第5話

鳥居の下に、狐の姿の相棒がいた。


「なぜ解いた? ずっと一緒にいられたろうに」

「ポロンが母親に会えなくなる。人は人と一緒が幸せだ」


赤いきつねが答えると、相棒はとっても奇妙な顔をする。


「あれは人ではない。ときどき、まるい尻尾がぽろんとはみ出していた」

「なにを、言っている……。あやかしがあんなに早く大きくなるか」

「狸なら三年ほどで大人になる。騙されたな」


確かにポロンは、最初の三年で背丈が伸びて、ここ何年かは変わらない。


「……子供に見えた」

「でも着物の人間に化けられたら、一人前さ」


ポロンはどうして隠した。どうして人のふりをした。

相棒はつまらなそうにあくびした。


「狐と狸は争ってばかり。去年初めて狐が狸に負けたから、ますます狸は嫌われた。あの子は狐のお前に嫌われたくなかったのさ」

「狸を嫌ったことは無い」

「それをあの子は知らぬのよ」


相棒はそれだけいうと、ひょいっと奥の社に姿を消した。


赤いきつねは鳥居から階段下を見下ろす。

うどんの温かさは、未だに体の奥に残っている。


本当の自分を知られたら、夢は壊れる。約束も思いも消えてしまう。

そんなものだと思っていたのに、この苦しさはなんだ。


ああ。お前に会いたいよ。

来年、お前は来てくれるのか?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

狐と約束 楠城コレ @keymaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ