入社一か月で妊娠はめでたいことではあるのだが

URABE

新卒、未婚、入社後すぐに妊娠発覚…


「入社したばかりの子が妊娠したんで、今月末で辞めることになったよ」



苦労して採用した従業員が、入社から一か月も経たずに妊娠が発覚。顧問先の事業は国家資格が必要な業種のため、新たな人材を探すとなればさらに時間と金がかかる。会社マターで考えれば大きな痛手だし、期待外れにもほどがある。

だが社会的にみればめでたいことであり、産休や育休制度を使って子育てと仕事の両立をサポートしてあげたいところ。


しかし、人材不足に悩み多額の費用をかけて採用した従業員が、入社からわずか一か月で妊娠し、それに伴う体調不良の欠勤が続いている。ましてや交代要員がいるような大企業ではなく、事業主と従業員4人の小さな事業場だ。


その結果、共に働く従業員らの不平不満が膨らみ、事業主も困り果てているのが現状。



「このまま産休に入られるとこちらの仕事が成り立たない。新たなスタッフを雇うから、引き継ぎをしたら退職するよう説得したよ」



そう電話があったのはつい先ほどの話。これを聞いて私は驚いた。てっきり、従業員のほうから退職を依願してきたのだとばかり思っていたが、どうやら会社から退職の話を持ち出した様子。



――これは大問題だ。



男女雇用機会均等法第9条では、


「女性労働者が婚姻、妊娠、出産したことを理由に、退職する内容の規則を定めてはならない」


「女性労働者が妊娠、出産、産前産後休業の取得やその他これらにまつわる事由で、解雇や不利益な取扱いをしてはならない」


「妊産婦に対してなされた解雇は、これを理由とする解雇は無効とする」


と定められている。そしてどんなに本人直筆の「自己都合による退職届」があろうとも、後々トラブルが発覚した場合には事業主は完全にアウトである。


とはいえ、事業主にとってこの板挟みはリアルに辛いところ。さらに妊娠した従業員は未婚で新卒(中途)採用のため、本人も含めてまさかの妊娠でもあった。



ちなみに、当該従業員の雇用保険被保険者期間は1か月しかないため、育児休業給付金の支給を受けるにはあと11か月の就労期間が必要となる。産前産後休業を挟めば、11か月の確保はさらに先延ばしとなるだろう。


さらに現時点で体調不良の欠勤が続いていることから、労働条件の見直しが必要となる可能性もある。もしも労働時間・日数の短縮によりフルタイムからパートタイムへ変更となると、社会保険の加入要件から外れ、自ら国保・国年に加入しなければならない場合もある。

社会保険を喪失するということは「出産手当金」の受給ができない。そして労働せずに収入を得る手段を失うことは、少なからず子育てにも影響を及ぼすだろう。


入社一か月、22歳の若さでシングルマザーの道を選ぶのかどうかは不知だが、当該従業員にとっても会社にとっても、手放しでは喜べない状況となってしまった。



そして今回、最も問題視されるのは「既存の従業員たちの、爆発寸前のストレス」にある。



女性従業員4人の職場へ新たに入社してきた当該労働者、まだ仕事も覚えていないうちに妊娠、欠勤。どんなにめでたいこととはいえ、他の従業員にとっては失望と不満が爆発寸前まできている。

もしも新入社員の仕事ぶりが良く、十分なコミュニケーションが図れていたのであれば、今回の対応に多少の違いが出たかもしれない。だがこの辺りが思わしくない場合、それは大きな不満となって事業主へ投げつけられる。



「初日から遅刻、仕事は手を抜く、あげくに妊娠なんて都合よすぎませんか?」



こちらは妊活中の既存従業員からの発言だ。職場への負担も含めて計画的に妊娠を進めていた彼女にとって、今回の一件は見過ごすことができない様子。

そして事業主は「妊娠を理由に退職を促してはならない」ため、新たな従業員を雇うこともままならない。そんな都合のいい人材がスポットで現れるほど、世の中甘くはないからだ。



なによりも一番恐れなければならないのは、この件を機に優秀な人材が離れてしまうことだ。かといって妊娠した従業員を邪険に扱うことなど当然できないため、会社としては中途半端な状況が続く可能性がある。



まずは、妊娠した従業員の退職を改めること。そして今後、どのような働き方が可能なのかを確かめること。その上で、新たな従業員を雇用するのかどうかを検討すること。これ以外に方法はない。


もっと言うと、当該労働者がシングルマザーではなく結婚を選ぶことで生活環境が安定する可能性もあるだろうし、疎遠となっている両親との和解が新たな道を切り開く可能性もあるだろう。

単に就業場所での問題というだけではなく、プライベートの整理も必要なのではないかと個人的には思う。



いずれにせよ血の通った法律などないわけで、人間同士のいざこざを完璧に解決するには、どこかで「気持ちの落としどころ」が必要となるのだ。


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