですかイタタタッ⁉︎」
魔法と聞いた瞬間、ジークフリート大尉はクワッ‼︎と両目(負傷して包帯の下の目も)を見開き、痛みに悶絶するハメになっている。オレは苦笑して、『ヒール』を無詠唱で使ってみせたのだった。
痛がっていた痛みが急に無くなると、脳は大混乱をきたす。ここ300年、とあるドジっ子大賢者の手違いで魔素が失われたこの世界では、一部の強大な龍族を除いて、誰も魔法を使えなくなってしまったのだ。ジークフリート大尉は経歴に310歳と書かれていたので、まぁ、300年振りの『ヒール』に、脳の理解が追いつかず、「ほぇ?ふぇ?あららら?」などと、面白い反応を返してくれたので、思わず吹き出してしまった。
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